32‐3 ハンドスプリングスロー

〈VS平和十三ピンフジュウソウ学園 第二ピリオド〉


〔松〕「平和十三ピンフジュウソウ学園はピヴォ(FW)が八番に変わった位ですか。フォーメーションも第一ピリオドと同じですね」

〔仏〕「八番はまだ一年生じゃねえかな。体の線が出来上がってない感がする」

〔松〕「第一ピリオドの九番に比べると、全体的に細い感じがしますね」


 対する『落研ファイブっ』は【ゴレイロ(GK)天河てんが フィクソ(DF)服部 右アラ(MF)えさ 左アラ(MF)下野しもつけ ピヴォ(FW)長門ながと】の陣容じんようである。




〔粟〕「犬塚いぬづかっ。一皮脱げっ」

 第二ピリオドの中盤を越えても未だ動かぬ試合にれたのか、粟島あわしま監督は大声で叫びながらジャージを脱いだ。


〔三〕「お前が脱いでどうすんだよ」

〔松〕「えーと、八番犬塚いぬづかっと」

 松尾は三元さんげんの突っ込みに取り合わず、淡々とノートにメモ書きをする。



〔多〕「服部君、鶴翼かくよくの陣っ」

 粟島の叫びにつられるように、エキサイトした多良橋たらはしが大声で服部に向かって叫ぶ。


〔松〕「そんな符丁ふちょうありましたっけ」

〔仏〕「聞いてねえぞ」

 果たして服部もきょとんとした顔で多良橋たらはしを見る。


〔シ〕「ちょっと言ってみたかっただけじゃねえか」

〔仏〕「矮星わいせいならその線もある」

 結局大して代わり映えのしないポジションに落ち着いた落研ファイブっだが、良く見ると服部は天河てんがとの距離を若干広く、左寄りに取り直していた。


〔長〕「あれ、八番スペース欲しがるタイプ」

〔シ〕「タワーになれそうな体格じゃねえな」

〔長〕「右と中央は彦龍ひこりゅうとパンダ君に任せて、服部は左をケアするつもりか」

 多良橋たらはしは細かいポジション修正に是とも非とも言わず、黙ってピッチを見据えている。



〔審〕「ピギイイイイイイっ!」

〔三〕「いい加減あの絶叫にも慣れてきたわ」

 三元さんげんが生ぬるい目で第一審判を見やる。



〔松〕「ここで餌さんがファールをもらった」

 松尾が小さくガッツポーズをしたのもつかの間、餌がタッチラインよりかなり離れて位置取りをする。


〔餌〕「ハンドスプリングスローっ」

 スローインの権利を得たえさが甲高い声で絶叫した。


〔長〕「ああまたパンダ君が背中で投げてる! ダメだってそれは」

〔仏〕「止めろっ」

 餌のハンドスプリングスローはボールを地面につける時点でファール扱いとなり、またしても味方から散々なブーイングを浴びる事となった。


〔多〕「試合でやるなって言ったろっ」

〔餌〕「えーっ、絶対見せ場になりますよっ」

〔多〕「対戦相手がな」

〔下〕「えささん戻って!」

 多良橋たらはしとやり合う餌に、下野しもつけが鋭く叫ぶ。


 下野しもつけの危機感空しく、平和十三ぴんふじゅうそう学園はえさがお留守にしたスペースをついて見事なカウンターを決めた。


〔下〕「すぐプレーに戻らないからこうなるんっすよ」

 下野しもつけしかられたえさは、多良橋たらはしに交代を要求した。




〔多〕「こう言う時に限って飛島君が休みなんだもんな。政木まさき、行ける」

 無言でうなずいた仏像の背中をポンと軽く押すと、多良橋たらはしはぶんむくれる餌を出迎えた。


〔餌〕「つまんないっ。遊びなのに何であんなに怒るんだよーっ」

〔松〕「そんなに怒ってませんって」

〔餌〕「怒ったもん。もういい、あっちで用事してるから」

〔多〕「放っとけ」

 えさをなだめようとする松尾まつお多良橋たらはしが制した。



※※※



〔松〕「第二ピリオド残り一分っ。一点ビハインド。まだまだ取り返せますっ」

〔シ〕「ここでメンバー交代か」

 粟島あわしまに背中を押されて、三人の選手が送り出された。


〔松〕「右アラ(MF)、フィクソ(DF)、ゴレイロ(GK)が交代ですか。先発組の疲労を考慮したのでしょうか」

〔シ〕「逃げ切り策か」

 シャモの発言にうなずきかけた多良橋たらはしであったが、シャモは逆神ぎゃくしんである。


〔多〕「PUSH FORWARD上がれえええっ!!」

 粟島あわしまの意図に気づいた多良橋たらはしは、のどもれよと絶叫した。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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