第一章 高校生なんて

生きる理由が分からない

 自然と目蓋が開くと、目の前には見慣れた天井があった。

 なんだか懐かしい夢を見ていた気がするが、どんな内容だったかは覚えていない。でも覚えてないということは、覚えておくに値しない夢だったのだろう。

 そんなことを考えながら寝ぼけ目をこすり、ベッドの脇にあったスマホを取って画面をタッチする。


 一月十二日 木曜日 十四時五分


 ああ、また午後まで寝てしまった。たしか昨日寝たのは日付が変わるタイミングくらいだった気がするので、見事な十四時間睡眠をかましてしまった。


「でもまあ、起きててもやることないし」


 誰も居ない部屋の中で自分に向かって言い訳をしてから、体だけを起こす。それから何を考えるワケでもなく、ぼうっと辺りを見回してみる。全体的に白を基調とした部屋には、ベッドとテーブルとテレビ。それと小さな本棚しか置いていない。でも大学を卒業してからの五年間を、この面白みがない部屋で過ごしているものだから慣れてしまった。


「もう、五年か」


 考えてみると、俺は就職を機にこのアパートで暮らし始めたんだったな。

 そんなことを思うと、正社員として働いていた二年前のことを思い出す。


「俺、社会人だったんだよなあ」


 俺が二十二歳の時、新卒で就職して営業職に就いていた。しかし一年、二年と経っても営業の成績は上がらず、上司に詰められる毎日。それが耐えられなくなったのが、二十五歳の時。社会人三年目の時だ。俺は精神的に参ってしまって、親にも心配されてしまった挙句に営業の仕事をやめた。辛い日々から逃げ出したのだ。それからは社会人に戻れる気がしなくて、ラーメン屋でバイトをする日々。いわゆるフリーターという肩書を得て二年。現在の二十七歳に至る。

 週四か週五でラーメン屋でバイトをしながら、ワンルームのアパートで一人暮らしをする二十七歳の男。それが俺――犬飼柊一という人間だ。

 大学を卒業してからの五年間を思い出すと、胸がぎゅうと絞めつけられる。これから先の人生はどうなってしまうのだろう。未来のことを考えると、死にたくなる。

 生きることがつまらない。生きてる理由も分からないし。生まれて来なきゃよかったと毎日のように思う。けれども――

 ぎゅるるる。腹は空くのだ。


「コンビニ行くか」


 頭の中を支配していた未来のことを強引に振り払い、枕元に置いていた薄い財布を持って重い腰を上げる。

 クローゼットから適当に上着を取り出して、俺の一日はようやく始まりを告げたのだった。

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