25‐4 塩対応の女 

〔服〕「僕のゴールは女子に刺さってくれたかな」

〔仏〕「あいつら相手で満足なわけ」

 『スノボの王子様』時代のファンから逃亡した仏像は、エロカナ軍団をちらちら見ながらつぶやく服部に思わず突っ込んだ。


〔服〕「政木まさき君ならどんな子でも選び放題だろうけど、僕は正直イケて無いし」

〔仏〕「そうかな。服部君って本命扱いされるタイプだと思うけど」

 仏像のはげましにも服部はモアイのような目元をくもらせたままである。


〔服〕「この間シャモさんに紹介されたのが『あれ』だったし。あれに比べれば今日の子たちは女神だよ。見たあの回」

〔仏〕「『可愛ちーず@レーズン級』だろ。あれは反則だよな」

 老人性イボをレーズンに見立てる発想にまんまと引っ掛かった服部がひざから崩れ落ちる姿を思い出して、思わず仏像は肩を揺らして笑った。



※※※



〔餌〕「僕の超ビューティフルフリーキックはちゃんと撮った」

〔飛〕「撮りましたとも。こんな珍事はそうそう無いですからね」

 一ゴール三アシストの猛攻もうこうを見せた餌に、飛島はほら、と映像を見せた。


〔餌〕「おおお、さすが僕。どこから見ても超可愛い顔して超野獣ちょうやじゅうっ。僕は今日一ゴール三アシストを決めました。そこのトンビのような女ども、歌舞伎揚かぶきあげをむさぼり食う前に、何か僕に言うことない」

 餌は小さな体を大きく張って仁王立ちするも。


〔加〕「麦茶買って来いよ。歌舞伎揚かぶきあげで口の中の水分が取られるんだよ気が利かねえな」

〔女〕「麦・茶、麦・茶、麦茶だこら! めるぞっ」

 飛島の母の前で猫を被ったのも束の間、本性をむき出しにしたエロカナ軍団はやんややんやと餌をあおった。


〔餌〕「ちっくしょーっ! むかつくのに体が言われるがままに動くっ」

 うわーんと叫びながら自動販売機に向かった餌を見ながら仏像がため息をついていると、下野しもつけが服部の元にミネラルウォーターのボトルを取りに来た。



〔下〕「政木まさき先輩、生霊いきりょうまだ微動だにしないんですけど」

〔仏〕「だからお百度参りの存在はスルーしろ」

〔下〕「あのうるさい女子どもと生霊が何でつるんでるのか、そもそもそこからして変じゃないっすか」

〔仏〕「徹底的にスルーだ。シャモに全部押し付けろ」

 仏像は生霊ことお百度参りこと藤巻しほりからすいっと目をらした。



※※※


 


 第二試合の相手である『でかでかちゃん』の面々は、総体重にして『落研ファイブっ』の三倍近くである。

〔多〕「これは逆にはんの背の低さを活かせそうだな」

 背が伸びたと言い張るものの疑わしいえさを、多良橋たらはしはファーストチョイスとした。


〔多〕「ピヴォ(FW)長門ながと、左アラ(MF)下野しもつけ、右アラ(MF)はん、フィクソ(DF)服部、ゴレイロ(GK)天河てんが

〔シ〕「俺スタメン落ち」

〔多〕「岐部きべ政木まさきも女の子と一緒に見学な」


〔仏〕「余計な世話。俺があの手の女が嫌いなのぐらい知ってるだろ」

〔多〕「彼女たちは政木まさき目当てで来たんじゃないの」

〔仏〕「奴らはシャモに一目惚れした子の付き添い。俺は関係ねえ」

〔多〕「岐部きべに一目惚れって。どの子」

〔シ〕「あのハーフアップの黒髪お嬢様って感じの子。でも視線が重い」

〔多〕「芯の強そうな子だ。フリータイムだ頑張れよ」

 にちゃーっと笑って親指を立てた多良橋たらはしに、シャモは軽くうなずいて歩き去った。



〔仏〕「山下呼んでいい」

 遠のくシャモの背を見つつ、仏像が『本物の』サッカー部次期キャプテンと目される山下の名を出した。


〔多〕「サッカー部の。どうした急に」

〔仏〕「だってあの女子どもにからまれたくない。あいつ家近いし」

〔多〕「そういや桂先生って辻堂つじどう住みだったわ。ここから近いよな」

 言うなり、多良橋たらはしはサッカー部の顧問こもんである桂に連絡をした。



※※※



〔三〕「シャモお疲れちゃーん、スタメン落ちしちゃたの」

〔シ〕「三元さんげん君に餌を与えないで下さいっ。食事制限中なんだって」

 意を決してエロカナ軍団の元へ足を運んだシャモに、久方ぶりのスナック菓子と女子に囲まれご満悦まんえつ三元さんげんが声を掛ける。


〔三〕「そんな事言うなよかーくん」

〔シ〕「かーくんって誰だよかーくんって」

〔三〕「シャモ『かーくん』って呼ばれてるぞ」

〔加〕「かーくんあそこ座んなよ」

 加奈がしほりの隣を指さした。




〔シ〕「隣座っていい」

 気まずそうにシャモが頭をかきながらしほりに声を掛けると、しほりは小さくうなずいてスペースを開けた。


〔シ〕「この間は【みのちゃんねる】の収録に来てくれてありがとね」

 しほりは無言でうなずいた。

〔シ〕「えっと、俺今サッカーやってんの。って知ってるか」

 しほりは無言でうなずいた。

〔シ〕「サッカー好きなんだっけ」

 しほりは無言でうなずいた。

〔シ〕「何か飲む。お茶かな」

 しほりは無言でうなずいた。




〔シ〕「た、助けてくれ」

 公園の入り口方面へと歩いていた仏像に追いついたシャモは、がたがたと震えながら仏像に泣きついた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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