26‐2 奥座敷オールドベアーズ戦(下)

 元U15サッカー日本代表候補に一並ひとなみ高校サッカー部不動のセンターバック、元スノボワールドジュニアチャンプ、そしてプロレス同好会の花形二人。

 第二ピリオドに肉体派メンバーをチョイスした多良橋たらはしは『奥座敷おくざしきオールドベアーズ』のメンバーを見据えた。


〔仏〕「こんなにポジションぐるぐる変えられても」

〔多〕「ユーリティリープレーヤー育成中なのっ」

〔仏〕「サッカーゲームじゃねえんだよ全く。こちとら生身の人間なの」

 いきなり右アラ(MF)にコンバートされたスノボの王子様こと仏像が猛抗議した。



〔加〕「ゴー様ファイトおーっ」

 加奈が三元さんげんを笑い袋代わりにしながら、髪をかきあげた仏像に黄色い声を上げる。

〔仏〕「あの仁王(阿形あぎょう)、本当は俺の事はわりとどうでも良いんだろ」

 仏像が呆れたように加奈を見た。



※※※



〔下〕「女子怖え」

 エロカナ軍団にようやく解放された下野しもつけは、よろよろしながらピッチに戻って来た。


〔山〕「下野しもつけは彼女がいただろ。免疫めんえきあるじゃん」

〔仏〕「おこめパンの女とどっちが性質たち悪い」

〔下〕「あいつらです。セクハラっすよあんなの最低っ」

 背中から抱きしめられて後頭部の匂いをかがれながらポテトを食べさせられた下野しもつけは、二度と近寄りたくないと上級生二人に訴えた。


〔仏〕「忘れろ。ここで暴れまくって全てを忘れるんだ」

〔下〕「そうしまっす。でもその前に体中丸洗いしたいっす。俺の体と心がすっかり汚された気分っす」

〔山〕「後で俺の家の風呂貸してやるから」

〔下〕「あざまっす!」

 下野しもつけは半泣き状態で山下に頭を下げた。




 下野と山下と一緒に仏像が準備体操をしていると、第二ピリオドに出たかったらしいえさがカンチョーポーズを仏像に見せつけた。

〔餌〕「僕の代わりに右アラを守る以上、もしダメだったらカンチョーの刑」

〔仏〕「灌頂かんじょうだと。そのいん思惟手しいしゅか。いやそれとも。いつからそんなに密教みっきょうに詳しくなったんだ」

〔餌〕「えっ、密教」

 小二男子のノリでカンチョーポーズを決めたはずの餌は、仏像の思いもよらぬ反応に面くらった。



〈第二ピリオド〉




〔青〕「さあ『落研ファイブっ』対『奥座敷オールドベアーズ』、双方大幅なメンバーチェンジを経ての第二ピリオドが開始されました。なおこの試合は変則形式、第二ピリオドでの試合終了となっております」

 鋭い笛の音と共に、実況担当の青柳あおやぎはピッチに全神経を集中させた。

〔大〕「通常ランニングタイム十二分×三本の所が、二本に減っている。つまりは、ペース配分と試合の組み立て方がかなり変わってくる」



〔富〕「ふはっ、ふはーっあひゃひゃひゃ」

 ボールを追って突進してきた熊五郎にかれそうになりながらも、HDLの富士川Pはカメラを離さない。



※※※



〔熊〕「残り後十分。ボールを集めろ」

 ピヴォを務める熊五郎が大音声でがなり立てて、即席フィクソの山下を威嚇いかくするように飛び跳ねる。


 山下は熊五郎の威嚇いかくと気迫をするりと受け流すと、淡々とボールを下野しもつけにフィードした。


〔多〕「So closeおしい! Go for itいけいけ!」

〔下〕「ロングボールっ」

 下野の叫びに呼応した山下は、ピヴォ(FW)の長門ながとにロングボールを蹴り込んだ。


〔長〕「ヨッシャーっ」

 長門ながとが潰れて転がったボールを下野しもつけが拾って宙に浮かせると、右アラ(MF)にポジションチェンジした仏像がオーバーヘッドでゴールネットを揺らした。


〔青〕「『落研ファイブっ』のゴールっ! 今ピリオドでは右アラ(MF)を務める政木まさきの鮮やかなオーバーヘッド!」

〔熊〕「気張っていけえええええっ! 三点獲れば済む事だっ」

 有言実行。

 熊五郎は芋名人の八五郎との息の合ったパス交換で一分間で二点を取り戻した。




〔青〕「第二ピリオド残り時間は手元の時計で四分を切りました。解説の大神さん、本郷さん。第二ピリオドのわずか二分間で一気に試合が動きました」


〔大〕「『落研ファイブっ』にもまだまだ逆転のチャンスがある。特に『奥座敷オールドベアーズ』の控え二人は安定感が無い。若さと経験不足がもろに出ているね」


〔本〕「『落研ファイブっ』左アラ(MF)の下野しもつけ君が指摘した通り、ここからはロングボール多用で長門ながと君に当てる戦略に絞ると良いだろう」


 解説通り、山下が熊五郎とのポジショニングを上手く調整しながら抑えている間に、定位置であるゴレイロにもどった天河てんががハーフライン近くまで上がってボールをゴールへと蹴り込み始めた。



〔熊〕「絞れっ」

〔下〕「それを待ってた」

 深くサイドをえぐった下野しもつけがマイナスのボールを蹴ると、中央を走り込んできた山下が同点弾を叩き込んだ。


〔多〕「Bravo!」

〔青〕「残り一分で劇的な同点弾! 『落研ファイブっ』助っ人背番号十一番 |フィクソ(DF)山下の豪快なランニングシュートっ」

〔熊〕「上がれえええっつ!」

 残り一分を切った所での同点弾に、熊五郎はメンバーのポジションを上げさせた。




〔青〕「さあ残り十秒となりました。あっとここでっ。何とここで痛恨のPK。『落研ファイブっ』劇的な同点弾を上げた助っ人山下のチャージがPKを取られました」

〔多〕「Goshなんてこった!」

 試合時間残り十秒を切った所で吹かれた笛に、多良橋たらはしが思わず頭を抱える。



〔本〕「今のファールはグラウンドサッカーにけた山下君ならではの判断ミスですね。さあ、後はゴレイロ(GK)の天河てんが君が防げるか」

 天河てんがは腰を低く落として、じっと熊五郎の体軸たいじくを見定めた。



※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

※JFAのビーチサッカー競技規則2021/2022を参考にいたしました。

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