62-3 彼ママにごあいさつ?!
〔千〕「
〔仏〕「いえ、そう言う事では無くて。潮時かなと。背も伸びすぎて競技には不利になりましたし」
仏像はカモミールティーのカップに目を落とした。
〔千〕「そうだったのね。それで、話を戻すけど私たちと一緒に松尾ちゃんの家に来て。きっと松尾ちゃんも喜ぶはずよ」
〔仏〕「車で戻るなら
スノボと縁を切ったからには二度とあの道を通る事は無い、二度と群馬の地を踏むことは無いと思っていたのに――。
仏像は長いまつげを伏せながら、
※※※
〔餌〕『ついに彼ママにごあいさつの日が来たんだね、仏像。大人しめのワンピースかセットアップが無難だよ。手土産は
〔仏〕「そんな
〔仏〕「で、海水浴のメンツは」
〔餌〕『言い出しっぺの服部君に放送部の
〔仏〕「何で山下と井上。俺いないのに」
〔餌〕『だから仏像を呼ぼうと思ったんだって。本当に来ないの』
〔仏〕「今更引き返せない」
関越道のサービスエリアで二年近くぶりに焼きまんじゅうをかじりながら、仏像は
〔仏〕「
〔餌〕『
気を付けてなと言って通話を終えると、お手洗いの列から解放された松尾が息せき切って駆け付けた。
〔松〕「餌さんに何を言ったんですか。何か変な話になってるような」
〔仏〕「だから俺は嫁じゃねえ」
松尾のスマホをちらりと見た仏像は、真っ青な空に浮かぶソフトクリームのような雲を見上げた。
※※※
群馬県最大級の都市の住宅街に、松尾の実家はあった。
古びた、しかし緑にあふれた
刈ったばかりの夏草が放つ青臭い匂いを、仏像は無意識で思い切り嗅ぐ。
玄関左手には古びた
〔仏〕「変わらねえな」
ぼそりとつぶやいた仏像は、自分のもらした一言に目を見張った。
〔松母〕「ずっとお会いしたかったの。松尾と仲良くしてくれてありがとう」
〔松父〕「
松尾の父母は
〔松母〕「古い家だから過ごしにくいかもしれないけれど、四日間自分の家だと思ってくつろいでね。客間には
父から預かった大量の手土産を松尾の両親に渡すと、仏像は『事件現場』へと足を踏み入れた。
※※※
〔松〕「僕は一人っ子だったから、兄弟で枕を並べて寝るのが憧れなんです」
〔松〕「ゴーさん、どうしました(ごーにーた、どた?)」
目の前の松尾と、夢で見た小さな松尾の乳臭さの残るころころとした姿が重なり合って、仏像の
〔仏〕「男兄弟なんてろくなもんじゃねえって聞くぞ。おもちゃにされるわ殴り合いだわ。どうでもいいからちゃんと寝ろ。体が資本だろ」
どうにか意識を
〔仏〕「井上からだ。なるほど
〔松〕「飴って」
仏像はあさぎちゃんのグラビアを無言で松尾に見せた。
〔松〕「ああ、即効性のある飴ちゃんですね」
〔仏〕「それで山下までつられるとは情けねえ。
〔松〕「しかも野球部と陸上部からも引き抜き成功と。服部さんと
スマホを見せられた松尾が、これで草サッカー部門は
〔仏〕「色んな所に頭ぶつけてる背が高くてガタイの良いバスケ部の奴がいるだろ。あいつが大会で二回戦からレギュラー化して、井上は控え扱いになったんだとさ。このまま転部するかもだって」
長身ぞろいのバスケ部の中でも頭一つ以上背の高い老け顔の彼を思い出して、松尾はさもありなんとうなずいた。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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