7-1 生霊の宴
〈臨時休校当日 味の芝浜にて〉
〔歌〕「おやおやこりゃ若様に
シャモが【
〔み〕「
みつるの声掛けで、シャモは実家の
〔シ〕「
張りのある声は未だ健在だが、日々ロマンナイトや
〔歌〕「昨日の『みのちゃんねる』、ずいぶんな
〔シ〕「ご覧になったんですか」
〔歌〕「見た見た。近頃の若い人は
〔う〕「あたしらは、らくらくホンしか使えないんだもの嫌になっちゃうよ」
はーあーと言いながらタオルおしぼりで顔を拭くと、
〔歌〕「それにしたって
〔う〕「金があったから
したり顔で二人の老芸人が顔を突き合わせてしゃべるのを聞きながら、こんな会話ばかり聞いているから今の
〔み〕「
〔歌/う〕「違えねえ」
〔う〕「今日は二つ目(※)さんと、
〔み〕「今日はずいぶんにぎやかだね」
〔三〕「
三元はほうじ茶を飲むと、落研の残り三人に連絡をした。
〔三〕「シャモも来るだろ」
〔シ〕「行くわ。一旦帰るけど」
〔三〕「帰るの面倒くさいだろ」
〔シ〕「だって、旬のネタは旬のうちに
〔三〕「今日も生配信やるつもり」
〔シ〕「生はやり過ぎると飽きられるからやらねえけど、収録と編集はしたかったんだよ」
〔三〕「うちですりゃいいじゃん」
〔シ〕「スマホじゃ出来ねえよ。結構こだわって作ってんの」
スマホでも編集は出来るのだが、すっかり枯れた老人のペースもとい
口から出まかせを吹いたシャモは、キジ焼き重をかき込むと、みつるにごちそうさまでしたと声を掛けた。
〔み〕「帰りに晩飯もうちで食って行きな。でかいイサキが入ったんだ」
今年一番の大漁だったらしいんだよと、みつるは得意げである。
〔う〕「イサキだけじゃなくて、鯛とヒラメも当たり年らしいね」
〔歌〕「晩飯も呼ばれりゃどうです
〔シ〕「十八歳に酒を
〔み〕「そうかい。最近の若い子はせわしないねえ。若いうちはもっと遊ばなけりゃ」
みつるの声を背に、シャモは
※※※
「母ちゃん、にぎわい座で
家にとんぼ返りして台所に駆けこむなり、シャモは息せききって母親に告げた。
「どうしたんだよ背中に
「
「ははっ。そりゃ
シャモの母は、
「
近所に住む
「おっうまいね。でさ、楽屋に何持って行きゃ良いと思う」
「あんころ餅でも持って行っておやりよ。
冗談とも本気とも取れぬ口調にシャモがぎょっとしていると、冗談だよと言ってシャモの目の前にデパートの商品券を五千円分並べた。
「今日は他に誰が出るんだい」
「うち身師匠と
「まだ生きてたのかい竜田川姉妹。ビックリだよ」
「有名なの」
「まあ、ある種有名だね」
何がどう有名なのかについては、母親は何も言わない。
「その商品券で
それきり母親は戻ししいたけを細かく刻む作業に没頭したので、シャモは自室のせんべい布団にでんと座って編集作業を始めた。
「そうだ
「なんだよいきなり入ってくるなって言ったろ」
「あんた変なもん見てんじゃないだろね」
「見てねえよ。何だよ母ちゃん」
シャモの母は
「あんたさ、せっかく
「だって俺その竜田川姉妹ってのを知らねえんだよ。何話せば良いんだよ」
にやにやと笑う母親は、
「まあそりゃ見てのお楽しみだよ。仲良くなったら『みのちゃんねる』にでも友情出演してもらえば良いじゃないのさ。と言う事で、
「どう言う事で夕飯抜きにされんだよ!」
「だーかーら。
「何でそんなに竜田川姉妹推しなんだよ。母ちゃんが食ってこいってんだ」
「あんたじゃなきゃ、『逆張りのみの』じゃなけりゃ意味がないんだよ」
ふんっと鼻を鳴らすと、精々気張りなと言って母親は台所に降りて行った。
「竜田川姉妹っと――。何これ、きっついなー」
しかしながら検索結果の写真はどれもこれも、シャモが生まれる前の竜田川姉妹の写真なのである。
※二つ目 江戸(東京)落語の階級制度(前座・二つ目・真打)の二番目にあたる階級
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
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