年越し&初詣SS

「あけましてー!」

「おめでとー!」

「おーーー!」

「……毎年思うけど柚の配分間違えてないか?」

「間違えて!」

「ないよ!」

「おーー!」


 絶対間違えてるが、可愛いから良いか。


 さて。年が変わった。


「改めて、あけましておめでとな。紫苑、茜、柚。お年玉だぞ」

「やったー!」

「ありがとー!」

「おにーちゃんー!」


 お年玉を渡すと嬉しそうに、そして大切そうに三人は受け取った。


「今年で紫苑は三年生になるのか。……紫苑。絶対にお兄ちゃん達が支える。無理をして体を壊さないようにな」

「うん! ありがとーね! 受験頑張る!」


 紫苑がどれだけ頑張ってるのか分からないお兄ちゃんではない。

 ただ、支えよう。紫苑が無理をしないように。疲れたら寄りかかれる兄となるように。


「茜と柚も、学校生活楽しんでな。お兄ちゃんが言うまでもないと思うけど」

「はーい! 部活頑張るね!」

「目指せフォロワー十万人ー! 頑張るよー!」


 と、その時足音が聞こえてきた。


「はい、ちょっと遅れたけど年越しそばだよ」

「わーい! お姉ちゃん、お母さん達! あけましておめでとー!」

「ありがとー! お姉ちゃん! お母さん達! あけましておめでとう!」

「おいしそー! お姉ちゃん、お母さん達ー! あけましておめでとー!」

「はい、あけましておめでとう。紫苑、茜、柚」

「あけましておめでとう。紫苑、茜、柚」

「あけましておめでとう、三人とも」



 俺も立ち上がって三人からお蕎麦を受け取り、配っていく。

 ミアとお義母さん……そして、お母さんはポケットからお年玉を取り出して三人へと渡していた。


「ありがとう。俺なんもしてなかったけど」

「四人もいても誰かしらやる事なくなっちゃうし。それなら三人と居てくれた方が良いんだよ」


 まあ……それもそうかと納得し、ずっと楽しそうにし続ける三人を見る。


「食べていー?」

「いーよね?」

「いーよねいーよねー?」

「もちろん。じゃあみんなで食べよっか」


 年越しそばを見てキラキラと目を輝かせる三人。見ていて本当に元気が貰える。


 みんなでいただきますをし、俺達は年越しそばを食べ始めた。


「おいしー!」

「ふふ、そっか。良かった」


 本当に美味しい。

 ずるずるとそばをすすり、スマホを見て友人や同僚達に新年の挨拶を送る。


 みんなそうしていて……ふと、違和感を覚えた。


「思えば三人とも、そんなにスマホ触らないよな」

「……?」

「?」

「?」


 三人ともこてんと首を傾げた、隣でミアがニコニコと微笑んでいる。


「友達から連絡来たら返さないとだけど、触る理由があんまりないよー?」

「とーやにぃ達と話す方が楽しいし!」

「絵ー描くのは部屋戻ってからでもできるし〜? お兄ちゃん達と居るのにお話しないともったいないよー?」



 ――心が強く打ち付けられた。思わず倒れ込みそうになってしまう。



 ……え? は?


 良い子達すぎないか? いや、知ってたが。良い子達なのは知ってたが。


「……抱きしめて良いか?」

「えへー! 一番乗りー!」

「あ、僕も!」

「私もー!」


 思わず腕を広げてしまい、紫苑が飛び込んでくれた。続いて二人も飛び込んでくれる。


 いやもう、なんなんだこの可愛い生き物達は。十年前からこういう……なんと言えば良いのだろうか。とにかく良い。凄く良い子達すぎるのだ。


「やばい。妹離れ出来そうにない」

「しなくていいよー?」

「僕達もとーやにぃ離れしないもん!」

「えへー!」


 本当になんなんだ。可愛すぎる。

 三人とも背は高くなったが、今でも全員抱きしめる事が出来た。良かった。


「分かるよ、とーや。私も前気になって三人に聞いたからね。気がついたら三人抱きしめてお昼寝コースだったよ」

「……やりたい」

「……! 久しぶりにみんなで寝る!」

「わーい!」

「やったー!」


 さすがに最近となっては三人と寝る機会もなくなっていたが……今日くらいは良いだろうか。良いだろう。多分。


「でも先におそば食べないとな。ごめんな、いきなり」

「ううん! いつでもぎゅーしていいんだよー?」

「僕達も好きな時にぎゅーするからね!」

「そー!」


 もう天使すぎる。うちの妹が天使すぎる。



 ――その事を再確認して、またみんなでそばを啜ったのだった。


 ◆◆◆


「どーかなー?」

「可愛い?」

「かわいーかなー?」

「可愛い」

「天使」

「目に入れても痛くない」

「可愛さの化身?」


 三人が振袖を着ていた。お正月という事でレンタルをしたのだ。


 紫苑は紫色、藤の花がモチーフの振袖。

 茜は赤めの、太陽をモチーフとした振袖。

 柚はオレンジ……柚色で、柚がモチーフの振袖である。


 いやもう、本当に可愛い。可愛すぎる。向こうでクラスの男子とかと会ったら間違いなく恋をされるだろう。


 ……それでふと思い出したが。三人は友達と行かなくて良かったのだろうか。いや、三人の事だから別の日に行くか。茜は部活の人と行くだろうし。


「ミアも凄く似合ってるよ」

「ん、ありがと。とーやも似合ってるよ」

「うん! 二人とも似合ってる似合ってる!」

「ええ。本当に似合ってるわ」


 ミアと俺も振袖姿であった。ミアは黄色い生地に桜の花が描かれているもの。俺はシンプルに白い振袖である。


 振袖はミアをとても綺麗に見せてくれる。いや、普段から綺麗なんだが。最近は落ち着いた服装が多かったので、少し懐かしいような……それでいて新鮮な気持ちになる。



「じゃあ行こー! お兄ちゃん!」

「……そうだな。行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃい、気をつけてね」


 お母さん達を置いて、俺達は初詣へと向かったのだった。

 二人はのんびり正月のテレビ番組を見たいとの事なので留守番なのである。


 ◆◆◆


「人多いねー!」

「はぐれないようにしなきゃ!」

「お兄ちゃん達もちゃんと手繋がないとー?」

「ああ、繋いでるよ」


 人が多い中紫苑と茜、柚は三人仲良く手を繋いでいた。これからもずっと仲良しで居て欲しい。


 その後ろで俺とミアは手を繋いでいた。単純に繋ぎたいという思いもあるが、本当に人が多くて繋がないと別れかねないのだ。


「お兄ちゃん繋ごー!」

「ああ」


 そして、もう片方の手で柚と手を繋ぐ。横に開けた場所なので邪魔になったりもしない。



 しばらくみんなで話していると、時間が経つのがとても早く感じる。すぐに順番が来た。


「二礼二拍手一礼だよ!」

「ああ、そうだったな。ありがとう、茜」


 調べるのを忘れていたが、茜に教えて貰えた。


 みんなでお賽銭を入れ、鈴を鳴らして二礼二拍手一礼をする。



 ――今年も事故や病気がない一年となりますように。


 ――紫苑の勉強が上手く行きますように。彼女の努力を見守っていてください。

 ――茜がバスケ部を楽しんで、怪我のない一年となりますように。

 ――柚の目標は運も大きく絡むので、どうか成功しますように。



 ――ミアとの間に元気な子供が出来ますように。



「……っと、これぐらいにしておくか。後ろも多いし」

「ん、そだね」


 三人も目を開けてこくこくと頷いた。邪魔にならないよう帰り道へと歩き始めた。


「みんなは何をお願いしたんだ?」

「私はいつも通りかな。みんなの健康と事故がありませんようにってやつ。それと、三人とも楽しい一年になりますようにって」

「紫苑もー! お兄ちゃんとお姉ちゃんも、お母さん達も! 茜も柚も楽しい一年になりますように! って!」

「紫苑といっしょ! あと紫苑の勉強が上手く行きますようにって! ……ッ」

「私もいっしょー!」


 その言葉に思わず頬が緩みながらも……同時に、とある事に気づいた。


「茜」

「な、なーに?」

「おぶるぞ」


 茜の歩き方が少し変だったのだ。

 思えば茜は草履が苦手だったな。昔もよく足を痛めてた。……こういうのはちゃんと覚えておかないと。


「……あ、それともミアの方が良いか?」

「う、ううん! とーやにぃが良い!」


 茜がちょこちょこと後ろに来た。俺もミアから手を離し、しゃがみこむ。


「しっかり捕まってな」

「うん!」


 茜は昔から抱きつく力が強かったので大丈夫だろう。多分。


「お兄ちゃん! 今度紫苑もおんぶして!」

「私もー!」

「……良いぞ」


 一瞬迷ってしまったものの、可愛い妹達の頼みなのだ。断る訳にはいかない。

 いつ反抗期が来るか……もう来ないような気もするが。楽観視はしないようにしよう。


「お姉ちゃんは嫌かなー?」

「お姉ちゃんにも!」

「してもらうー! 今度ねー!」


 ミアも昔から変わらず……と言うとあれだが、力持ちである。多分三人くらいなら軽々おんぶ出来るんじゃないかな。


「よし、じゃあ行くか」

「おー!」


 背中に乗っていた茜が元気よく声を上げる。





 きっと、今年も良い一年になるだろうな。

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