56 アウェーの笛

〔粟〕「運動に適した外気温になった所で、そろそろ試合と行きますか」

 狂乱きょうらんえさラップからほとぼりが冷めると、夕風がそよそよと吹いてきた。


〔多〕「本日はそちらの部員さんから五名をお借りして、二ピリオドの変則試合へんそくじあいでしたね」

〔粟〕「ええ。赤ビブス組が一並ひとなみさんへ。彼らにも出場機会を与えてやってください」

 落研ファイブっ側ベンチにやってきた赤ビブスメンバーは、ぺこりと軽く礼をした。



【第一ピリオド ゴレイロ(GK)長門ながと フィクソ(DF)服部 右アラ(MF)平和A 左アラ(MF)下野しもつけ ピヴォ(FW)平和B】


〔シ〕「今日の俺は松田君の代わりに戦術分析官せんじゅつぶんせきかんで」

〔多〕「いや、出すもんね」

 面倒くせえなあと言いながら戦術分析せんじゅつぶんせきノートを開くと、シャモはノートを二度見した。


〔餌〕「何ですかこの武将カードのスペック表的な書き込みは」

〔シ〕「武力 知力 魅力ってこんなのどうやって数値化してたんだよあいつ」

〔餌〕「七月の『そば美人』に至っては知力にマイナス値が入っています」


〔シ〕「それはいなめん。そういや仏像あの後『そば美人』サイドから難癖なんくせつけられたりしなかったの。鼻の整形がダメになったやつ」


〔仏〕「大丈夫だった。さすがに衆人環視しゅうじんかんしの中、高校生チームに本気で因縁いんねんつけるほど知力は低くなかったらしい」

 そりゃ良かったねと言いながら、シャモは松尾がつけたメモを参考に気温などを書き込んでいく。


〔天〕「松田君の日と、三元さんげんさんの日と、明らかに情報量が違いすぎますね」

〔飛〕「三元さんげんさん、これ明らかに寝てますね」

〔天〕「本当だ。筆圧ひつあつが明らかに弱くなって変な線が入ってる」


 天河てんが飛島とびしまと顔を合わせて苦笑いすると、ゴールを守る長門ながとに目を向けた。




〔粟〕「犬塚いぬづかあああっ。Yes! Come onこいよ!」

 早速ゴールを決められた長門ながとが雄たけびを上げる中、粟島あわしまが相手ピヴォ(FW)を抱きしめる。


〔仏〕「あいつこの間の練習試合も途中から出てきた一年生だよな。あの時に比べて下半身が明らかに安定してないか」

〔天〕「そりゃあの大臀筋だいでんきんトレーニングを毎日受けているんだもの。一か月でかなり変わってくるよ」

 プロレス同好会でもぜひ取り入れたいと感心しきりの天河てんがに、仏像は納得いかぬ顔である。




〔多〕「右っ右左右っ上がれ上がれ下がれえええっ」

〔仏〕「だーかーら、ゲームのコマンドじゃねえんだよ」

 他校の生徒を二人も一度に入れたため、連携れんけいがまるで取れない『落研ファイブっ』は防戦一方だ。


〔餌〕「Yo Yo  Hiro-Ko-Ji ! Youの足技魅せちゃえYo」

 えさラップに応じるように、下野しもつけがダイレクトボレーを放つ。


〔粟〕「あれは取れたよなっ。気張れっ。あと一点取られたらカンチョーだ」

 一点を奪われた粟島あわしまが大声で叫ぶ。


〔仏〕「えさ、お前俺に向かって練習試合で同じセリフはいたよな」

〔餌〕「カンチョーして欲しければするけど」

〔仏〕「して欲しくねえ」

 えさに毒づいていると、服部がモアイのような目元をしかめてバツ印を両手で作った。



〔シ〕「今日はちゃんと笛が使えるのな。この間の絶叫はひどかった。まさか叫び声を笛の代わりにするとは」

 笛を短く吹いてプレーを止めた第一審判を、シャモがあごで指す。



〔粟〕「こっちにおいでケアするよ。大臀筋だいでんきんトレーニングで|頑張りすぎたかな」

 ヌートリアのような鼻をひく付かせつつ服部の太ももを触診しょくしんすると、粟島はマッサージ用ローションを取り出した。


〔シ〕「先生どこに行くんだよ」

〔多〕「最新版応急手当の仕方を見ようと」

〔シ〕「試合ほっぽり出すなって」

〔飛〕「良いじゃないですか。どうせ上下左右ぐらいしか叫ばないんですもの」

〔餌〕「飛島君も時々どSだよね。松田君にそっくり」

 大好きな松尾にそっくりと言われた飛島は、満面の笑みを浮かべた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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