22-2 落研ファイブっ

〔松〕「僕らのチーム名をここで決めませんか。チーム登録の際に必要でしょう」

 シャモデザインTシャツを部費で買わせるたくらみを打ち砕いた戦術分析官せんじゅつぶんせきかんの松尾は、真面目な顔で一同を見渡した。


〔三〕「『落語研究会』で」

〔シ〕「ビーチサッカーで『落語研究会』って」

〔三〕「落語はゆずれない」


〔シ〕「戦隊ものっぽいのは。一並ひとなみファイブとか」

〔仏〕「このTシャツ、戦隊意識した」 

〔シ〕「ユニフォームも戦隊ものっぽく赤・黒・青・ピンク・黄色・緑とかあると良いと思って試作したんだけど、色を統一しなけりゃならないのを忘れててさ」

 三元さんげんが仏像からもらった大仏メモ帳に早速走り書きを始める。


〔シ〕「落語戦隊一並らくごせんたいひとなみず」

〔松〕「語感がちょっと。○○ファイブって感じが締りが良いですよね」

〔シ〕「じゃあもう落研ファイブで良いじゃん」

〔三〕「それだっ! それなら落語要素もちゃんと残る」

 三元は仏像からもらった大仏ペンで『落研ファイブ』と走り書きした。


〔三〕「うーん、何か足りない」

〔餌〕「『落研ファイブっ』。これですっ!」

〔三〕「言われてみれば勢いがまるで違う」

 かくして、一並高校草サッカー同好会の大会登録名は『落研ファイブっ』と相成ったのである。




〔シ〕「餌。そう言えば女の子を連れて練習試合に来るって言ってたじゃん。あれ俺がターゲットってどう言う事だよ何か怖い。何企んでんの」

〔餌〕「シャモさんに彼女が出来るかもって話」

 その一言に三元がげえええっと声を上げた。


〔三〕「シャモ、お前裏切らねえよな。俺たちモテない組だよな。な、そうだよなそうだと言ってくれよ頼むこの通り」

〔仏〕「そんな立ち位置に自分を置こうとするからモテねえんだよ」

 シャモに彼女が出来るかもしれないと知った三元は、哀願と心配の形を取った呪いの言葉の数々をシャモに投げつけた。


〔仏〕「それにしたって、どこにそんな奇特な奴が」

〔餌〕「エロカナの友達だよ。この前会ったでしょ。あの仁王(吽形うんぎょう)みたいな偉そうな女。あれの友達」

〔仏〕「あのミニ獅子舞ししまいみたいな女か。あれの友達だろ、ちょっとな」

〔シ〕「俺の知らない間にどんな話が進んでるんだよ。聞かせろ」

 シャモはビワの葉茶をごくりと飲むと、ずいっと餌に顔を近づけた。


〔仏〕「ここでエロカナの話をするのか。飛島君と松尾の教育上だめだろう。ほら、そろそろ帰るぞ」

〔三〕「おいおいエロカナってエロい女子高生なの。エロいの」

〔仏〕「興福寺こうふくじ金剛力士こんごうりきしっぽい子。黙ってりゃ吽形うんぎょう笑うと阿形あぎょう。じゃ、俺らはこれで」

 あからさまに不自然に逃げ出そうとする仏像にうながされた松尾と飛島が時計を見ると、確かに一時間以上が経っていた。



※※※



〔三〕「あいつら本当に帰ったわ。仏像ってマジでエロネタになると逃げるよな」

〔シ〕「そもそも金剛力士のどこがエロいんだよ」

〔餌〕「エロカナはエロいと言うよりエグイ」

〔三〕「餌をして『エグイ』と言わしめる強者つわもの。そして類は友を呼ぶとのことわざもあり」


〔餌〕「ええ。去年シャモさんに差し上げた誕生日プレゼントが、ついに日の目を見るかもしれません」

〔シ〕「あんなのが日の目を見る可能性のある女子だろ。いくら俺が彼女いないと言えどもさすがに」

〔餌〕「僕も生贄いけにえを捧げないと大変なんです」

 いやいやと首を横に振るシャモに餌が畳みかけた。



※※※



 彼女万年募集中のシャモと三元さんげんに女体にしか興味が無いと言い放つ餌は、改めてビワの葉茶で乾杯をした。


〔餌〕「シャモさんの門出を祝してカンパーイ」

〔シ〕「俺史上最低の誕生日プレゼントが活用出来そうな相手とくっつけようとすんな」

〔三〕「こってこてのジュースで乾杯したかった」

 カンパーイとニコニコ顔の餌と、背後霊はいごれいに張り付かれたような三年生二人は実に対照的な顔色である。


〔シ〕「で、俺の彼女候補ってどんな子」

〔餌〕「【みのちゃんねる】ビーチサッカー回の収録に、加奈ちゃんって女子高生が来ましたよね。その子と一緒に来た子がシャモさんに一目ぼれしちゃって」


〔シ〕「加奈ちゃんって『洋尺八ようしゃくはちの加奈』だ」

〔三〕「洋尺八ようしゃくはちって意味深すぎんだろ」

〔餌〕「クラリネットの内輪での呼び名です。そこは別にエロ関係ない」

 餌は失笑気味に返した。


〔三〕「加奈はえさの小学校の知り合いか」

〔餌〕「はい。洋尺八の加奈ことエロカナは吹奏楽クラブの先輩かつ子供会の顔役かおやくで、純真な小学生だった当時の僕は絶対服従状態ぜったいふくじゅうだったんです」

〔三〕「エロカナってひでー呼び名。本名は」

〔餌〕「江戸加奈えどかなです。ここからがややこしいと言うか何と言うか」

 餌は一息にビワの葉茶を飲むと、ぎろりとシャモを見た。


〔餌〕「エロカナは元々仏像ファンでした。それで『将を射んとすれば先ず馬を射よ』の格言通り、同じ一並ひとなみ高校に通うシャモさんのチャンネルに登録したんです」

〔シ〕「えさの女王様みたいな立ち位置だろ。餌に言えば良かったじゃん」


〔餌〕「僕に弱みを見せたくなかったんでしょ。その上僕は中学時代は吹奏楽で高校から落研だし。エロカナはスノボの王子様時代の仏像しか知らないから、僕たちが同じ部活にいるなんて夢にも思わなかったらしいんですよ」


〔三〕「それならシャモと仏像ぶつぞうつながっているとも思わなそうだけど」

〔餌〕「そりゃ僕らから見ればそうです。ただ、見方を変えればシャモさんはチャンネル登録者数十万人越えの人気配信者かつ一並ひとなみ高校在校生でもあるわけでして」


〔シ〕「それで仏像狙いのエロカナは俺の企画に応募し見事チャンスゲット。収録に友達をぞろぞろ連れてやって来た」

〔餌〕「そしてそのお友達がまさかの生シャモさんに一目惚れ」

〔三〕「くっそ! くっそ! シャモの何が良いんだよマジで」

 やってられねえと三元さんげんは叫ぶ。


〔餌〕「昔の美少女みたいな子がいたでしょ。大きなリボンで髪をハーフアップにした、黒髪のロングの子」

〔シ〕「えーっ! あの子ーっ。まじでー、良いの俺あの子に行っちゃって」

 餌マジでありがとうもうマジありがとうと叫びながら、シャモは『エンダーイヤー』と叫んだ。




〔み〕「あんたたちうるさいよ。今はお客さんがいないから良いけど、お客さんが来たら静かにしな」

 座敷に顔を出したみつるにたしなめられ、三人はひそひそ声で話を続ける。




〔餌〕「えっ、マジで。マジでそんなにあっさりくっついちゃうの。嘘でしょ」

〔三〕「でもその女ヤバいんだろ」

〔餌〕「シャモさんがこれだけ乗り気なら案外問題ないかも」

〔三〕「『逆張ぎゃくばりのシャモ』がこれだけ大乗り気って事はその女マジで止めた方が」

 三元は『エンダーイヤー』と叫び続けるシャモをあわれんだ。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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