23-1 お百度参り

〔シ〕「彼女と会う前に髪切ってくる。お前ら喪男もおとこもさっさと彼女作れな」 

 何度も『エンダーイヤー』と叫んだシャモは、みつるに向かって『ごちそうさまでしたあああああっ』と叫ぶと異様なハイテンションのまま味の芝浜を飛び出した。



〔三〕「大丈夫なのかあいつの浮かれっぷり。かなりやばそうな女だよな」

〔餌〕「本名は藤巻しほり。ただし『六条ろくじょうしをん』と名乗って色々やらかした経歴がありまして」

〔三〕「何そのギャルゲーか占い師の名前にありそうな源氏名げんじな

〔餌〕「どうやら自分の事を六条御息所ろくじょうのみやすどころの生まれ変わりだと信じ切っているようでして」

 餌の言葉に、三元さんげんはビワの葉茶を思いっきり吹いた。



〔三〕「生まれ変わりだの何のって時点で怪しさ半端ない上に、よりによって六条御息所ろくじょうのみやすどころと自分を重ねるとは。これはヤバいとか『ゆんゆん』を超越した香ばしさ」

〔餌〕「シャモさんを生贄いけにえにしておけば、しばらくは他に被害が及ばないんで。とりあえず本人も大乗り気みたいですし、人柱ひとばしらになってもらいましょう」


〔三〕「じゃ、シャモにはヤバい話は伏せるの。友達としてどうよそれ」

〔餌〕「それも運命です。焦って彼女作ろうとするからあんな目に」

〔三〕「六条御息所ろくじょうのみやすどころにシンパシーを感じるって事は、束縛系幸薄生霊そくばくけいさちうすいきりょうストーカー女って事だろ」

〔餌〕「まさにその通り。お百度参ひゃくどまいりの異名を取る女ですからね」


〔三〕「お前の周りには変な女しか来ねえじゃねえか。エロカナにお百度参ひゃくどまいり、どう言う事だよ」

〔餌〕「こっちが聞きたいですよ。出来れば関わり合いになりたくないですが、人柱ひとばしらを立てておかないとエロカナが」

〔三〕「エロカナの下僕げぼくとしてはその生霊女いきりょうおんなが暴れないようにしたい訳だ」


〔餌〕「その通り。お百度参り事件の時は僕もエロカナの護衛として、学校が違うのに一緒に下校するはめになったんですよ」

〔三〕「餌の彼女疑惑が出たのがそれか」

〔餌〕「エロカナが彼女とか拷問ごうもんですよ拷問ごうもん。ありえません」


〔三〕「で、そのお百度参り事件って。丑の刻に五寸釘ごすんくぎでも神社に打ちに行ってたわけ」

〔餌〕「そんな生易なまやさしいもんじゃありません。仏像の『マダム』と大差ないヤバさです」

 餌の言葉に、三元さんげんの顔色が青ざめた。




〔三〕「その『お百度参り』と言うべきか『六条しをん』と言うべきか。とにかくシャモの彼女候補が『マダム』並みの女って事は、直接相手に突撃するタイプかそれとも金に物を言わせるタイプか」


〔餌〕「気持ちを隠すって事が出来ない人で、振られても振られてもめげずに何度も突撃するんです。仕事とか勉強ならそれで良いとは思いますが、人の心はね。断ってるのに何度も来られると参るじゃないですか」


〔三〕「まさか百回相手に告白したとか」

〔餌〕「横浜マーリンズのジュニアユースの子にガチ恋して、放課後に毎日練習見に行って手紙とかおふだとか」

〔三〕「おふだって。ドン引き確定案件」

〔餌〕「お守りじゃなくておふだですからね。しかもちゃんとその子の名前で祈祷きとうした奴」

〔三〕「怖えーっ。無理だってそれ」

 三元さんげんふるえあがった。


〔餌〕「百日通ったところで遂に出禁になって。その子の身辺調査を六条しをん名義で請負サービスに依頼したものの通報されてアカウント凍結。そこからマーリンズの練習場最寄り駅でストーキングを始めまして」

〔三〕「マジかよ。シャモやべえ」

〔餌〕「逆にそういう女があっさり想いを遂げたらどういう反応をするのか、ちょっと興味も出てきました」




〔三〕「あれそれ何年前の話」

〔餌〕「一年ちょっと前ですね。僕が高校に上がる頃だから」

〔三〕「もしかしたら下野しもつけ君が知ってるかも。横浜マーリンズのジュニアユースだったじゃん」

 えさ三元さんげんの指摘にあっと声を上げて固まった。


〔餌〕「まさかとは思うけど、相手が下野君だったらどうしましょう」

〔三〕「下野君って、おこめパンを誕生日に彼女にプレゼントして、『地獄に落ちろ(煉獄でも可)』って言われて振られたんでしょ。違う相手じゃないのか」


〔餌〕「シャモさんに面通しする前に、下野しもつけ君にも意見を聞いた方が良いかもしれません。その当時を知っているはずですよ」

〔三〕「あまりにヤバすぎる女だったら引き離すしかあるめえ」

〔餌〕「あの事件で改心してくれてれば良いんですが」

 えさ三元さんげんはふうっとため息をついた。



 ※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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