62-2 推し活(マダムはゴー君見守り隊)
仏像を松尾の実家に誘った
〔千〕「松尾ちゃんの
〔仏〕「となると、もう実家に泊まれるぐらいに松尾のメンタルは回復したのですか」
〔千〕「ええ。あの家での楽しい思い出だけを持って、海外に行ってほしいの」
ティ―スプーンをもてあそんでいた
※※※
〔仏〕「そんな事が本当にあるなんて。僕も散々な目に
〔千〕「そのヘルパーさんは、最初から松尾ちゃんの部屋に入るのが目的で応募したの。
〔仏〕「それに比べたら、僕の身に起きた
〔千〕「文化祭の話はニュースで知っているわ。他にも色々あったのね」
〔仏〕「僕のプライバシーがある事無い事ネットに全部出て、元々僕の活動資金の調達方法を巡って対立していた両親の仲は修復不能になって。その上僕の遠征費用を出していたクラファン(クラウドファンディング)勢の一部が『マダム』を中心としたグループを作ってやりたい放題。
あげくの果てに、下級生に金を握らせて一並中に盗撮カメラをつける所までエスカレート。実行犯の下級生は退学処分になったのに、主犯格の『マダム』は開き直った末に何らかの力が働いたのか
仏像はうなずきながら、自身に起こった事件の数々を
〔仏〕「『マダム』を中心とするグループは『ゴー君見守り隊』を名乗って、二十四時間監視態勢でした。僕のSNSに映りこんだ背景から居場所を当てるのは朝飯前。大会運営のSNSに突撃して『
俺の母親ですらそんな事はやらねえと、仏像はいらつきをあらわにした。
〔千〕「それで、『マダム』が開き直ったってどういう事」
〔仏〕「SNSで『マダム』グループに誘われた
〔千〕「その人たちって『マダム』ってぐらいだからいい年なんでしょ」
〔千〕「その果てに、
〔仏〕「あの頃ちょうど両親が離婚するのが確定的になって、親権で揉めていたんです。家もバレて夜逃げ同然で引っ越しする事になったし、練習も出来なくなって何もかもが限界でした」
プライベートを暴かれ両親の離婚が決定的となった仏像は、学校にまで押しかけて無自覚に自身を追い詰める『自称ファン』達に怒りを爆発させたのだった。
~~~
〔仏〕「ふざけんな! 勝手に立入禁止エリアまで追いかけてくるんじゃねえ」
実行委員会の制止を振り切って立入禁止エリアに入る女達が、仏像の怒りの声に耳を傾けるはずもなく――。
〔女A〕「怒ったゴーちゃんも超かーわーいーいー!」
〔女B〕「ちょ、オバサンどけて。写真撮れないじゃん!」
〔女C〕「ワールドジュニアを見に行くために仕事辞めました!」
〔女D〕「私も全試合見に行くから! そのためにダンナと別れた。こっちも覚悟ガンギマリだから!」
〔女E〕「こっちだって、昼食は水と手作りおにぎり一個で遠征費用貯めて頑張ってるから」
〔女CDE〕「ゴー君のためなら何だって出来るから!!!」
仏像目当てに文化祭にやって来た女達が、次々と仏像の元へと押し寄せる。
〔仏〕「だったら今すぐここから立ち去れ!」
〔実〕「ここは立入禁止エリアです。大変危険です。すぐに離れてください!」
仏像を取り囲む女達は、実行委員会の制止の呼びかけには一切応じない。騒ぎに気が付いたファンの女達が次々と規制ロープをまたいで仏像の元へと走り寄る。
〔仏〕「どけろ! 危ない! 怪我したらどうするんだ」
髪の毛を引っ張られ、二の腕を取られてよろめく仏像。集団になった女達は狂気に磨きをかけていく。
〔仏〕「ふざけんな女共! 臭えんだよ失せろ! 俺はお前らの人形でも無ければ息子でもねえ! 家に帰って本当の息子娘を大切にしろよ」
〔女A〕「はあああ? 私はゴー君に二十年以上貯め続けた結婚資金を全財産捧げて、ゴー君の海外遠征費用にクラファンしたんだよ。息子も娘ももう産めない年なんだよ! 結婚なんか最初から捨ててんだよ」
〔女D〕「私の息子はゴー君だけだから! 大丈夫よ心配しないでゴー君は私が守るから」
〔女E〕「ゴー君かわいい!」
仏像の罵倒にある者は怒り、またある者は謎の庇護欲にかられ。
興奮と熱狂に怒りと
〔仏〕「離せ! 離せって言ってんだろ!」
実行委員からの連絡を受けた教職員達も駆けつける中、一並高校の教員でもある
〔多〕「ゴー君、こっちだ」
女達と仏像の間に割って入ると、仏像を
〔仏〕「たーちゃん(
〔多〕「絶対振り向くなよ」
多良橋の右手が、しっかりと仏像の左手首をつかむ。
無我夢中で仏像が走っていると、後ろから女達の悲鳴が聞こえた。
〔多〕「振り向くな!」
多良橋が一並高校と中学との敷地を隔てるフェンスの扉に手を掛ける。
〔多〕「
仏像を一並高校の敷地に入れた多良橋は、肩で息をしながらフェンスの向こうを見やった。
~~~
〔仏〕「
〔千〕「ニュースに興味が無い私ですら覚えている位だもの。かなり騒がれたわよね」
〔仏〕「はい。あれでほとんど人間嫌いになる所でした。でも、
だから今でも、僕は
愛おしそうにカモミールティーのカップをくるんだ仏像は、ふふっと小さな笑みをこぼした。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※2024/10/21 回想シーン中心に改稿
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