最終話 天海さんとこれからも
「えへー!」
「えへへー!」
「えへへへー!」
紫苑と茜と柚が、俺とミアに抱きついてきた。
色々とミアと話して。……キスの事なんかはちょーっとだけ三人の教育に悪かったような気もしたが。
「おにーちゃんだいすき!」
「ああ。俺も大好きだ」
「ぼくも! とーやにぃ、だいすきだよ!」
「ああ。俺も大好きだよ」
楽しそうな三人を見ていると、居てくれた良かったとも思う。
ほっぺたをすりすりとしてくる紫苑。茜も負けじとほっぺたにちゅーをしてくれる。
柚はミアにぎゅーっと抱きついて、ミアに頭を撫でられている。
「おねーちゃんだいすきー!」
「ふふ。私も大好きだよ」
そして、それを見る二人の姿。
「娘と息子が仲睦まじくしてるの……良い」
「泣きそう。柊弥、あんなに楽しそうに……」
「玲香ちゃん。もうすっごい泣いてるよ」
お母さんとミアのお母さん……お義母さんだ。
ミアと交際する事になった事。それも、本気の交際である事を伝えた。将来は家族になる、とも。
それくらい本気である事を伝えた。……結果。お義母さんと呼んでと言われた。あと先程までのは全部覗き見ていたと言われた。
……めちゃくちゃ恥ずかしいんだが。一旦それは置いておこう。
反対に、ミアもお母さんと話して、お義母さんと呼んでと言われていた。少しややこしいが。
とにかく、もう大丈夫なのだ。何もかも。
「柊弥も……ほんと、良かった。保育園の手伝いの時もそうだったけど、やっぱり子供と触れ合うのは良いね」
「ふふ。私の子供達だからよ」
「ええ、そうね」
その言葉に紫苑がじーっと。お母さんを見つめた。
「あら? どうしたのかな? 紫苑ちゃん」
「あたらしーおかーさんにしつもん!」
「なあに?」
「おにーちゃん、ほいくえんにいたのー?」
その言葉にお母さんがあら? と首を傾げて俺を見た。
「そういえば紫苑達には言ってなかったな」
「ふふ。じゃあ新しいお母さんが柊弥の……お兄ちゃんについて教えてあげるわね」
「わーい!」
三人がお母さんから話を聞こうと近づいていくのを眺める。
というか本当に凄いな。紫苑達とこんなに早く仲良くなれるなんて。
茜と柚も気になったのか、お母さんをじっと見つめていた。
「お兄ちゃんは週に何回か、保育園に手伝いに来てくれてたの。でも最初、お兄ちゃんはすっごく不安そうだったのよ」
懐かしいな。あの時、いきなり言われたんだっけ。
『柊弥! 今日保育園のお手伝いしに来てね!』
今思えば、かなり気を使われているのだと分かる。前日に言われていたら、当日まで腹痛になっていそうだし。あと眠れて無さそうだし。
「だけど柊弥ってば、すぐに保育園で子供達の人気者になったのよ。この子、すっごい面倒見良いからね」
「あ、なるほど」
お母さんの言葉にミアが納得したようにうんうんと頷いた。
「とーやの面倒みの良さってその頃からだったんですね」
「ええ、そうね。毎日『とーやおにーちゃーん』って呼ばれてね。ふふ、男の子にも女の子にもモテモテだったのよ」
ハッ! と。紫苑……だけじゃない、茜も柚も口を開けてびっくりしたと言いたそうにして。
さっ! と。その目を俺に向けてきた。……なぜかその目は潤んでいて。
「や!」
「……紫苑?」
「おにーちゃんはしおんたちのおにーちゃん!」
紫苑がぎゅー! っと。抱きついてきた。そして、茜と柚もてててーっと走ってきて。俺に抱きついた。
「とーやにぃはぼくたちの!」
「やだー! おにーちゃんはわたしたちのー!」
「こらこら、お兄ちゃんはお兄ちゃんのだから」
むー! と涙目でぎゅーっ! と抱きついてくる三人。それに微笑みつつ、頭を撫でる。
「……ふふ」
「ふふふ」
そして、俺達を見て微笑む母二人。……いや。違う? どこを見ているんだ?
二人の視線の先を見て――頬が緩んでしまった。
「……なに。こっち見て」
「いや、なんでもない」
そう言いながら、視線を一箇所に集中させる。ミアは首を傾げた後に。それに気づいた。
「ッ――や、その、これは……」
ぎゅっと、俺の服を掴んでいた事に。
ミアは手を離し、目を泳がせる。真っ白だったほっぺたがリンゴのように赤く染まっている。
「わ、悪い? ……子供に嫉妬して」
「いや。悪いなんて思ってないよ」
むー、ともちもちなほっぺたを膨らませる紫苑。そのほっぺたをつつき、そして撫でくりまわしていると、その口が緩んでいく。
「三人と一緒なんだな、って思ったら嬉しくなってな」
「……ふーん」
続いて茜と柚の頭を撫でていく。むーっと膨れていたほっぺたがどんどんしぼんでいき、もちもちへと戻っていく。いや、膨らんでいてももちもちなのだが。
三人の機嫌も良くなったので手を離そうとして。
ミアの顔を見て、動きを止めてしまった。
小さく俯いて、口をもにょもにょとさせている。
「……私は?」
その言葉は凄く小さくて。でも、確かに聞こえたから。
そっと、その頭に手を置く。三人がにこー! と笑った。
ミアが目を丸くして。
その口元が緩み、ゆっくりと目を瞑った。
……凄く、母二人に見られてはいたが。ミア達が楽しそうなら良いか。
◆◆◆
「なんか、凄く気を使われたな」
「ふふ。紫苑達取られちゃったね」
夜。俺とミアは同じベッドで横になっていた。
ミアの言う通り、三人はお母さん達と一緒に居る。
『いーのいーの、あとは若い人達で、ね?』
とか言われながら。
「でも、私。とーやと二人で居る時間も好きだよ」
「……俺もだよ」
こうして二人で横になって、話をする時間は楽しかった。
両親の話をする時も、そうでない時も。話をするだけでも楽しかった。
この、無言の間ですらも心地好く思ってしまう。
その間の中。少しだけ低く、耳心地の好い声が響いた。
「……私達、さ。恋人、なったんだよね」
「そう、だな。そうだよ」
「ふふ。そっか。そうだよね」
ミアが楽しそうに。本当に嬉しそうに笑った。
「じゃあさ」
ミアの言葉が。そして吐息が、耳を撫でた。
ふわりと、花のような甘い匂いに全身が包まれた。
「こーいう事。いくらでもして良いんだよね」
そっと。白く細い指が撫でてきて。綺麗な顔が近づいてくる。
「もう好きって気持ち、抑えなくて良いんだもんね」
柔らかく、暖かい……唇が重なる。
「ん……」
その唇が離れて。ミアは頬を赤く染めて微笑む。
「私。とーやとちゅーするの、好きかも。ううん。好き」
「……俺もだよ」
ミアにされてばかりでは格好がつかない。
それに、俺だって。
「ミアの事、好きだから」
「うん!」
嬉しそうにするミアを見ていると、こっちも嬉しくなってしまう。
唇が重なる。
今まで、たくさん触れ合ってきた。頭を撫でられたり、ハグをされたり。膝枕をされたり。
それでも――
脳にバチバチと電流が走って。幸せが溢れてくる。
好きが、膨れ上がってくる。
「ん……とーや」
緑色の目が潤み。名前を呼ばれる。
「大好きだよ、とーや」
「俺も。大好きだよ、ミア」
抱きしめられ、手を握られる。
何度も、何度も唇が重なって。でも、慣れるなんて事は一切なくて。
夜はまだまだ、終わりそうになかった。
◆◆◆
「初めて、か。ここに来るの」
「ん。とーや、だいじょぶ?」
「大丈夫だよ。ありがとう」
俺とミアはとある場所に来ていた。そこは――
「ここに。俺のお父さんとお母さんが眠ってるんだ」
霊園である。ここに、お父さんとお母さんのお墓があるのだ。
そして、俺とミアの目の前にはお墓があった。
「初めて、なんだ」
「ああ。現実から逃げ続けていたからな」
だから、夢を見続けていた。信じたくなかったから。
だけど、今は違う。
「ミア達と前を向くって決めたからな」
「そっか」
「それと、色々と報告だな。……さすがに五年もあれば成長してるし」
ミアと一度手を離して、お墓の掃除から始める。
と言っても、家に来る前にお母さんが掃除をしたらしい。軽く水で墓石を洗い、打ち水をするぐらいだ。
「お父さんとお母さん、おまんじゅうが好きだったんだっけ」
「ああ。週末のおやつは決まってこれだったんだ。……長らく食べていなかったけどな」
お供え物をして。お線香を取り出した。
「あ、お母さんからライター借りてるよ」
「ありがとう」
ミアにも渡し、火をつけてもらう。
そして、二人でお線香をあげ、合掌をして。
祈りを捧げる。あの世でも、楽しく過ごせていますように、と。そして――報告だ。
お父さん。お母さん。ごめん。顔、見せられなくて。
俺、弱かったんだ。ずっと、お父さんとお母さんの死を受け入れられなかった。叔母さんにもすっごい迷惑かけてさ。……でも、今は叔母さんの事、お母さんって呼べるようになったんだ。
それと。家族が増えたんだ。
俺の隣に居る子、ミアって言ってさ。ミアと、妹の紫苑と茜、柚。そして、四人のお母さんと。
みんな、凄く良い子で、強くて。俺を支えてくれたんだ。
もう、大丈夫だから。俺はミアと。ミア達と一緒に歩んでいくよ。
今日はミアと二人での報告になったけど。今度は三人も……お母さんとお義母さんも連れてくるから。凄く可愛いんだよ。ミアの妹達。
それじゃあ、またね。お父さん。お母さん。
俺が合掌を終えるのと、ミアが合掌を終えるのは同時の事だった。
「……ミアは何、お祈りしてたんだ?」
「んー。なんて言ったと思う?」
答えに迷っていると、ミアは笑った。
「息子さん、私が貰いますねって言ったんだよ」
その言葉に思わず笑ってしまった。
「そう来たか」
「ん。あと、ずっと一緒に居ますから心配しないでくださいね、って」
「……そっか」
ミアの言葉に頷き。改めて、ミアを見る。
「ミア」
「ん」
「大好きだよ」
「私も。大好きだよ」
そっと。軽く、唇が触れる。
ここまで見せれば、きっと二人も天国で安心するだろう。
「それじゃ、行くか」
「そだね。今度は三人と……お母さんも連れてこよ」
「ああ。ちゃんと言っておいたぞ。ミアの両親にも。今度挨拶させてくれ」
「いーよ。みんなで行こうね」
ミアは微笑んで――あっ、と。小さく声を漏らした。
「そういえば。あと一つ言った事があったんだ」
「……なんだ?」
「いつか、孫の顔も見せに来ますからね、って」
そう言いながら繋がれた手は暖かく。
俺は、その笑顔に見蕩れていた。その時。
――楽しみにしてるね
――楽しみにしてるよ
どこからか、そんな声が聞こえた気がしたのだった。
今もどこかで、あの二人は俺達の事を見守っているのだろう。
誤解をされやすい天海さんは、実は超絶可愛くて家庭的なヒロインでした<~完~>
――――――――――――――――――――――
あとがき(物語の余韻に浸りたい方、その他作者の感想等が苦手な方はご注意ください)
皐月です。
誤解をされやすい天海さんは、実は超絶可愛くて家庭的なヒロインでした(略して天海さん)、ここまで読んで頂きありがとうございました。
この作品、元々紫苑、茜、柚の三姉妹の可愛さが強すぎてミアちゃんがヒロイン負けしてないか? と思う事が多々ありました。最初の方はミアちゃんより三人の方が圧倒的に人気でしたね。
でも、物語が進むにつれミアちゃんがヒロインし始めて。無事読者の皆様方に受け入れられ、ホッとしておりました。可愛いミアちゃんが伝わってくれて嬉しいです。
感想でも三姉妹が可愛いや、ミアちゃんが可愛いなど暖かいコメントをたくさん頂くことが出来ました。とても嬉しかったです。ありがとうございます。
そして、この作品。☆は約1300、フォローも2600超えと非常に多くの方々に読んで頂く事が出来ました。本当にありがとうございます。
あとがきを書きながら振り返るのですが、天海さん、私の作品の中ではかなり特殊な作品となりました。
何が特殊かと言いますと、フォローと☆の比率もそうなのですが。各話の♡の入り方ですね。
普通……というか私の作品では、話が進むにつれて♡の数も少しずつ減少しておりました。一話と大きな区切りとなるお話が一番♡が高い感じですね。
それが天海さん。全然♡の数が減らなかったんです。その上33話が一番♡が多く、次に2話が多いと面白い結果となりました。今だと44話が多くなりそうな雰囲気です。
個人的な感想となりますが、読者様方の満足していただけるストーリー展開が出来ていた……のだと思いたいです。
さて。話も長くなってしまいそうなので、語るのは程々にしておきます。……と言いながらあと一つだけ。
天海さん、書籍化しないかなぁ……! コミカライズしないかなぁ……! と作者は強く願っております。
ミアちゃんが紫苑ちゃんのおでこにキスしてる所とか! イラストで見たいです!
漫画で三人がとことこ歩く所とか! 見てみたいです!
などと思っております。
皆様もそう思って頂けましたら、☆を入れて応援をして頂けますと嬉しいです。
☆はあればあるほど編集者さん達の目につきやすくなる……と思うので。どこかが拾って頂けると泣いて喜ぶんですが。
さて、それでは本当の最後としてお礼の言葉を述べます。
天海さんを読んでくださった皆様方。
お話に♡を入れてくださった皆様方。
☆を入れてくださった皆様方。
フォローをしてくださった皆様方。
コメント付きレビューをしてくださった皆様方。
コメントをしてくださった皆様方。
ギフトをくださった皆様方。
Twitterにて感想を送ってくださった皆様方。
本当にありがとうございました。
おまけまで楽しんで頂けると嬉しいです。
という事なので。最後といいつつ本当にあと少しだけ、これからの流れを説明していきます。
おまけを何話か投稿する予定です。二人が付き合った後のお話を五話。そしてエピローグを書いていきます。
ちなみに更新頻度は毎日ではなくなるかもしれないです。私の頑張り次第ですね。遅くとも二日に一度は投稿できるよう頑張ります。
それと皆様にお聞きしたい事が一つ。
ミアちゃん達のこんなお話が読んでみたいなどがあればコメントをください。全部は難しいですが、作者の書きたいものが見つかれば書きます。少し未来のお話(三人が小学生のお話など)でもおっけーです。
さて。それでは本当の本当に最後です。
天海さん。読んで頂きありがとうございました。
あと少しだけ付き合って頂けるという方は、あとちょっとだけお付き合い下さい。
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