43 Go west

〈日曜日午前三時五十分 シャモ宅〉 


〔シ〕「『白蛇しろへび塚守つかまもり』って、何だこの検索結果。まるで使えねえ」

 生霊退散いきりょうたいさんのろい、キリーク、マインドコントロールなどありとあらゆる検索ワードをぶち込んでいるうちに、部屋の窓の外がわずかに明るくなってきた。


〔シ〕「マジでオワタ。結局白蛇しろへび塚守つかまもりって何だよ怖え。餌たちにジジババも好き勝手言いやがって」

 寝ぐせもそのままにパーカーにチノパン姿でコンビニへと出かけたシャモは、日の出の気配をかすかに示す東の空を見上げる。



〔シ〕「平川さん、久しぶりっす。暇そうっすね」

 徹夜明けで回らない頭を抱えながらふらふらと歩いてコンビニに向かうと、以前のバイト仲間が暇そうにレジ前に立っていた。


〔平〕「ウルせえよ。どうしたん」

〔シ〕「眠れなかったっす」

〔平〕「どうしたよ。また合コン失敗」

 その言葉にシャモはあああああと頭を抱えてレジカウンターに突っ伏す。


〔平〕「マジ超受ける。話聞いてやるからもう十分待ってろや」

 シャモは店先でチーズドッグをかじりつつ、エナジードリンクを飲んで平川を待った。



※※※


 

 ご自慢のバイクにシャモを積むと、平川は第一京浜だいいちけいひんから国道一号へと一路西を目指す。


〔平〕「うおー青春だぜーっ。海は良いだろ」

〔シ〕「どこすかここ。西湘せいしょうバイパス?!」

〔平〕「嫌な事があると、大体バイク飛ばしてここに来るんだよな」

 太陽から逃げる様に西へと進んだシャモと平川は、ヘルメットを脱ぐと砂浜に打ち上げられた流木りゅうぼくに腰を掛ける。



〔平〕「で、オメエの腕に付いてた梵字ぼんじシールは阿弥陀如来あみだにょらいいんだったって。マジ中二病こじらせてんな。どんな設定のゲームだよ」

 笑わないで聞いてくださいと言いながら打ち明け話をすると、平川はひーひーと体を二つ折りにして笑い転げる。



 シャモの苦悩を余所に、あひゃひゃひゃと呼吸困難になりそうな勢いで平川が笑っているうちに、東海道線の走行音が聞こえて来た。

〔シ〕「やべえ学校行かねえと。えっ、無い。スマホ、何で」

〔平〕「今日日曜だろしっかりしろって。スマホ家に置いて来たんじゃね」

 平川のスマホは午前五時三十分と告げていた。



〔シ〕「えっ、平川さん戻らないんですか」

〔平〕「俺ここで朝寝するわ。じゃ、進展あったらまた店来て聞かせろな」

 それきり平川は顔と背中にバスタオルを引いて、一分もしないうちにいびきを響かせ始めた。



※※※



 ヘルメットで乱れた髪をフードで隠したシャモが国府津こうづ駅にたどり着くと、電車の音が近づいて来る。


〔シ〕「やべえ下り電車じゃんこれ」

 あわてて飛び乗った電車が下りだと気づいたシャモは小田原駅で下車すると、長身をかがめて自販機のコーピスソーダを取り出した。



〔シ〕「そうか小田原って新幹線に乗れるんだ。『阿弥陀如来あみだにょらい西方浄土さいほうじょうどあるじ』だっけか」

 初めての小田原駅をきょろきょろと見まわしているシャモの目が、新幹線乗り場への案内板で止まった。



 

※※※




〔サ〕「本物のみのちゃんねるさんじゃ。バチ(とっても)スゴイ」

 広島駅午後一時。

 サンフルーツ広島のレプリカユニに身を包んだ大学生風の男子が、スマホで自分のアカウントを見せながらシャモにあいさつをした。


 岐阜羽島ぎふはじま付近から終点の広島まで『マジ寝』体制のまま運ばれたシャモ。

 駅近くのネットカフェからフォロワーにDMを送った所、一本釣りに成功した『サンフルーツ優勝』さんに車を出してもらうのだ。




〔サ〕「で、どこに行きゃいいんかね」

〔シ〕「ここに行きたいの。車じゃないと無理らしくて」

 スマホを見せると、サンフルーツ優勝さんは首を横に振った。


〔サ〕「そりゃ無理じゃ。手前の道ががけくずれで通行止めじゃけえ。そもそも何でここがええんかね」

〔シ〕「おはらいがしたいんだよ。とびきり強力な奴。出来れば生霊いきりょうばらいで女関係」

〔サ〕「やれんのう。その若さで水子みずこかいな」

 まだ十八歳になったばかりじゃないんかねと、サンフルーツ優勝は眉をひそめる。


〔シ〕「水子じゃないってば。でも恐ろしい勢いで包囲網が敷かれつつある」

〔サ〕「何でわざわざ広島に来たんかいな。鎌倉かまくら縁切寺えんきりでらがあったじゃろう。さすがみのちゃんねるさんじゃ、笑わせるわ」


〔シ〕「何で広島に来たんだか、良く分らないんだよそれが」

 操られるように広島にたどりついたあげく、駅前近くのネットカフェで調べたおはらいスポットに行けなくなったシャモ。

 しばらく考え込んだ様子のサンフルーツ優勝さんは、あっと小さな声を上げた。



〔サ〕「知る人ぞ知るすごい婆さんがおるんじゃ。金は要らんが会えるかどうかは婆さんの気分一つじゃ。予約も取らん出たとこ勝負じゃがどうする」


〔シ〕「マジでっ。連れて行ってお願い。すごい緊急案件なの即時解決したい。いやむしろ時を巻き戻したい」

〔サ〕「会えんかもしれんけど、それでもええかいのう」

 必死の形相ぎょうそうで頼み込むシャモに苦笑すると、サンフルーツ優勝さんは車のロックを外した。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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