52-3  逆張りのシャモ

〈第二ピリオド 『落研ファイブっ』0-1『うさぎ軍団』〉


〔下〕「ゴレイロ(GK/ボクシング)はパンチングで逃げる癖があるから、打ちまくれば勝機はあるんだけど」

 ボクシングでインターハイに出場した黄うさぎはフットワーク良く飛び跳ねながらボールを待っている。

 不動でどっしりと構える天河てんがとは対照的なスタイルである。

 フィクソの緑うさぎ(DF/柔道黒帯)の方がよほど天河てんがに近い。


〔シ〕「下野しもつけ君っ、ニアっ!」

 シャモの叫びに、下野しもつけがファーに走り込んだ服部にボールを上げると、黄うさぎ(GK/ボクシング)が弾いたボールを仏像がきっちりと蹴り込んだ。

 これで1‐1のドローである。


〔子〕「うわーっん」

〔子〕「先生かわいそーっ」

〔子〕「いじめ良くないですっ!」

 ドローに持ち込んだ喜びも束の間、幼児独特の甲高い声で責め立てられた仏像は、思わずスコアをつける松尾に目で助けを求める。


〔松〕「後三点! 完全制圧っ!」

〔シ〕「さすが野獣眼鏡やじゅうめがね。ねぎらいの言葉も無く後三点取れと。どSううう!」

〔下〕「後三点、完全制圧っ」

 多良橋たらはしは泣き言を並べるシャモに変えて長門ながとをピッチに投入した。




 大柄でがっしりした長門ながとがピヴォ(FW)に入ると、『落研ファイブっ』は愚直ぐちょくなまでに長門ながとにボールを集める。

〔多〕「Go for itいけーっ!」

 多良橋たらはしが叫ぶと、下野しもつけのシュートをキャッチしたゴレイロ(GK)の黄うさぎ(ボクシング)がロングスローで中盤を省略した。


〔仏〕「させるかよっ」

 仏像が左足でボールをカットするも、アラ(MF)の赤うさぎ(サッカー・インハイベスト8)がボールを拾い、ピヴォ(FW)の青うさぎ(サッカー・サンフルーツ広島ユースOB)がきっちり決める。

 

〔幼〕「みっちー♡」

 幼女は『みっちーのお嫁さんになる』と言いだしそうな勢いで、青うさぎのゴールに狂喜乱舞である。


〔服〕「ドンマイ! 行ける行けるっ」

 試合は落研ファイブっの一点ビハインドのまま第三ピリオドへともつれこんだ。




〈第三ピリオド 『落研ファイブ』1-2『うさぎ軍団』〉



〔仏〕「マジでこいつらスタミナお化けかよ」

 選手交代をしながらやっとの思いで戦う『落研ファイブっ』に対して、『うさぎ軍団』は一切のメンバー交代をしないままだ。


〔仏〕「ロングスローっ」

 天河てんがは仏像のコーチングに応じて、ピヴォ(FW)の長門に向けてロングスローを入れる。


〔長〕「押すなっ、押すなよこら!」

 二枚目のフィクソ(DF)である『うさぎ軍団』キャプテン(テニス)とのデュエルで徐々に制空権せいくうけんを支配し始めた長門ながとの元に、えさが闘犬のごとく何度も走り込んだ。


〔餌〕「スコップっ!」

〔仏〕「何でそこでスコップ!?」

 長門がこぼしたボールを豪快にスコップすると、キャプテンが思わず顔を背ける。

〔長〕「よっしゃ来た!」

 一瞬の隙をついて、長門ながとがゴールネット左上ぎりぎりにゴールを決めた。


〔松〕「これでドロー(2-2)っ! すごい押せる行けるっ!」

〔多〕「Come on来いっ!」

 多良橋たらはしが叫んだ瞬間、仏像起点のフリーキックを服部が押し込んで落研ファイブっが一点リードをもぎ取った。


~~~



〔松〕「残り三分、集中!」

〔多〕「Watch out危ないっ!」

 多良橋たらはしの叫びもむなしく、服部がPKを取られる。


〔シ〕「天河てんが君右っ!」

 シャモの声と同時に笛が吹かれ、青うさぎ(FW)は左サイドネットぎりぎり目掛けてボールを蹴った。


〔仏〕「ナイスセーブっ!」

 シャモのディレクションに反するように左コースを消した天河てんがは、長門に向かってロングスローを放り込む。

 その瞬間、第三ピリオド終了を告げる長い笛が吹かれた。

 


〈結果 『落研ファイブっ』3-2『うさぎ軍団』〉



 子供たちの大ブーイングを背に互いをねぎらった落研ファイブっの面々は、飛島と松尾から水のボトルを受け取った。


〔赤〕「君すごいね」

 息を切らせながら、赤うさぎが下野しもつけに声を掛けた。


〔下〕「そちらこそ。さすがインハイベストエイトメンバーっすよ」

〔赤〕「君こそただものじゃないよ」

 赤ビブスは水のボトルを頭に掛けつつ下野しもつけ称賛しょうさんする。


〔桂〕「この子は横浜マーリンズのジュニアユース出身で、U15日本代表の候補になった子だよ。そりゃすごいよ」


〔赤〕「すげえ! マーリンズのジュニアユースって三連覇さんれんぱ中だよね」

〔青〕「マーリンズの三連覇メンバーかよ。あのメンツがユースに上がって今年無双するんじゃないかって話で、うちのユースも持ちきりだよ」

 桂の補足に、赤うさぎと青うさぎが騒然とした。



 そして逆張りのシャモはと言うと――。

〔シ〕「最後のPKどうなるかと思ったよ。良くコース分かったな」

〔天〕「シャモさんのおかげっす」

〔シ〕「俺右って言ったじゃん」

〔仏〕「だって『逆張りのシャモ』だもん」

 シャモと時間を共に過ごすうちに、助っ人たちは『逆張りのシャモ』の二つ名の意味を悟り、シャモのディレクションの逆を行くようになっていた。


〔下〕「本当にシャモさんの逆を行くと得点につながりまっす」

〔松〕「シャモさんのディレクションとその後の相関関係そうかんかんけいです。見事な逆相関ぎゃくそうかんを示しています。今日もシャモさんのおかげで二点を拾えました」

 ああもう嘘だろと頭を抱えるシャモに、松尾がノートを見せた。


〔シ〕「データ化すんなよこの野獣眼鏡やじゅうめがね。これを見せられたら言い逃れ出来ねえ」

〔松〕「野獣ではありません。一並ひとなみ高校一年七組松田松尾まつだまつお。群馬県出身の十五歳ですっ」

 松尾の声に、ピンクうさぎが急ぎ足で落研ファイブっの輪に近づいて来た。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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