金髪JCにエッチをしようと迫られたが面倒だからと断ると、なぜか惚れられてしまい結婚を申し込まれた。~結婚は大人になってからなとはぐらかしたのだが、金髪JCは清楚系JKになってまた俺の前に現れる~
桐山一茶
プロローグ
初めの出会い
氷のようなつめたさのベンチに腰掛け、「はあ」と白い息をこぼす。
空を見上げようとすると、葉が一枚もない禿げた枯れ木がこちらを見下ろしていた。
真冬にも関わらず裸でたたずむ枯れ木を見ていると、なんだかこちらまで寒くなってくる気がした。見て居られずに視線を下ろすと、誰も子供の姿がないブランコや滑り台などの遊具があった。
「疲れたー」
口からついて出た言葉のせいで、どっと疲れが襲い掛かる。
しかしそんな独り言が漏れるのも仕方がない。だって昼食も取らずにかれこれ四時間もぶっ続けで個人宅に飛び込みで営業をしているのだが、これといった収穫が無いに等しいのだから。
「この仕事、辛いな」
大学の四年間を遊びつくしたのちに、新卒で今の仕事に就いた。仕事内容は個人宅に訪問して、宅配サービスを利用するための契約をしてもらうこと。毎日午前十時頃から、午後五時頃までずっと個人宅を訪問して回る。ノルマだってあるし正直言って辛い仕事だが、大学の四年間を遊んで過ごした代償だと思いながら働いて、もうすぐで一年が経とうとしている。
でも辛い仕事だからと言って、決して辞めたいだなんて思わない。むしろもっともっと営業で成績を上げて、同期よりも早く昇進してやろうという野心まである。
俺はこれからの人生を、この会社に捧げる覚悟が出来ている。
そんなことを考えると自然とモチベーションが上がり、今日もまだまだ頑張れそうな気がして来た。
「よし、やるか」
休憩時間は約三分。今月もまだノルマを達成できていない俺には、ちょうどいい休憩時間だろう。
何が何でも今日は一件は契約させるぞ。そう心の中で意気込んでグッと伸びをして立ち上がろうとした、その時のことだった。
「ねえ、お兄さん」
後ろから声を掛けられた。まだ声変わりを迎えていないような、女の子の声だ。
振り向いてみると、そこには厚手のパーカーを着た中学生くらいの女の子が、ベンチに座る俺のことを見下ろしていた。しかも彼女を見て驚いたのは、その髪の毛だ。白色に近い金髪は肩辺りまでの長さがあり、太陽の光を反射させている。しかもぱっちり二重の周りには化粧をしているようで、目元にはアイラインが引いてある。まだ幼い顔をした彼女には不釣り合いな金髪と化粧。その二つが意味しているのは、恐らく――
「不良か」
「不良じゃないし」
一瞬で否定されてしまったが、彼女は不良で間違いない。この子の歳で髪色を金色に変えたり化粧をしたりするのは、不良意外に考えられない。
でも不良を前にして、怖いなどの気持ちは一切なかった。だって相手は中学生くらいの少女たった一人。落ち着いた気持ちのまま、俺は腕時計で時刻を確認してから彼女に向き直る。少女はぱっちりと開いた瞳を、こちらに向けている。
「中学生がこんな時間にどうした。まだ午後の一時だぞ。今日は木曜だし、まだ学校に居る時間だろ」
そう言ってみせると、少女の瞳が驚いたように大きくなった。
「なんで私が中学生だって分かったの? 同じ年の仲いい友達には中学生に見えないってよく言われるのに」
「いくら髪を金髪にして化粧したって、顔見れば大体分かるよ。あと声かな」
「私ってそんなに子供っぽい?」
「どうかな。中学生にしては大人っぽく見えるんじゃないか? 今、中学何年生だ?」
「一年だけど」
どうやら中学校には通っているようだ。他人事ではあるが、少しだけ安心している自分が居た。
「だったら少しは大人っぽく見えるよ。中学三年生くらいかと思ったから」
正直に思ったことを言うと、少女の瞳がふるふると震えた。
「ほんと?」
「ほんとほんと」
俺が頷いたのを見て、少女は途端に目を細めた。上機嫌な様子のまま、今度は自然な動きで俺の隣に腰掛けた。
まずいな。俺は一刻も早く仕事に戻らなければいけないのに。今月はノルマも達成できそうにないので、中学生と話している暇なんてない。
でも不良少女の機嫌を損ねさせると後が怖そうなので、俺は「五分だけなら」と自分に言い聞かせてこの場に留まることを決意した。
「やっぱり中一には見えないかー。よく言われるもんなー」
それを言う彼女の口ぶりは、どこか嬉しそうだった。
そう言えば中学生の時って、「大人っぽいね」と言われるのが嬉しかった気がする。
「それで、どうして平日の昼間に中学生が公園に居るんだよ」
「そんなのお兄さんも一緒でしょ? スーツ着てるし、仕事抜け出して来たんじゃないの?」
彼女は目を丸くさせながら、俺の顔を覗き込んだ。そこで化粧の裏に見え隠れする彼女の顔が、意外にも美人そうだったことに驚く。
「俺は営業って仕事してるんだよ」
「営業? なにそれ」
「営業の種類は色々あるけど。俺の仕事は簡単に言うと、色んな家を訪問する仕事だ」
「えー、面白くなさそう」
「仕事って大概が面白くないからな」
でもやりがいはあると、自分に言い聞かせる。
けれども彼女はよく思わなかったようで、「ふーん」とつまらなそうな声を発した。
「じゃあ仕事中なんだ。てっきりサボり仲間かと思っちゃった」
「やっぱり学校サボってるんだな」
まあ予想は着いてたけど。彼女の容姿を見れば、誰だって分かるだろう。
「うん。だってつまらないんだもん」
「学校がつまらないのか?」
「人生がつまらない」
本当につまらなそうな顔で、少女はむっと唇を尖らせた。
そんな少女の横顔を見ながら、俺は可哀想だと思ってしまった。だって俺が中学生の時なんかは、毎日が楽しくて仕方がなかった。退屈な授業は聞いているフリをして、部活に打ち込み、帰ったら友達と自転車を漕いで遊びに行く。そんな毎日がずっと続けばいいと思っていたのに、彼女の場合は違うらしい。
「なにがそんなにつまらないんだ」
「全部だよ。生きることがつまらない。生きてる理由も分からないし。生まれて来なきゃよかったって毎日思ってる」
少女は足を抱えるようにして座ると、膝に顎を乗せて遠くを見た。
生まれて来なきゃよかった、か。俺も嫌なことがあった日には死んでしまいたいと思うことがあったが、ただ思うだけで実行には移さないような小さい悩みばかり。だけどこの少女は本当に生まれて来なきゃよかったと思っているから、学校にも行かずに髪を金色に染めて、彼女なりに現実に抗おうとしているのだろう。
だけども俺はそんな彼女になんて声を掛けたらいいのか分からずに、思わず黙り込んでしまう。回転しない頭をどうにかして動かそうとしていると、不意に少女の顔がこちらを向いた。
「ねえ、お兄さん。私とエッチしない?」
その言葉を聞いて、俺は聞き間違いかと自分の耳を疑った。
しかし少女の方を見ると、彼女の頬は赤く染まっており、今のセリフが聞き間違いではなかったことを表していた。
どうして俺は今、エッチをしようと誘われたのか。少女はさっきまで生まれて来なきゃよかったと、悩みを口にしていた。だというのに、なんの脈絡もなくエッチを要求する。意味が分からな過ぎて、俺は少女の顔を見たまま固まってしまった。
「なにその反応。もしかしてお兄さん童貞?」
「驚きすぎて固まってただけだわ」
今まで彼女なんて出来たことがないので、童貞ではあるが。
少女は「ふうん」と言うと、赤くした頬を抱えた膝に擦りつけるようにして俺の顔を覗き込む。
「じゃあいいじゃん。今日は仕事なんかサボっちゃってさ、私と遊んでよ。もちろんお金は取らないから」
そんな台詞を初対面の大人に言えてしまう中学一年生を前にして、俺の心は酷く動揺した。中学一年生なんて、同じ年齢の友達と遊ぶのが楽しい時期じゃないか。それなのにこの子は、初対面の大人を前にしてエッチを要求した。ちょっと不良なだけかと思った彼女の闇は、俺が思っているよりもずっと深いのかもしれないと思うと、心に痛みが走った。
もうこれ以上彼女の闇を見たくない。そう思った俺は何かを考えるよりも先にベンチから立ち上がり、彼女の頭に手を置いていた。
「もっと自分のことを大切にしろ。生きる理由なんて、きっと生きていれば見つけることが出来る。学校に行って勉強するだけが人生じゃないからさ、自分なりの生き方を見つけるために生きてみるのも、一つの手なのかもしれないな」
俺も大した人生なんて送ってないけど。そう付け加えて、彼女の頭から手をどかす。するとキラキラとした彼女の瞳が、俺のことを見上げていた。
「もしかして、私のこと心配してくれてるの?」
「ああ。めちゃくちゃ心配してる。そんな生き方してると、変な男に人生めちゃくちゃにされるぞ」
冗談が半分、本気が半分の口調で言ってみせると、少女の瞳がふるふると震えた。
「私のこと心配してくれる大人に久しぶりに会った」
「親とか学校の先生は心配してくれないのか?」
「お父さんもお母さんも担任の先生も、みんな呆れてるよ」
「ははは。まあ平日の昼間っから公園に居るようじゃ呆れられるかもな」
俺は笑って見せながらも、でも、と言葉を続ける。
「君の年なら、いくらでも変わることが出来るよ。君の行動次第で人生が変わるんだ。だからもうちょっとだけ頑張って生きてみてよ。君ならきっと楽しい人生を送れるようになるだろうからさ」
俺がそれを言い終わるよりも早く、こちらをポカンとした顔で見ていた彼女の頬が赤く染まった。かと思えば、少女はおもむろに腰を上げた。少女の身長は低く、俺の胸下辺りしかない。
「私、お兄さんのこと好きかも」
「え、」
唐突な彼女からの告白に、またも驚かされる。
少女は頬を赤く染め上げたまま、俺に顔をぐいと近づけた。
「エッチはしなくてもいいから、結婚して欲しい」
そして唐突なプロポーズ。俺の動揺は治まることなく、口から水分が蒸発してしまったかのように乾いた。
でもここで動揺していると悟られたくなくて、俺は顔面に笑顔を張り付けた。
「君が大人になっても覚えてたらな」
余裕ぶってそう言うと、少女の頬がフグのように膨らんだ。子ども扱いされたのが気に食わなかったのだろう。
少女はしばらく俺に抗議の視線を送ると、何を考えたのかポケットからスマホを取り出した。
「じゃあお兄さんの住所か電話番号教えて。大人になったらお兄さんの家に行くから」
「ええ……」
「大人になったら結婚してくれるなら、住所か電話番号がないと会えないじゃん」
まあ確かにそうだが……彼女はそれくらい本気で結婚しようと思っているのだろうか。
でもまあ、きっとその想いも今だけなんだろうな。きっと彼女はこれから沢山の男と出会うのだから、俺のことなんてすぐに忘れるだろう。
そう思って、俺は住所か電話番号を教えることを決めた。でも電話番号を教えると頻繁に電話を掛けて来る可能性があるので、教えるのは住所にしておくか。
「しょうがないな。今から住所言うからメモしとけ」
少女が頷いたのを確認して、俺は今住んでいるアパートの住所を教えた。どうせスマホも買い替えたりして、そのメモも消えてくれることだろう。
「じゃあ俺はそろそろ仕事に戻るぞ。中学生と公園で喋ってたのが上司にバレたら、色々と面倒だからな」
それじゃ。とその場から立ち去ろうとすると、「待って」と呼び止められた。
少女の頬はまだ赤く、興奮冷めやらぬといった様子だ。
「最後にお兄さんの名前だけ教えて」
「あー、名前か。俺の名前は犬飼柊一(いぬかいしゅういち)だ。君の名前はなんて言うんだ?」
なんとなく俺も名前を聞いてみると、彼女はどこか嬉しそうな顔をして、手に握るスマホをギュッと胸の前で握りしめた。
「私の名前はね――」
その時に聞いた彼女の名前はあまり聞き慣れないものだったが、とても彼女らしいなと、あの時の俺は思ったはずだ。
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