4‐1 ロマンス(カー)が止まらない 鶴巻温泉
〈四月第三週土曜日 午前八時過ぎ〉
シャモが【みのちゃんねる】のフォロワーに連絡を取りつつ
〔三〕「改札が三つもあるなんて聞いてないよ。あっ、
遅れてきたにも関わらず改札内で
〔三〕「これより落語研究会の春合宿を始めます。草サッカー同好会ではなく、落語研究会の春合宿です。家に帰るまでが合宿です。はしゃいだり、みだりに買い食いなどしないように」
〔シ〕「今しただろ」
〔餌〕「良いから早く行きましょう。乗り継ぎに失敗したらロマンスカーに乗れないです」
パンダのリュックを背負った
〔シ〕「念のために言っておくが俺たちの行先は
〔餌〕「ええっ。
※※※
話は木曜日の夕方にさかのぼる――。
〔み〕『ちょいとアタシの代わりに土日で一泊旅行してくれないかい。三人部屋が取ってあるんだけど、四郎ちゃんが
〔三〕『だったら
納豆をかき混ぜながら
〔み〕『今さら宿のキャンセルも気が引けるし。時坊の友達を二人連れて遊びに行きな』
〔三〕『
〔み〕『安心おし。時坊は
〔三〕『それを言っちゃしまいじゃないかい』
〔み〕『まあまあ良いじゃないのさ。それでね
そして土曜日午前八時二十分頃
〔三〕「ばあちゃんが三人分の交通費も食費も
〔シ〕「持つべき者は太い実家だな」
〔餌〕「シャモさんの家はシャモさんが
〔シ〕「四割母ちゃんに差っ引かれるけどな」
有名色物配信者『みのちゃんねる』としての
〔餌〕「神社にはロープウェーで行きますよね。そうじゃなきゃおごりでも絶対嫌です」
〔シ〕「階段ダッシュもろくに出来ない
〔餌〕「シャモさんは【みのちゃんねる】のロケも兼ねるんですよね」
〔シ〕「じゃなきゃ
〔シ〕「ばあちゃんの彼氏の孫だって、連れて行かれる先が山のてっぺんの神社にさびれた温泉なら、どんな理由付けてでも逃げるに決まってるだろ」
〔三〕「
〔餌〕「子供を出しにして誘い出したあげくしっぽり彼女と二人きり。温泉宿でお初の」
〔三〕「いや彼女もうすぐ七十七歳だからああーっ」
ぐふふとおかしな声を出して笑いをこらえる
〈
〔シ〕『
シャモは『
〔?〕「『みのさん』もう着いたの」
カメラを回しながらバス停方向に歩いていると、
〔二〕「『
【行動経済学の雄
〔二〕「皆で
【みのちゃんねる】の
〔二〕「ここら辺りからちょっと道が揺れるよ」
〔シ〕「本当に助かりました。
〔二〕「
二階ぞめきは、
〈
〔餌〕「
〔シ〕「一言多いんだよまったく」
〔餌〕「まあまあそこはこのパンダのリュックに免じて。
二人が話し込んでいる間に、
〔三〕「お札をもらってきた。早く駐車場に戻らなけりゃ」
〔シ〕「なあ、おみくじ引かねえの」
〔餌〕「
中吉と
シャモの絵馬には『チャンネル登録者数十万人越え』、
〔三〕「お前ら彼女は頼まなくていいのかよ。いい加減彼女いない歴=年齢から脱出しようやお互い」
〔シ〕「さすがに神頼みするほど飢えてねえわ」
〔餌〕「僕が好きなのは女体と森崎いちご様であって、彼女とかお付き合いうんぬんは割とどうでもいいですから」
ちなみに森崎いちごとは、餌が生まれた頃に『人妻物』で熱狂的な人気を誇っていたレジェンド女優である。
〔三〕「餌は相変わらず清々しいまでにゲスだな」
〔餌〕「おほめにあずかり光栄です」
シャモと
〈駐車場にて〉
駐車場に戻ると、
〔二〕「この後はどうするの」
〔三〕「
〔シ〕「本当は
シャモの隣で
〔二〕「こりゃ
〔シ〕「えええっ。じゃあ俺らここに
カメラを意識したオーバーリアクションを取ったシャモであったが、食べ盛り遊び盛りの高校生男子三人が
〔三〕「ばあちゃんの言う事をうのみにせずに、ちゃんと調べて来れば良かった」
凶のおみくじは当たってたと思いつつ、
〔シ〕「こういうのは仏像が抜かりねえんだよ。【みのちゃんねる】としては美味しいけど、
シャモは恨めしそうに緑豊かな山々を見上げる。
〔二〕「だったら少し遠いけど肉ががっつり食べられる店がある。おごるよ」
〔シ〕「えええっ。
〔餌〕「高梨教授のおごりとは。何と素晴らしい日でしょうか」
妙な所で人見知りな
※※※
タンシチューやステーキをごちそうになって三人が
〔シ〕「本当に助かりました。マジ愛しかない」
シャモが指でハートマークを作っている所をカメラで
〔三〕「で、これが今夜の宿か。ただの空き家じゃねえか」
戦後まもなく建てられたような一戸建ての
〔餌〕「しっぽりずっぽしの初夜にしちゃケチりましたね、彼氏」
〔三〕「若作りした所でしょせんは年金生活者だからな」
〔シ〕「その彼氏ってのはやっぱり味の
〔三〕「ないないない。だって『逆張りのシャモ』が警戒するんだもん。じゃ、行きますか。本当に大丈夫かこれ」
〔三〕「予約の部屋は二〇二号室、と」
二〇二と書かれたタッチパネルを押すと、長い棒の付いたアナログキーが自動販売機のように転がり出てきた。
※本作はいかなる実在の団体個人とも一切関係の無いフィクションです。
※2023/12/11 一部加筆
※与太郎 落語の登場人物『与太郎』は、おつむが弱いキャラに描かれるのがお約束
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます