7-2 昭和レトロな夜にして
〈にぎわい座にて
まるで
〔三〕「
〔シ〕「気が付いてないんじゃ」
ロビーでぼやく
〔シ〕「うちの母ちゃんが
〔三〕「二人とも未亡人だから問題はないんじゃねえの」
〔シ〕「いやねんごろってそういう意味じゃねえだろ」
シャモは吹き出しそうになるのを何とかこらえた。
〔シ〕「どうも母ちゃん、『みのちゃんねる』と
〔三〕「どうもこうも、一曲唄ってもらってちょっと対談でもすれば。逆にそれ以外何をするの」
そう簡単に言うけどさとシャモがぶつくさつぶやいていると、
※※※
うち身師匠が相も変らぬ偉大なるマンネリ芸で、お客さんの脳みそをスローアルファ波に
お待ちかねの
〔シ〕「
どこかで聞いた事のあるテルミンのような音の前奏が四小節分流れると、スポットライトに浮かび上がる二人の
〔三〕「芸の道に入って長生きするってのはこういう事なのよ」
〔シ〕「モノホンですらこの芸風から脱して半世紀ぐらいは経つぞ」
真ん中辺りの特等席に座っていたシャモと
〔三〕「半世紀どころか、モノホンはとうの昔に
〔シ〕「妖精って何だよ」
〔三〕「
〔シ〕「分かるかっ! この化けタヌキが」
※※※
『みのちゃんねる』の真のアカウント主である母親に、シャモが逆らえるはずは無い。
〔う〕「
のんびりと茶をすすりながら、うち身師匠がシャモをからかう。
〔千〕「アタシかい、それとも
〔神〕「
持つ訳無いだろと心の中で突っ込みを入れながら、シャモは二人の老婆に頭を下げる。
〔シ〕「お初にお目にかかります。私、
〔千〕「あら、
シャネルのNo.5を体中に振りかけながら、
〔神〕「うちの師匠が元気だった頃は、
〔千〕「馬鹿をお言いでないよ。
〔神〕「アタシが年寄りなら、
〔千〕「そりゃ良いや。絶世の美女って事だろ」
マイクロミニのワンピースがやせ細った体から完全に浮いているのにも構わず、千早はくねくねよたよたと壁に手をつきながら踊る。
牛の筋肉のような尻に申し訳程度にまとわれたショッキングピンクのTバックを目の当たりにしたシャモは、安易に母親の言いつけに従った己を呪った。
〔う〕「若旦那がお嬢さん方と晩飯としゃれこみたいらしいんだがどうだい。たまには若いのとしっぽり洋食も悪かないだろ」
〔千〕「そりゃ良いね。だけど食事だけだよ。その先を期待すんじゃ無いよ」
誰が期待するかと心の中で思いつつ、日高昆布の袋をうち奮って高笑いする母親の顔が思い浮かんでシャモは母親にも悪態をついた。
※※※
〔千〕「お待たせ」
通用口を出てきた
〔う〕「知る人ぞ知る洋食屋があるんだよ。
二人は着いてこないのかとぞっとしながら、シャモは完全アウェーに乗り込んだサッカー選手の気分で大通りを歩く。
〔シ〕「
今頃御米師匠に夢中になっているであろう
〔店〕「いらっしゃいませ。
〔店〕「こちらは当店のサービスです。おからのテリーヌでございます」
どのような予約内容なのかも知れないまま
〔店〕「お代は全部
〔シ〕「コース料理でしょうか」
〔店〕「いえいえ、どうぞお好きな品をお選びください」
すっかり安心したシャモは、ビーフカツレツを注文した。
〔神〕「
〔シ〕「済みません、僕はまだ高校生なんです」
事情をつまびらかに話すと、
〔千〕「こりゃとんだ坊やに
〔神〕「早く大人になってアタシらにどんどん
バブル時代の記録映像で見たようなスカーフを巻いた千早と神代が、かつての戦利品らしいいかにも高価そうな時計を見せびらかしつつシャモにキスマークの雨を降らせた。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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