第41話 天海さん達と夏の思い出:博物館編

『――それで、恐竜達は絶滅したと言われています』


 モニターで映像と共に解説され、三人がふんふんと頷いている。


「休日に娘と息子と博物館に行けるの、幸せすぎる……」


 今日は博物館へと来ていた。ミアのお母さんも一緒である。


 それにしても、いつの間に俺は息子になっていたんだろうか。……まあ、それは良いのだが。


「すごいね、とーやにぃ! あーんなにおっきいきょーりゅーさんが!」

「ああ、そうだね。びっくりだね」


 美術館と博物館、最初はどちらに行こうか迷っていた。しかし、どうやら三人とも恐竜に興味があるようで、テレビのCMで流れてきた時に行きたい! と伝えてくれたのだ。


 なんとなく茜の頭を撫でていると。後ろから二人の会話が聞こえてきた。


「あの警戒心の高い茜が……」

「ふふ、びっくりだよね。私も最初びっくりした」


 と、そこで映像が一周した。三人がほー、と満足したように息を吐く。


「面白かったか?」

「おもしろかった!」

「すごかった!」

「たのしかった!」


 紫苑がお母さんへと抱きついて、茜がミア。柚が俺に抱きついて、手を繋いだ。

 いつもなら俺かミアが二人と手を繋いだりするが、今日は丁度保護者が三人になる。バランス的に丁度いい感じである。


「ふふ。次はお水に住んでる恐竜さんみたいね」

「たのしみ!」


 紫苑がぴょんぴょん跳ね、お母さんへぎゅーっと抱きついた。


 今日改めて思ったのだが、三人もお母さんの事が大好きなようだった。


 今も紫苑は楽しそうにお母さんの手をぎゅーっと握って。手を自分のほっぺたに持っていってもちもちしている。可愛い。


 それが嬉しいのか、お母さんももう片方の手で紫苑の頭を優しく撫でていた。


「えへー。おかあさんだいすきー」

「ふふ。お母さんも大好きよ」


 凄くほっこりする光景である。


「おかーさん、お仕事であんまり帰ってこれないけどさ。三人の誕生日とか、大事な日はちゃんと帰ってくるからさ。ちゃんと伝わってるんだ。私達の事、大切にしてくれてるって」

「凄く伝わってくるよ。大切にしたいって思う気持ち」


 ミアはもちろん、紫苑と茜、柚の事も。そもそも、大切だからこそ仕事を頑張っているのだ。


「今はその中にとーやも入ってたりするけどね」

「……そう、かな」

「そ。お母さんの中だともうとーやも家族認定されてるんだよ。ううん、私達みんなだね」


 その言葉はくすぐったくも、それ以上に暖かく。嬉しくなる。


「そっか」

「そ。……ん、ほら」


 ミアがもう片方の手を俺に差し出してきた。一瞬だけ迷ってしまったが……俺はその手を取った。


 しっかりと手を握られる。

 決して離れないように、俺も手を握り返したのだった。


 ◆◆◆


「きょーりゅーさん、かっこいーねー!」

「ふふ。かっこいいわね、恐竜さん」


 色々な恐竜とか歴史を見て、三人はずっと目をキラキラさせていた。


「紫苑はどの恐竜さんが好きだったのかな?」

「えーっとねー! うんとねー! ぶ、ぶらき? さうるす!」

「ふふ。ブラキオサウルスね」

「それー! きりんさんみたいでかっこよかったー!」


 手を伸ばしてぐいー、と首が長い事を表してくれる紫苑。可愛い。


「茜はどの恐竜さんが好きだった?」

「とりー? とぷす!」

「トリケラトプス、か。かっこいいもんね」

「かっこいー! つの!」


 茜は両手の指を一本立てて頭に乗せた。トリケラトプスもこの可愛さには勝てないだろう。


「柚はどの恐竜さんが好きだったんだ?」

「えっとねー! ぷてどん!」

「ぷてどん?」

「おっきーはね!」

「羽根? ……ああ。プテラノドンか」

「それー! せなかでおひるねしたい!」


 手を広げてばっさばっさと翼を表現する柚。可愛いし、柚らしい答えでもある。


 歩いていると、恐竜のキーホルダー売り場に出た。

 どうやら今まで見てきた恐竜全てのキーホルダーがあるらしい。


 三人がわぁ……! とそのキーホルダー達を見て。お母さんを見た。


「ふふ。お土産は大切な思い出になるからね。好きなの選んで、紫苑、茜、柚」

「わーい!」

「ありがとー!」

「おかーさん!」


 その言葉にミアのお母さんが微笑み――


「ミア、柊弥君も。好きなの選んでちょうだい」

「お、俺もですか?」

「当たり前よ。遠慮しないで、ね」


 ニコリと、柔らかく微笑まれる。少し迷ったが……俺は頷いた。


「ね、とーや。お揃いの買おうよ」

「ああ、良いぞ」


 ミアと共に恐竜のキーホルダーを見る。


 色々な種類があるな。リアルなフィギュアっぽいものから、デフォルメされた可愛らしいキャラクターのものまで。


「普段使いするなら……私達なら可愛い系のが良いかもね」

「そうだな。学校でも使えそうなものならこの辺か」


 デフォルメされた可愛らしい恐竜達。三人も可愛い方が好きらしく、こちらで色んなキーホルダーを見ていた。


「ぜんぶかわいーねー!」

「かわいー!」

「ねー!」


 可愛い。


 でもやはり好きな恐竜が良いからと、各々が好きな恐竜を手にしていた。


「あ、この子可愛い。この丸いの可愛くない?」


 ミアがそう言って見せたのは、アンキロサウルスのキーホルダーである。


 ずんぐりむっくりとしている四足の草食獣で、背中にトゲが生えている。しっぽの方に丸いこぶが付いていた。


「ああ、良いな。可愛い」


 そう言うと、ミアはニッと。目を細めて笑う。


「でしょ!」


 その笑顔に俺は――見蕩れてしまった。



 大きく心臓が高鳴る。身体中の血が顔へと集まってきた。


「じゃあこれでおっけー?」

「……ッ、あ、ああ」

「ん、じゃあ決まりね」


 ミアが俺をじっと見て。片方のキーホルダーを差し出した。

 なんとなくそれを取ると。ミアがニコリと笑って。俺のもう片方の手を取った。


「写真撮ろ」


 腕を組むように引き寄せて、ミアはその手にキーホルダーを持つ。


「今ならすっごい良い写真、撮れそうだからさ」


 その笑顔は一切崩れる事なく、スマホが取り出される。


「ね、とーや」


 腕をぐっと抱きしめる。その力はとても強く――暖かいもので。



「私ね、楽しい。すっごく楽しい」



 あの子達のように無邪気な笑み。それが、とても――


「今までで一番。紫苑も茜も柚も、おかーさんも居て。とーやが居て」


 とても、可愛くて。


「楽しいよ、とーや」



 太陽のように綺麗で、暖かい。



「俺も」


 まるで、日向ぼっこをしているように。暖まっていく。体も、心も。


「俺も、楽しいよ。ミア」

「ふふ、そっか」


 その薄い桃色の唇から笑い声が漏れた。


「いっしょだね、とーや」

「ああ。いっしょだ」


 そのままパシャリと写真を撮られる。




 その写真は長らく――俺とミアが大人になってもしばらくの間、スマホの壁紙となった。




 俺の誕生日は、もうすぐだった。

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