4‐2 怪しい宿に男が三人。『〇〇』しなけりゃ始まらない。
〔シ〕「うわーっ。マジでやっべえ所に来ちゃった」
カメラに向かって今
〔餌〕「暗証番号は僕が押しますっ」
〔シ〕「うぐいす張りの
〔三〕「
人の気配が全くしない中、裸電球が
『二〇一~二〇三号室はこちら』と書かれた案内板は昭和中期の記録映像に出てくるような古ぼけたプラスチック板で、ホラー臭をより一層強くする。
〔シ〕「
なぜか内股になったシャモが
〔三〕「シャモ、ひでー
〔シ〕「何で内股=ビビりなんだよ。武道の構えは皆内股なんだよおおお」
〔三〕「仮に内股だったとて、そんなへっぴり腰じゃねえぞ」
〔?〕『ぎゃーっ!』
低レベルな言い争いは、
〔餌〕「どうしたんですか、そんな顔して」
二人が急いで階段を上がると、
〔シ〕「だってお前バカでかい悲鳴上げたじゃん」
〔餌〕「はあ? 全然」
餌は見当もつかないと言った様子で、
〔シ〕「ちょ、ちょっともう一回。
細身の長身をかがめたシャモは、【みのちゃんねる】用にたっぷりと
〔シ〕「思ったよりマシじゃん」
部屋の入り口には、深緑色のスリッパが三組とべっこう色の靴ベラ、それに靴の着脱時に使う腰掛けが置いてあった。
〔三〕「いいじゃん、ここ」
ガラス戸越しに、
〔シ〕「よし、宿についたらやる事は一つ。
〔三〕「隣に
〔餌〕「『宿屋の
〔シ〕「
〔三〕「良いからとりあえず『宿屋の
〔餌〕「僕らはお魚屋さんじゃないし。シャモさんの後ろの何かさん。日本橋の
餌はシャモの第七
〔シ〕「さあさあはっけよい」
〔三〕「ああ、この
机の上に置かれた
〔シ〕「東ーっ、シャモの海。西ーっ、タヌキ山」
〔三〕「これ帰りに買っていこう」
〔シ〕「東ーっ、シャモの海。西ーっ、パンダ山」
パンダ山こと
〔シ〕「シャモの海は対戦相手を探してゲルからパオ、パオからゲルへと」
〔三〕「マジで隣に人がいたらやばいって静かにしろ」
二人に相手にされないシャモは、部屋中に座布団を巻き散らかして飛び移る。
〔餌〕「モンゴル
〔三〕「その座布団はゲルとパオのつもりなのか。だったら踏むなよ。中の人がパンナコッタみたいにつぶれちまう」
〔シ〕「二人とも何で
〔餌〕「何でって、シャモさんの後ろの何かの思考回路の方が何でですよ」
餌が再び
『うっせえんだよ締めるぞボケーっ』
『ぎゃーてーぎゃーてーはらぎゃーてー』
どんどんと壁を叩く音と、みつるが毎朝唱えているお経がひっきりなしに聞こえてきた。
〔三〕「ほらみろ、シャモ静かにしろって」
『黙れクソガキ共! 俺は仕事でこんな山ン中に三週間も缶詰になってんだふざけんな」
〔シ〕「えっ。静かにしてたじゃん」
〔餌〕「『
一瞬顔を上げたシャモは、柱に向かってすり足でテッポウを打つ。
テッポウを打ち始めたシャモの腰を、すっくと立ち上がった
〔三〕「西いいい、タヌキ山。隣のお
〔シ〕「まだ日が高いし怒られる筋合いはねえ。
〔三〕「黙れ」
暴れ足りなさそうなシャモを力士さながらの体格で
〈大浴場にて〉
〔シ〕「イチバーン!」
〔餌〕「今どき小五でもそんな事やりませんよ」
水面で腹を打って苦しがるシャモに冷ややかな顔を向けると、
〔餌〕「そう言えば
〔三〕「鯉が滝を昇ると龍になる伝説があるだろ」
〔シ〕「なのに
一年前の文化祭での事。
ギターボーカルのシャモの隣で、パフォーマーの
〔三〕「龍と
〔シ〕「適当な事言ってんじゃねえぞ。
〔餌〕「あえて
〔三〕「分かんねえ」
〈サウナ上がりの男〉
『東証スタンダード』の一言で口数の極端に減った
〔シ〕「そう言えばさ、小学校に
〔三〕「よくレアを引けたな」
〔シ〕「だよな。あの超陰湿キャラの幸平が神扱いなのにイラついて。奴がレアものを入れる袋に森崎いちごのカードを突っ込んだんだわ」
〔三〕「寄りにもよって森崎いちごかよ。熟女界の女王にして
〔シ〕「それでいつも通り休み時間にその袋を開けたら、クラスの女子に生ゴミ扱いされやがってマジでざまあ」
〔三〕「お前の方がずっと
〔幸平父〕「
七夕祭と大書されたタオルを両の腰骨に引っかけたガタイの良い男が、至って
〔幸平父〕「幸平は、
ほら話のはずが厄介な事態になったと、シャモは目を左右にせわしなく動かしている。
〔シ〕「ちょっと待ってください。お宅の幸平君と僕の話す幸平君は絶対別人。だって僕はこいつの機嫌を直そうとほら話を適当に」
ひょいと横を向くともぬけの
これは大変な事になったと一目散に逃げ出そうとするも。
〔幸平兄〕「ここで
がらりと大浴場の扉を開けた男は、手ぬぐいを太い首に引っかけている。
〔幸平兄〕「
二人の大男は、無駄にガタイの良い上半身を震わせて男泣きを始めた。
〔シ〕「いやいやいや誤解ごかいゴカイですって。僕はタヌキの置物みたいな奴にほら話をしていただけで。僕はお宅の幸平さんの事は何一つ知りませんからあああっ」
逃げ出そうとしてタイルに足を滑らせて派手に転んだシャモ。
その目の前で大浴場の扉が全開になると、白ブリーフ一枚の
〔シ〕「これじゃまるで本当に『宿屋の
〔三〕「シャモ、俺を適当なほら話で
〔餌〕「
〔シ〕「
あわてるシャモを取り囲むように、幸平の父と兄が無限に現れる。
〔シ〕「いやーっ。ごめんなさい全部嘘です。もう嘘はつきませんからーっ」
幸平の父が七夕祭と大書されたタオルの脇から刀をすらりと抜いた所でシャモと
※※※
〔餌〕「
〔三〕「はっ? 幸平の父ちゃんは」
〔シ〕「嘘、ホラなんですうううっ」
〔餌〕「何寝ぼけてるんですか二人とも。まだ春合宿は始まったばかりですよ」
〔三〕「あれ、スマホの時計が狂ってる。ま、いっか」
呆れたように
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※ 宿坊 神社寺院等が参拝客・巡礼客のために運営する宿泊施設
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