55 大臀筋の匠再び

 平和十三ぴんふじゅうそう学園ビーチサッカー部との合同トレーニングが始まったのは午後六時。


〔粟〕「さあ楽しい大臀筋だいでんきんトレーニングの時間だ。皆で太陽の恵みをけたぷりっぷりの桃に負けないぐらいの大臀筋だいでんきんを育てよう」

 粟島あわしまが号令を掛けると、仏像がまるで猫のごとくふいっと目を逸らした。




〔粟〕「『ぷりっぷりの桃がお尻になっちゃったあ』。はいっ、大きな声で復唱して。頭にぷりっぷりの桃を思い描いて。蜜がたっぷりぴっちぴちだよ」

〔仏〕「やっぱりオカシイって」

 イメージトレーニングを兼ねた大臀筋だいでんきん強化メニューに相変わらずついていけない仏像である。



〔粟〕「桃がお尻になっちゃったあ。リピートアフターミー♡」

〔餌〕「桃がお尻になっちゃったあ♡」

 餌は相変わらず最高潮にノリノリだ。


〔粟〕「中腰で胸の前に手を合わせて、ハートを書くように肩甲骨から大きく動かす。恥骨ロケットお空にどぴゅーっん。はい復唱」

〔餌〕「恥骨ロケットお空にどぴゅーっん⤴」

 餌はまたしても絶好調にノリノリである。


 なお平和十三ぴんふじゅうそう学園ビーチサッカー部の面々は、粟島あわしま節の魔力に魅せられたままである。




〔粟〕「毎日続けることが大事だよ。頭の中にぷりっぷりの桃をイメージして、毎日大きく育てようね」

 飛島が何かに開眼したかのようにトレーニングにいそしむ中、シャモと餌は『波動砲はどうほう!』と叫びながらふざけあっていた。


〔粟〕「良いね! 君お尻の使い方最高。そうここもっと」

 ふざけながら中腰になった餌の尻に、│粟島あわしまが両手をあてがった。




〔多〕「粟島あわしま監督っ。大丈夫ですかっ」

 ジャカルタ仕込みの護身術ごしんじゅつでとっさに投げ技を食らわせた餌の前方で、粟島あわしまがヌートリアのような顔から鼻血を出しながら転がっている。


〔餌〕「俺ジャカルタ生まれジャカルタ育ち、悪い奴は大体皆手下」

 チェケラッチョっとでも叫びだしそうな勢いで、えさが見栄を切る。


〔多〕「こらっ。粟島あわしま監督に何てことをっ」

〔餌〕「俺の後ろにゃ何人なんぴとたりとも立つんじゃねえYo」

〔シ〕「毎朝電車でお前の後ろにうじゃうじゃ老若男女が立ってんだろうが。何やってんだ。まがりなりにも他校の監督だろ」


〔餌〕「俺のケツ圧百万ボルト。触った奴らは感電Shi! Yeah!」

 下野しもつけがあぜんとした顔で餌ラップを目の当たりにしていると。


〔餌〕「Yo! Yo! Hiro-Ko-Zi お前のケツ圧何万ボルト」

〔下〕「えええっ。俺のケツ圧なんて分かるわけないっすよ。えささん、しっかりして」

 下野しもつけががばちょっと荒ぶる餌を捕獲ほかくしに行くも――。


〔仏〕「何やってんだ餌ああっ」

 下野しもつけを豪快に巴投ともえなげしたえさの『餌ラップ』はとどまることを知らない。


〔餌〕「Yo! Yo! Pussy cat!  子猫ちゃんのケツ圧」

〔仏〕「Pussy cat って俺の事かふざっけんなあああ」

 仏像がしなやかな脚を振り上げて餌に回しりをお見舞いするが――。


〔シ〕「政木五郎将軍まさきごろうしょうぐん 討ち取ったりーっ」

 濃茶色の髪を砂まみれにして横たわる仏像に構わず、シャモまで餌にくっついて悪乗りを始める。


〔粟〕「ああ、最高に楽しいな。祭だ祭りだお祭りだあ」


 ラップ祭りで意気投合したらしい餌と粟島はラップバトルを繰り広げた末、ノーサイドゲームの精神で抱き合ってエールを交換した。


 ちなみに、餌に他校の監督である粟島を投げ飛ばして顔面を強打させた罪悪感は皆無であり、餌の蛮行ばんこうを止めようとした下野しもつけと仏像のしかばねが拾われることはない。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る