20-2 真・合コンクラッシャー

〔三〕「ビーチサッカーって音楽掛けながら試合をするんだっけ。だったらこれ掛けたらどう」

 おこめパンを食べ終えた三元さんげんが、スマホ片手に意外な事を言い出した。

〔仏〕「出囃子でばやしじゃねえか。こんなの試合会場で掛かるわけねえ」

〔三〕「じゃ、これで」

〔松〕「昔のマジックショーで使われそうな。出囃子でばやしよりは合うでしょうが」

 三元さんげんはむうと顔を膨らませると、とある販促用の曲を大音量で流し始めた。


〔シ〕「これこそ無いわ。そんな選曲しか出来ねえから合コンクラッシャーって呼ばれるんだよ」

〔松〕「でもこの曲は『ポポーポ ぺぺポ』よりはまだ」

〔餌〕「案外合ってますって。ほらここの『タン・トン・タンッ』って辺りで軽ーく羽子板みたいにリフティングっ」

 餌が右足でひょいっとボールを宙に浮かす。


〔仏〕「いつの間にリフティングが上達してやがる」

〔シ〕「さすが驚異の学習能力。ギフテッド恐るべし」

 餌が『タン・トン・タンッ』と口ずさみながら右足でリフティングをこなす脇で、松尾はベースコードと効果音を即興で付ける。


〔仏〕「松尾の文化祭の出し物はヒューマン・ビートボックスと声帯模写せいたいもしゃで決まりな」

〔松〕「お断りします」

 松尾はきっぱりと仏像の命令を拒絶した。



※※※



〔三〕「もうだめだ息が切れる」

 結局BGMを使わずに練習を始めて一分と立たないうちに、宿題を投げ出して球拾い係となった三元さんげんがリタイアした。

〔松〕「そんな状態で本当に千景ちかげおばさんのダイエットモニターになる気ですか。止めた方が」

〔シ〕「保健室に行こう。明らかにへばり方がおかしいもん。保健の先生からお墨付きが出たら、体育もビーチサッカーも堂々と休めるだろ」

〔三〕「病人扱いは止めろよな。いや待て。そうか、休めるか」

 じゃ行ってくると言い残すと、三元さんげんはシャモに付き添われて保健室へと向かった。



〔仏〕「次はPKの練習。一人二本ずつ蹴って交代で。ゴレイロ(GK)は天河てんが君と長門ながと君で交代ね」

 三元さんげんとシャモを見送った仏像は練習を再開した。

〔餌〕「ハンドスプリングスローっ!」

〔仏〕「何でPK練習でハンドスプリングスローをやろうとするんだよ。PKは足で蹴るの!」

 パンダのような顔をぷうと膨らませたえさは砂山を作り直す。



〔餌〕「やっちゃうよ! ヘイ!」

 助走もつけずに蹴ったPKをあっさりと右足で止められたえさは、なおもボールに向かうが。

〔餌〕「天河てんが君がいじめるのおおおおっ」

 全力で蹴った二本目を、天河てんがは四十代フェイスを崩す事も無く右手一本で弾き飛ばした。



〔長〕「ちんここに帰還きかんせり。簒奪さんだつ者はね」

 正ゴレイロの天河てんがと交代するにも、いちいち小芝居を挟まずにはいられぬプロレス同好会のさがである。

〔松〕「待ってください。一応ルール通りに交代しましょう」

 芝居がかった仕草でゴールポストに近づく長門ながとを制した松尾は、交代ゾーンを指さした。


〔長〕「ゾーンじゃないところで交代したら反則。色々覚える事があるな」

 長門はゴールポスト前に陣取ると、早速ぴょんぴょんと飛び始めた。


〔長〕「向こう正面!」

 下野しもつけを動揺させようと放った一言に構わず、下野しもつけは淡々とループシュートを放つ。

〔下〕「うわっ、やられたっ」

 美しい弧を描きながらゴールに迫るボールを右手一本で跳ねのけた長門ながとは、ゴールに仁王立ちした。


〔長〕「入るな、入るな、入るな入るな!」

 下野しもつけをプロレスモードで威嚇いかくする長門に構わず、息を整えた下野は強いライナー性のボールを右サイドネットに突き刺す。

〔松〕「すごーいっ!」

〔天〕「さすが代表レベル」

〔餌〕「これ見せられたら女子は即落ちだよ。『合コンクラッシャー三元』の代わりに合コン来てよ!」

〔下〕「おこめパン一つで彼女に振られた男っすけど、良いんすかね」

 下野しもつけはまだまだおこめパン事案から立ち直れていないらしい。



※※※



〔坂〕「おーい君たち、出席を取るぞ」

 部活時間が終わるころ、松尾の担任である坂崎が出席簿片手にピッチそばにやってきた。


〔仏〕「時間が押したから整理運動は各自でやって。五分で片付けして撤収てっしゅう

 手早く着替えた仏像は、ポップアップテント片手に歩き去った。




〔下〕「俺もあれぐらい絵になる男になりたい」

〔長〕「ちょっとすきがある位の男の方がモテるって。政木まさき君あれだけイケメンなのに、女の影ないし」

〔天〕「ヤバいぐらいモテまくるのは一並ひとなみ高校在校生全員が知る所だけど、政木まさき君の彼女って聞いたことが無いもんね」


〔餌〕「案外いないかも。合コン相手の女の子に『不動明王ふどうみょうおうに似てるね』とか言っちゃうし。『サイの角』『雲龍図うんりゅうず』とかさ。本人は純粋にめてるつもりだから余計にたちが悪い」


〔長〕「ああ、顔で釣って話して振られるタイプね」

〔天〕「政木まさき君こそ真の合コンクラッシャーか」

 長門ながと天河てんがは、至極冷静しごくれいせいに落研合コン連敗の真犯人を言い当てた。


※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。

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