クリスマスSS

 まえがき

 諸事情により一日遅れましたが、クリスマスSSです。


 補足。

 時系列的には紫苑ちゃんが中学二年生、茜ちゃんと柚ちゃんが中学一年生くらいの予定です。

 作品内では柊弥君が『お母さん』と『お義母さん』と呼び分けておりますが、読み手の皆様方が混乱されないように書き分けております。柊弥君はどちらも自分の母親だと思っております。



 それでは、一日遅れのクリスマスを楽しんで頂けますと幸いです。





――――――――――――――――――――――



 ……疲れた。

 今日も今日とて仕事。いや、平日だから当たり前なんだが。

 冷えた空気を吸い込みながら歩き、ポケットの中に入れていたカイロを取り出してかじかんだ指先を温める。


 そうして家に着いて、風呂でも入ろうと扉を開けると――


「メリー?」

「クリス!」

「まーすー!」


 サンタ服に包まれた天使達が居た。


 サンタ帽ともこもこの服に包み込まれた紫苑、茜、柚。

 紫苑はサンタ服と帽子を紫色にしたもの、茜は赤いもの。柚はオレンジ色のものであった。



「おかえり、とーや。メリークリスマス」


 そして、天使を率いた大天使が現れる……こちらもサンタの格好をしていた。色は茜と同じ赤だ。



「……ここが桃源郷か」

「分かる。三人ともやばいくらい可愛いよね。私この歳でコスはちょっと恥ずかしいんだけど」

「いや、ミアも凄く似合ってるぞ。本当に。……言い忘れていたけどただいま」


 もの凄く眼福である。愛する妻のサンタコスというのは。


「今日ね今日ね。クラスの人達はクリスマスパーティー? するみたいなんだ」

「そうなのか? ……行かなくて良かったのか?」

「昨日のイブパーティーには紫苑、参加したもん。それに、今日のはコスプレしないといけないみたいだったからやめたんだ」

「……? なんでだ?」


 コスプレしたくないなら分かるが、現に今三人ともサンタコスである。すっごく可愛い。写真を額に入れて飾りたい。後で許可を貰えたら壁紙にしよう。


「サンタ服、一番にお兄ちゃんとお姉ちゃんに見せたかったから!」

「……可愛すぎて貢ぎたくなってきた」

「や、分かるよ? 分かるけどだめだよ?」


 欲しいもの一式揃えたくなってしまう可愛さだ。


「えへー! 大丈夫だよー! お兄ちゃんとお姉ちゃんには色々買って貰ってるから! 欲しいものないもん!」

「そーだよそーだよ! とーやにぃもお姉ちゃんも、ぼく達から色々あげたいくらい!」

「私はみんなでお昼寝出来たらそれで良いかな〜?」


「……やっぱ貢ぐ?」

「凄い手のひら返し。すっっっごく気持ちは分かるんだけどな」


 もう本当に天使である。この子達は。


「もーほんと三人とも大好き」


 ミアが後ろから紫苑を抱きしめ、頭を撫で始めた。ちらりと目を向けられたので腕を広げると、茜と柚が飛び込んできた。


 帽子の上から頭を撫でるのは難しいが、二人とも凄く喜んでくれた。


「えへー!」

「えへへ!」

「えへへー!」


 天使か? 天使だ。天使だった。


 ……中学生でこれだけ甘えんぼなのはちょっと怖くはあるが。やばい。俺もミアも妹離れ出来ないかもしれない。


 教育的にも……とか思わない訳ではないが。父親代わりなんだと思えば、好きなだけ甘やかしたくもなってしまう。


 三人とも、友達と遊ぶ事は多いから大丈夫だろう。俺やミア、お母さんと遊ぶ事も多いが。家族仲が良いのは良い事だしな。



 あー、天使。可愛い。


 ミアと共に三人を撫で続け――


「次はお兄ちゃんとお姉ちゃんの番!」


 と紫苑に言われてしまった。



 数年前ならば多少は恥ずかしがったかもしれない。しかし、今となってはその気持ちも薄れていた。


「……ミア。メリークリスマス」

「ん、メリークリスマス」


 彼女の体を引き寄せ、抱きしめる。ふわりと漂った甘い匂いが疲れきった心を癒してくれた。


「お仕事お疲れ様、とーや」

「ああ、ありがとう。ミアもいつもお疲れ様」


 少しだけ体を離し――ひたいを合わせて唇を重ねる。


 恥ずかしさは薄れてきている。それでも――幸福感や安心感は薄れるどころか、回数を重ねる度に膨れ上がってくるような気さえする。


 ミアは嬉しそうに笑って、手を握ってくる。冷えた指先が少しずつ温められた。


「とりあえず中入って。もうすぐお母さんも帰ってくるみたいだからさ」

「分かった」


 ミアから離れると、紫苑と茜が手を握ってくる。柚はミアと手を繋いだ。


「行こー!」

「とーやにぃの手冷たいね」

「にへー」


 彼女達を見ていると、自然と頬が緩んで笑顔が増える。



 ――仕事の疲れは既に消え去っていた。


 ◆◆◆


「プレゼント!」

「みんなに!」

「あげるー!」


 可愛らしい三人のサンタさんが大きな袋の中から袋を二つ取り出した。二つともそこそこの大きさで、片方は中に何個か箱が入っているように見える。


『大好きなお兄ちゃんとお姉ちゃんへ!』

『大好きなお母さんへ!』


 と袋に書かれていた。既に泣きそうだ。歳かもしれない。


 ミアとお義母さんも同様なのか、目尻に涙を浮かべていた。ちなみにお母さんは恋人とディナーに行っている。

 こっちに来たがっていたが……今年のクリスマスは恋人と過ごす代わりに、年末と来年のクリスマスは一緒に過ごそうと話して決めたのだ。


「まずはーお母さん! いつもありがとー! メリークリスマス!」

「大好きだよ! メリークリスマス!」

「えへー! 好きー! メリークリスマス!」

「……ありがとう。大好きよ。メリークリスマス」


 三人まとめてお義母さんが抱きしめた。三人とも嬉しそうに抱きしめ返している。


 ……三人とも全然反抗期が来ていないが。お母さんやミアのお陰なんだろうなとも思う。


 出来る事ならこれから先もずっと、こんな関係であって欲しい。……願う事でもないか。大丈夫だろう。


「開けてみて良いかしら?」

「うん!」


 紫苑達が大きく頷いて、お義母さんが袋の中から箱を取り出し、開けた。


「……! あら!」

「くまさんのぬいぐるみ! 紫苑達三人で作ったんだ!」

「お姉ちゃんにも色々教えて貰ってね!」

「がんばったー!」


 くまさんのぬいぐるみが入っていた。ミアには相談していたみたいだが、俺は初耳である。

 凄いな……これを作ったのか。


「ふふ。三人とも凄く頑張ってたよ」

「そうだったのね……ありがとう。大切にするわ」

「うん!」


 大切にぬいぐるみを抱えるお義母さん。そのやり取りを見ているとほっこりしてしまった。


「お母さん。私ととーやからもあるよ。メリークリスマス」

「あら! ありがとう! メリークリスマス!」


 一度ぬいぐるみを置いて、お義母さんが腕を広げる。その目はミアだけでなく俺も見ていて……大人しく、ミアと一緒にハグをした。


 ……バレていたんだと思う。『お母さんって良いな』と思っていた事が。


 本当なら今日はお母さんが来る予定だったんだが、仕方ない事だ。


「柊弥もミアも、幾つになってもお母さん達の子供よ」

「……ん、ありがとう、お母さん」

「ありがとう」


 ハグを終え、ミアは微笑んだ。その瞳にはうっすらと膜が貼っていて――多分、俺も同じだ。


「それじゃあこれ、お母さん開けてみて」

「ええ。……! タンブラーね! 可愛い!」

「ん、結構いいやつだよ。お母さん欲しいって言ってたもんね」

「ありがとう! 嬉しいわ!」


 箱に入っていたのはタンブラーだ。可愛い雪うさぎが描かれているもの。


 また俺とミアは強く抱きしめられた。肩越しで、三人が嬉しそうににこっ! とこちらを見ていた。可愛い。


「次は三人にだね」

「楽しみ!」


 まずは紫苑である。俺とミアからだ。


「紫苑、メリークリスマス」

「メリークリスマス!」


 箱を渡す前に紫苑がぎゅーっ! とハグをしてくれた。続いてミアにもぎゅーっとしている。昔から変わらない……いや、かなり成長しているんだが。甘えんぼな所は変わらない。


「俺とミアからだ。開けてみてくれ」

「うん……あ! 腕時計! 欲しかったの!」


 紫苑には腕時計だ。前から欲しいと話していて、この前見に行った時に買おうとしたのだが……そこそこするもので、紫苑が遠慮してしまったのだ。


 学校でも使える。……来年は受験生だし、その辺を見ても持っておいた方が良いと思っての事だ。おしゃれだし。


「絶対無くさないようにする! あとあんまり見せびらかさないようにもするね!」


 盗まれないように、とかその辺りも分かっているのだろう。裏に紫苑のイニシャルも刻んであるし、大丈夫だと思う。


「茜と柚も腕時計必要な時あったら言ってねー!」

「うん! ありがと!」

「はーい! ありがとーねー!」


 仲の良い三人を見て、更に頬が緩む。続いて茜を見た。


「じゃあ次は茜だね。メリークリスマス」

「わーい! メリークリスマス!」


 茜のプレゼントは――ゲーム機だ。


「……言ってたやつ! ありがとう! とーやにぃ、お姉ちゃん!」

「前から言ってたもんね。遅くなってごめんね」

「ううん! クリスマスにって言ってたもん!」


 最近三人、特に茜が欲しがり始めたのだ。部活でやってる子が多く、この前友達の家で遊び……俺とミアに言ったのだ。


『楽しかったから、紫苑と柚とも、みんなでやりたいからクリスマスプレゼントで欲しい』と。

 いやもう、良い子すぎる。


「ただ、茜のっていうか三人にプレゼントみたいな感じだから。今度もう一足バッシュ買いに行こうね」

「……! 大丈夫だよ!」

「だめだよ、茜」

「茜ずっと言ってたもんねー。私と紫苑達ともゲームしたいって。茜へのプレゼントは別だから、ちゃんと受け取らないとー?」


 説得が難航するかと思いきや、紫苑と柚から援護が入った。


「ふふ。本当はバッシュにしたかったんだけど、実際に履かないと分からないからね」

「う……分かった。ありがとう」


 これで一安心である。


 そして最後は――柚。


「柚。メリークリスマス」

「メリークリスマスー!」


 どこか間延びした言い方をする柚へとハグをする。いつか拒否される日が来ると考えると……いや、今これを考えるのはやめておこう。


「お兄ちゃんってさー」

「ん? どうした?」

「……ううん、なんでもなーい。大好きだよー?」

「ああ、俺も大好きだよ。柚のは少し大きいから、今持ってくるぞ」


 柚へのプレゼントは――今までに比べて大きめだ。


「あれだー! 欲しかったソファ!」


 柚には枕……を最初考えていたのだが、枕は人によって合うサイズが違う。

 ミアと話し合って、一時期『人をダメにする~~』で有名となったものにしたのだ。


「わーい!」


 早速そのソファに倒れ込む柚。


「……これ、ずっと寝れそう。後で紫苑達も一緒にねよー」

「わーい!」

「やったー!」


 気に入ったようで何よりだ。


 さて。俺とミアからは終わった訳だが――


「それじゃあ次はお母さんからね。お母さんからは三人……というよりみんなにね」


 お義母さんからのプレゼント。内容は聞いていなかった。

 なんだろうとミアと共に見つめると、お義母さんがこほんと一つ咳払いをした。


「お母さんからは……じゃん!」


 そして、取り出されたのは……チケット?


 なんだろうとみんなでよく見ると……有名なテーマパークのチケットだ。


「あ!」

「ほんと!?」

「行けるのー?」

「ええ、行けるわよ。……ごめんね、小さい頃に行ってみたいって言ってたのに。遅くなって」

「ううん! やったー!」

「わーい!」

「やったーー!」



 楽しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねる三人。大して俺とミアもぽかんとしてしまっていた。


「とーや、行ったことある?」

「いや。……昔、いつか絶対行こうって話してはいたが」

「そっか。一緒だね。私もお父さんに言われてた」


 ああ、そうか。行った事なかったんだ。俺。


「もちろん、にね」


 お義母さんの持っているチケットは七枚であった。

 紫苑に茜、柚。俺とミア。お義母さんで六人――お母さんを入れて七人。


「一応聞いてみたんだけど、やっぱり行くなら家族でって言われたらしくてね」


 ……ああ、そうか。お母さんの恋人ならそう言うか。



 気がつけば、頬を温かいものが伝っていた。


「ありがと、お母さん」

「ありがとう」

「ふふ、喜んでくれて何よりだわ」


 お義母さんが腕を広げ――みんなで抱きつく。


 五分くらいそうしていただろうか。離れてから少しだけ恥ずかしくなってしまった。


 すると、紫苑達にちょいちょいと袖を引かれた。


「お兄ちゃん、お姉ちゃん。紫苑達からもあるよー?」

「……ん」


 ミアと共に涙を拭って、袋を持っている三人を見て微笑む。


「じゃあ紫苑たちからは一緒に! せーのっ」

「「「メリークリスマス!」」」


 三人が息を揃えて、大きな袋を渡してきた。


「一緒に開けてみて!」

「あ、ああ。分かった」


 袋の中身は三つの箱であった。


 ミアと共に協力し、三つの箱を開けると――



「紫苑からはマフラー!」

「僕からは手袋!」

「私からは靴下ー!」


 白いものと桃色のものがそれぞれ入っていた。白いものには雪だるま、桃色のものにはハートが描かれていて。同時に、紫苑のマフラーにはぶどう、茜の手袋にはリンゴ、柚の靴下には柚が描かれていた。



 脳裏にはあの時の――忘れられない思い出がぎった。



「紫苑」

「はーい!」

「茜」

「はい!」

「柚」

「はーいー!」


 三人の名前を呼ぶ。ミアと共に。


「何回でもプレゼントするって言ったよー」

「壊れちゃってもまた作るよー!」

「絵ー上手になったでしょー?」


 それがもう、限界で。


「もー大好き。大好きだよ、ほんと。なんでこんなに大好きにさせるかなー」

「……大好きだよ。ああもう、全部伝えられたら良いんだけど」


 ミアと共に三人を抱きしめた。強く、ぎゅっと。


「紫苑も大好きだよ! ちゃんと伝わってるからねー?」

「僕も! だーいすきだよ!」

「えへー! 私も大好きー!」


 もちもちなほっぺたを擦りつけてくれる三人。


 ……本当に、大きくなった。三人とも。


 その成長が嬉しくて、でも変わらないものが確かにそこにあって……熱いものが込み上げてきた。



 ミアと一緒にたくさん泣いて、好きだと何度も伝える。途中からはお義母さんも加わって――



 プレゼント交換会は終わったのだった。


 ◆◆◆


「……よく寝てるね」

「そうだな」


 すやすやと眠る三人のサンタさん。順番に抱えて部屋へと運び、一息つく。


 寝顔も昔と変わらず可愛い。ミアがほっぺたをつつくと、三人とも寝ながら楽しそうに笑う。ミアがこっそり写真を撮っていた。


「じゃあ部屋戻ろっか」

「そうだな」


 お義母さんは先に自分の部屋に戻っていた。……色々と察してくれたのだと思う。


 部屋へと戻り、ベッドに座る。ミアと目が合って、頬が緩んだ。


 同じタイミングで一つの箱を取り出す。それは小さめの箱だ。


「メリークリスマス、ミア」

「メリークリスマス、とーや」


 箱を交換する。その中身を見て――


「ふふ」

「あははっ」


 二人で笑った。脳裏を過ぎったのは、大切な思い出の一つ――プロポーズをした日の記憶。


 箱の中身はネックレスであった。中央に飾られているのは、赤い宝石。――ガーネットだ。


 ガーネットにも色々な意味があったが、恐らく贈ったのは同じ理由だ。


「まさか、おんなじ事考えてるとはね。他にもあったんじゃない?」

「……そうだな。でも、これが一番ミアに似合うと思ったから」

「おんなじだ。私もとーやに似合うって思ったから」


 ミアがネックレスを取り、ちらりと見てきた。一度ベッドの上に箱を置いて、それを受け取る。

 髪が絡まらないようミアが手でまとめ、それを見届けてから……首の後ろにネックレスを回す。


「やっぱり似合ってる。ミア」

「ありがと。次はとーやの番だね」


 今度はミアがネックレスを受け取り、俺の首に回してくれた。ネックレスは付けた事がなかったから、少しくすぐったかった。


「似合ってるよ、とーや」

「ありがとう、ミア」


 ミアの瞳が自分のネックレスを見て、次に俺へと移る。



「……ね、とーや。三人ともさ、サンタさんに何お願いしてたか分かる?」

「ん? ぬいぐるみじゃないのか?」


 三人ともまだサンタさんを信じてくれている。……気づいてないフリをしている可能性ももちろんあるが、一旦それは置いておくとして。


 お義母さんが大きなうさぎのぬいぐるみを用意していた。てっきり三人ともそれを望んでいたと思っていたのだが。


「あれはね。体裁っていうか。起きてなんもないとあれだから、一応の用意ね。三人とも、欲しいのが物じゃなかったから」

「三人とも?」

「ん、三人とも」


 形がないプレゼント。……そこまで考えて、一つの答えが思い浮かんだ。



 それと同時にミアが顔を寄せてきて――唇が重ねられた。


「『お兄ちゃんとお姉ちゃんの間に子供が出来ますように』だってさ」

「……」

「私もとーやも、三人も。考える事は同じだったみたいだね」



 ガーネットという宝石には色々な意味がある。その中の一つに――二人の間に子供が出来ますようにと願うものがあるのだ。


「俺も、ミアとの子供が欲しい」

「……ん。私もとーやとの子供、欲しいよ」


 その言葉が嬉しくて、また笑った。

 そして、頭の中ではとある二人の面影が浮かんでいた。


「改めて思うんだ。『親』って凄くて、大事なんだって」

「……うん。私も思う」

「俺の両親もそうだった。とても凄くて、優しくて。俺が誰よりも尊敬する人だ。もちろん、お母さん達もそうだ」

「一緒だよ」


『運』という面だけで見ると、俺は悪いのだろう。両親を亡くしたのだから。

 しかし――『人の運』というか、『縁』というか。その面で見ると、確実に良かったと言える。



 お母さんも、お義母さんも。ミアに紫苑に茜、そして柚。俊達だって、みんな優しくて。今では誰一人としてかけがえのない存在となっている。



 そんな人に、俺もなれるのだろうか――なんて事はもう考えない。そこまで自己肯定感は低くない。


 ミアに。そして――紫苑と茜、柚に懐かれて、好かれて。彼女達に尊敬されるようなお兄ちゃんになりたいって頑張れたから。



「きっと、ミアと俺なら良いお母さんとお父さんになれる」

「なれるよ、絶対」


 尊敬されるお父さんとお母さんになれるだろう。


 宝石のように綺麗な瞳は柔らかく輝きを放っている。その瞳に見つめられていると、自然と安心出来る。


「ふふ」


 柔らかな唇が重ねられる。背中に手を回し、抱きしめると彼女の暖かさが伝わってくる。


「とーやは男の子と女の子、どっちが欲しい?」

「どっちでも」

「あれ? そうなんだ。女の子ばっかりだから、男の子の方が欲しいかなって思ってたんだけど」

「別に肩身が狭いとかはないからな。どっちが生まれても、俺とミアの子供って事は変わらない」

「そっか……そうだね」


 とくん、とくんと。心臓の音が重なり、溶け合うように一つになっていく。


「大好き――愛してるよ、ミア」

「私も愛してるよ、とーや」



 心から始まり――肌が重なる。やがて、自分と彼女の境目が分からなくなっていく。



 俺とミアの幸せが重なり合って、一つに混ざり合う。



 その年のクリスマスは、忘れられない日となった。






 ――ミアのお腹の中に新しい命が宿ったと知らされたのは、それから少し後の事だった。

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