28 母さん、事件です
〔加〕「パンダ出迎え
餌の人生に八年の長きにわたって君臨する暴君・エロカナの呼び出しに応じた餌。
三十分以上も待たされたあげくにこの仕打ちである。
〔餌〕「加奈先輩がおごってくださいよ。何分待ったと思ってるんですか。こっちは加奈先輩と違って忙しいのっ」
〔加〕「パンダの癖に生意気な」
ちっと舌打ち一つすると、加奈は東口の大階段を下って人通りの少ない左方面へと進む。
〔加〕「
〔餌〕「しゃぶり返しますよ」
〔加〕「似合わねーっ」
餌がドスの効いた低音を出すと、加奈がぎゃははと笑った。
〔餌〕「本当に受験準備とか色々あってかなり忙しいんです。エスカレーターのあなたとは違うんです」
〔加〕「うわっ感じ悪っ。まだ二年じゃん。もう受験勉強すんの」
〔餌〕「海外志望なんで準備が大変なんです」
〔加〕「まじか。初耳だわ。お父さんの所に戻るんか。マレーシアだっけ」
〔餌〕「インドネシアです。でも僕はシンガポールに行くつもりです」
〔加〕「ならばお前に用はない。勉強机に発情しとけや」
ずんずんと歩を早めた加奈の後ろ姿を呆れたように見ていると、加奈が二人組の男に声を掛けられていた。
〔餌〕「エロカナをナンパするとか上級者過ぎ。
ふっと鼻であざ笑ってメイン通路に戻ろうとすると、加奈の声が鋭く響く。
〔加〕『ざっけんなこのド変態っ。しばくぞ』
二人組の男が加奈を連れ去ろうとしていた。
〔餌〕「警察呼んでっ。女の子が連れ去られてる!」
大声で周囲に叫んだ
〔餌〕「ぬおわあああああああっ!」
抵抗する加奈を引きずる二人組の男に飛び蹴りを食らわせると、餌は手近にあった消火器を振り上げた。
※※※
二人が警察官に事情説明をして解放される頃には、時刻は午後六時を過ぎていた。
〔加〕「ウチらの親に連絡する必要なくね。くされパンダに助けられたとか末代までの恥さらしだわ」
〔餌〕「史上最大級にデカい借りを僕に作ったって事ですからね。一生肝に銘じてください」
〔加〕「女って何で男より小さくて筋肉も少なくされちゃうんだろ。超悔しい。ウチの方がずっと強かったのに。キックだって
さすがの事態に餌に悪態もつけず、加奈は顔を膨らませるのみだった。
※※※
〔加奈母〕「加奈ちゃんっ」
〔餌母〕「太郎っ」
息を切らせながら加奈をぎゅっと抱きしめて震えた加奈の母は、
〔加奈母〕「太郎君、いつもいつも加奈が迷惑をかけてごめんなさい。本当にありがとう。太郎君がいなかったらと思うと。加奈、きちんとお礼をしなさい。本当に危ない所だったのよ」
その言葉に加奈はふてくされたように小さな声で、ありがとうと頭を下げた。
仕事場に戻る餌の母を見送って三人で電車に乗ると、加奈の母は困った事を言い出した。
〔加奈母〕「太郎君さえ良ければ、明日から加奈と一緒に登下校してもらえないかしら」
〔加〕「冗談じゃない。ウチ朝練もあるしパンダも部活あるし、今日はたまたま一緒にいただけで」
〔加奈母〕「そこを何とか。またこんな事があったらと思うと。それに太郎君と一緒なら
言葉尻は柔らかだが、さすがエロカナの母らしく随分ずうずうしい事を言うものだと思いながら、餌は頭を抱えた。
〈火曜日朝〉
〔加奈母〕「本当に無理を言って済みません」
〔餌母〕「いいえいいえ、うちの子で良ければお使いください。あんた、加奈ちゃんをちゃんと守るのよ」
いつもの起床時間より一時間近く早くたたき起こされた
〔餌〕「横浜駅までですよ。それ以上はさすがに済みません」
〔加〕「大丈夫だって。ママが心配し過ぎなの。パンダ悪いな」
後部座席に陣取っていた加奈が、珍しく
〔加奈母〕「加奈ちゃんはとっても可愛い美人さんなんだから、普通の女の子以上に気をつけないと。帰りもよろしくね」
餌は内心で、お宅の娘さんは
※※※
〔加〕「パンダ、マジで帰りは送らなくていいから」
〔餌〕「おばさんの気が落ち着くまではそうも行きませんよ、多分」
餌は深いため息をついて、吊革に両手でつかまる加奈を見る。
〔加〕「まあ確かにな。でな、昨日パンダを呼んだのは他でもない、あのカップルの話なんだけど」
〔餌〕「シャモさんですか。リムジンで連れ去られて以来連絡が取れないんですよ。
シャモさんのお母さんは
〔加〕「やっぱりか」
加奈がため息をついた所で、電車が横浜駅に到着した。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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