おまけ その10 紫苑 小学生になる
「どーかなどーかなー? 似合うー?」
「似合いすぎて泣きそう」
「なんならもう泣いてる」
小学校の入学式が終わって、ちょっと外に出てから人が少ない場所。目の前でランドセルを背負った紫苑がくるくると回っていた。
そう。ついに――ついに、紫苑が小学生になった。
いや、これもう天使すぎる。大丈夫かな。男子生徒全員の初恋奪っちゃうだろこれ。
「もー可愛い!」
「えへー!」
「紫苑……大きくなったな」
「えへへー! おにーちゃんもおっきくなったー?」
「ん? ああ、そうだな」
俺もこの二年でそこそこ背が伸びた。ミアより少し高い程度だったが、頭一つ分高くなるくらいには伸びた。
「とーや、このまま伸びたら二メートルくらい行くんじゃない?」
「さすがにないと思うぞ。二十歳を超えても伸び続けてたらありえるかもしれないが」
精々、百九十行くかどうかというところだ。それでもかなり高いとは思うが。
「かたぐるましたらたのしくなる!」
「とーくまでみえるー!」
「ああ、そうだな。良い事もいっぱいあるな」
紫苑はもちろん、茜と柚も背が高くなってきている。
特に柚はいっばいお昼寝もしているので、これからもっと背が高くなるかもしれない。寝る子は育つと言うし。
しかし――いつまで肩車出来るかな。いや、三人が望むのならいつまででも出来るようにしなければ。
足腰、もっと鍛えないとな。
「おともだちいっぱいできるかなー?」
「うん、絶対出来るよ。いっぱい出来るよ」
「たのしみー!」
そう言いながらも、紫苑の目には少しだけ不安の色が浮かんでいる。
「はやてくんみたいなひといるのかなー」
「……運動会の前と後で颯君もかなり変わってたけど」
「りょうほうやー!」
不安の色は彼であったか。
颯君。
あれがあってから、なんか俺が凄く懐かれるようになった。というか紫苑から俺に興味が移ったようだった。
紫苑を迎えに来る度にあそぼーあそぼーと言ってきて、紫苑が「やー!」と俺の前に立ちはだかるようになったのだ。
ちなみに卒園式の日、また紫苑に告白して振られていた。しかも紫苑は「ぜったいにやー!」と明確な拒絶。
颯君もしつこい男の子は嫌われるという事を学んだようだった。次から頑張って欲しい。
そして、地域的な問題で颯君は別の小学校に行ってしまった。元気に過ごしてると良いな。
「紫苑、可愛いからね。モテモテになっちゃうかもね」
「おにーちゃんいがいのおとこのこにきょーみないもん!」
「だってさ、お兄ちゃん?」
「……やはり教育方針を切り替えた方が」
「いいんじゃない? 中学校高校に行ったら恋を覚えるかもしれないし」
むー! ともちもちなほっぺたをふくらませる紫苑。そのほっぺをミアがつんつんとつつく。
「その時はその時で考えればいいんだよ。……だいじょーぶ。私もとーやも居るんだし、お母さん達も居るんだからさ」
「そう、だな」
きっと、三人には素敵な人が現れるだろう。
「ま、どんなに良い男でもとーやには敵わないかもしれないけど?」
「……ミア」
「ふふ。でも私はとーや以上にかっこいい人は居ないって本気で思ってるからね」
ミアはそう言いながらウインクをした。
隣で三人が真似しようとして両目をぎゅー! っと閉じていた。
「よし、じゃあ入学式も終わったし。お母さん達戻ってきたら美味しいご飯食べに行こうね」
「わーい!」
今お母さん達はちょっと泣きすぎて席を外している。多分そろそろ帰ってくるだろう。
そしたらまた皆で写真を撮って、美味しいご飯を食べよう。
まだまだ思い出は、たくさん出来そうだ。
◆◇◆◇◆
紫苑が小学生になって、しばらく経った。
「みてみてー! おにいちゃん! しゅくだいできたー!」
「お、凄い。紫苑は偉いな」
「えへー!」
宿題のプリントを見せてくる紫苑の頭を撫でる。凄い。偉い。
「紫苑、学校は慣れてきたか?」
「うん! おともだちもねー! いっぱいできたのー!」
「そっかそっか。良かった。どんな子と仲良いーとか。あるか?」
俺の言葉に紫苑がえっとねーうんとねーと考える。
「かほちゃん!」
「かほちゃん。どんな子なんだ?」
「いっぱいはなしかけてくれるのー! さいしょはね、さいしょはね。あんまりはなすの、すきじゃなかったの! でもね、かほちゃんはね! いっぱいはなしかけてくれたのー!」
紫苑もかなり嬉しかったのだろう。畳み掛けるように話してくれた。
三人とも人見知りだ。それはもちろん紫苑も。
誰かと話すのは得意じゃない。だからこそ、そのかほちゃんが居てくれて良かった。
「かほちゃんとはどんな事を話すんだ?」
「おにいちゃんとおねえちゃんのおはなし!」
「学校でも話してくれるのか」
「うん! おにいちゃんとおねえちゃんがねー! すっごいかっこいいってはなしと、かわいい! ってはなししてるのー!」
その言葉は嬉しくもくすぐったい。授業参観に行くのが少しだけ怖くもある。
「かほちゃんはねー! おとうさんとおかあさんのおはなししてるの!」
「かほちゃんはお父さんとお母さんが好きなんだね」
「そー! いっしょー!」
いっしょ。
その言葉を聞いて、俺は言葉を止めて。目を瞑ってしまった。
ああ、そっか。俺、なれてるんだ。
紫苑の――三人のお父さん、ではないけど。お父さんみたいな存在に。
「そっか。良かった、本当に」
「よかったー! それでねー! かほちゃんはねー! やさしくてねー! かわいいのー!」
可愛い。
「ぼくもしょーがっこーいったらおともだちできるー?」
「わたしもー!」
「ああ、きっと出来るよ」
キラキラとした目で見てくる茜と柚にそう言って頷いていると、ミアが戻ってきた。
「紫苑も仲良しなお友達が出来たみたいで良かったね」
「うん! たのしー!」
ばんざいをして喜ぶ紫苑の頭を撫でて、茜と柚の頭も撫でるミア。
「そっかそっか、紫苑が楽しいなら良かった。ほんと」
「がっこーもおうちもたのしー!」
その言葉を聞いて思わずニコニコとしてしまう。家族の幸せが一番嬉しい。
「またこうやってお話、聞かせてね、紫苑。茜と柚も」
「うん!」
「まかせて!」
「いっぱいおひるねしておはなしするー!」
今年は俺もミアも受験生だ。去年と一昨年に比べれば、三人と遊ぶ時間は少なくなってしまう。
――お母さんとお義母さんがその代わり、三人といっぱい遊んでくれるらしい。
紫苑はお友達も出来た事だし、もしかしたら休日はお友達と遊ぶなんて事もこれからはあるかもしれない。
「受験が終わったらまたいっぱい遊ぼうな」
「うん!」
「えっとね! いっしょにばすけ! しよーね!」
「おひるねもー!」
「ああ。いっぱい遊ぼう。いっぱいお昼寝しような」
三人と遊んでリフレッシュしたら、また勉強だ。ミアと一緒に。
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作者からのお知らせ
あと五話くらいおまけ続きます……(二回目)
今度こそちゃんと五話で終わります!
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