16 初練習試合、決定。

〔多〕「Rejoyce喜べ! 三週後に練習試合が決まった。『奥座敷おくざしきオールドベアーズ』と男女混合社会人チームに、小学校のOB会が相手だ。皆来るよな」

 松尾の家出騒動翌日。

 グラウンドに集まった部員と助っ人に向けて、往年のクロアチア代表ユニを着た多良橋たらはしが告げた。



〔仏〕「それ完全なるお遊びじゃん」

〔多〕「それが結構バカにできないらしいよ」

〔餌〕「『奥座敷おくざしきオールドベアーズ』が相手って事は、熊五郎さんフェチの青柳あおやぎ部長と応援部も来ますね」

〔多〕「うん。青柳あおやぎ経由で来た話だもん」

〔松〕「むうっ、青柳あおやぎ部長。相変わらず怪しい」

 ミネラルウォータ―を飲みながら松尾が首を回した。



〔餌〕「友達を見学で連れてきても大丈夫ですか」

〔多〕「良いけど」

〔餌〕「三元さんげんさん来た方が良いですよ。女の子はあてがあるんで」

〔三〕「女の子っていくつぐらいの。幼女とか老女なんてサゲ(オチ)は認めねえ」


〔餌〕「大丈夫ですって。高三中心ですから」

〔三〕「仏像が合コンに協力してくれなくなったと思ったら、超意外な所から助け船が」

 三元が信楽焼しがらきやきのタヌキのような顔をぱあっと輝かせる。


〔多〕「先生の耳に余計な情報を吹き込むのは止めろ。普通の友達づき合いだよな。そう言う事にしてくれ」

〔餌〕「大丈夫です。ターゲットはシャモさんなんで」

〔シ〕「ターゲットって何だよ。何が大丈夫なんだ」

 えさの発言に、細身の長身をかがめながらソックスを直していたシャモがえさを二度見した。



※※※



〔多〕「早速練習試合に向けてミニゲームをやるか。黄ビブスチームはキャプテン政木まさき。ピンクビブスチームはキャプテン岐部きべ

 仏像はゆるいウェーブのついたセミロングの髪をヘアバンドで抑えると、多良橋たらはしから黄色のビブスを受け取った。


【黄色ビブスチーム:ピヴォ(FW)松尾/右アラ(MF)飛島/左アラ(MF)多良橋たらはし フィクソ(DF)仏像/ゴレイロ(GK)長門ながと


【ピンクビブスチーム:ピヴォ(FW)シャモ/右アラ(MF)餌/左アラ(MF)下野しもつけ/フィクソ(DF)服部/ゴレイロ(GK)天河てんが


〔シ〕「松田君、大丈夫なの」

〔多〕「数合わせで良いぞ。頑張るな。本当にマズイなら三元さんげんを不動のゴレイロ(GK)に入れて、長門をピヴォ(FW)に上げるから」


〔三〕「違う意味で『不動の』ゴレイロ(GK)で良いならやりますが」

〔仏〕「そりゃ試合放棄しあいほうきだろ」

〔松〕「大丈夫です」

 また一回り横幅の大きくなった三元さんげんをちらりと見た松尾は、しっかりとスポーツ用のアームカバーと手袋をはめ直した。




 ビーチサッカーのピッチサイズに合わせてグラウンドに目印を立てると、ショッキングピンクと蛍光イエローのビブスを着こんだ一団がそれぞれのポジションに散らばる。

〔多〕「いいか黄色共!」

 グラウンドサッカー用のボールを小脇に抱えると、多良橋たらはしはずびしっとシャモを指さした。


〔仏〕「黄色はアンタ。しっかりしろ」

〔多〕「あっ。ピンク共、松田君に怪我をさせたらどうなるか覚悟はあるよな」

〔シ〕「ずるいぞっ。松田君のマークを甘くさせる心理作戦に掛かってたまるか。松田松尾君っ。君は今まで落研唯一の新入生として甘々待遇あまあまたいぐうを受けてきたが、ここできつーい洗礼を浴びる事になる。服部君っ。松田君に密着プレスだっ」


〔松〕「ビーチサッカーで密着プレスは、ただの自滅戦略じめつせんりゃくな気がするんですが」

〔下〕「フィールドに四人しかいないっすからね」

〔シ〕「むうっ。そこの一年コンビ徹底的に潰す」


〔下〕「俺ピンクっ。シャモさんと同チームっすよー落ち着いて」

 先だって餌が言い放った不穏な一言のせいなのか、シャモはエキサイト気味である。



※※※


 

〔松〕「ここまでボールが来ない」

〔服〕「下野しもつけ君が全部拾っちゃうもんな」

 ピヴォ(FW)のシャモとフィクソ(DF)の仏像が激しくやり合う一方、ピヴォ(FW)の松尾とフィクソ(DF)の服部は至ってのんびりゴール前にたたずんでいた。


〔松〕「一刻も早くサッカー部の練習を再開しないと」

〔服〕「こんな低レベルな所で助っ人やらせるような子じゃないよねってうわっ」

 オーバーヘッドでクリアした仏像のボールが、服部の肩に当たってそのままゴールした。


〔多〕「オウンゴールかよー」

 多良橋たらはしが苦笑する中、ストップウォッチ片手に三元さんげんが笛を鳴らした。


〔シ〕「もう終わったの」

〔飛〕「僕何にも出来なかったです」

〔餌〕「下野しもつけ君がチート過ぎる件」


〔仏〕「それもだがシャモのシュートが絶望的に入らなさすぎて笑った」

〔シ〕「防戦一方だったくせに」

〔仏〕「下野しもつけ君のボール支配率九割をことごとく灰燼かいじんに帰す逆神のピヴォ。さすが逆張りのシャモだわ。本当にある意味スゲーよ。あれだけシュート打って結局一点も入らなかったじゃん」

〔下〕「完封された上に、オウンゴールで敗北って中々無いっすね」

 仏像はシャモの言を鼻で笑った。



※※※


 ミニゲームを終えて各人が水分補給をしていると、仏像がつと真顔になった。

〔仏〕「練習試合って言ってもさ。公式戦に出るとなれば、協会に入っていないと門前払いを食うはずだが。チーム名は『草サッカー同好会』で登録するの。絶対他チームとかぶる」


〔多〕「頭に『一並ひとなみ高校』ってつけたらだめなの」

〔三〕「ビーチサッカーの大会に出るのに『一並ひとなみ高校草サッカー同好会』っておかしくないですか」

 多良橋たらはしは考えるのが面倒くさくなったようで、チーム名が決まったら教えてと部員に丸投げした。


〔多〕「それで出場試合についてだが、今年はオープン戦だけに出る。来シーズン以降も本格的に続けたい部員が多いなら、その時に協会加盟きょうかいかめい申請しんせいする結論に至った」

〔仏〕「多分その前に矮星わいせいが飽きて投げ出すに一万草コイン」

〔シ〕「俺は三万草コイン」

〔餌〕「僕は庭の青コケ三パック、末端価格約三千円を賭けます」

 多良橋たらはしを良く知る三人の反応は、実に冷ややかだった。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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