第40話 天海さん達と夏の思い出:動物園編

「おっきー!」

「きりんさーん!」

「くびながーい!」


 俺達は動物園に来ていた。

 ミアのお母さんはまだ忙しいらしい。次は絶対と意気込んでいたので、次にどこかへ行く時は来ると思う。


「ふふ。キリンさんおっきいね」

「おっきー! かっこいー!」


 紫苑が目をキラキラとさせ、両手いっぱいに広げて大きさを表してくれる。


「ぞーさんもいる!」

「ぞーさん!」

「おめめやさしー!」


 続いて象さん。柚の言う通り目がどこか優しげである。


 のっそのっそと近づいてきて、俺達の前で止まった。


「これって……」

「ファンサしてくれてるね」

「表現が若者。いや、若者なんだが」


 人馴れしているのだろう。つぶらな瞳が俺達を見つめていた。


「じゃあお言葉に甘えて写真撮ろっか」

「うん!」


 この動物園。一部の動物を除き、フラッシュを使わなければ自由に写真を撮って良い事となっている。


 みんなで写真を撮って、次の場所に――


「!」

「!」

「!」


 三人の視線が一点に固定された。

 どうしたのだろうと思い、そこを見て……俺とミアは自然と頷いていた。


【うさぎさんふれあい広場】


 三人がちらちらと俺とミアを見て、そこに視線を誘導しようとする。可愛らしい。


「ふふ。うさぎさんと遊びたい?」

「あそびたい!」

「うん!」

「おひるねするー!」


 お昼寝は良くないが。うん、そうだな。


「じゃあうさぎさんと遊びに行こっか」

「わーい!」

「やったー!」

「うさぎさんー!」


 ぴょんぴょん飛び跳ねる三人の方がうさぎのようである。可愛い。



 三人とミアと共に向かい、受付の方で野菜スティックを買う。入場料などはないらしい。


 紙コップに入った野菜スティックを持って、その広場へと入る。



「わぁ……! わあ!」

「うさぎさんいっぱい」

「かわいー」


【おおきなこえはださないでね!】という看板を先程読んだからか、三人は目を輝かせつつも声量を抑えている。偉い。


 そして、この広場にはたくさんの数のうさぎがいた。


 黒いうさぎ。白いうさぎ。ぶち模様のうさぎなど、さまざまだ。


 そーっと。紫苑が真っ白なうさぎに近づいた。手に野菜スティックを持って。


 ぴょん、ぴょん、と。うさぎが紫苑へと近づいてきた。紫苑がわあ……! と目を輝かせる。


 ゆっくりとしゃがみ、野菜スティックを突き出す紫苑。


 うさぎはぱくっと。スティックを食べ始めた。


「わ……わ!」

「ふふ。紫苑、あのイラスト、よーく見て。気をつけながら撫でてみて」


 ミアが指さした所には、うさぎの撫で方が大きなイラスト付きで説明されていた。【さわられるのすき!】と【さわられるのいや!】と【ぜったいさわらないでね!】の三つで構成されている。


 紫苑がこくこくと頷いて。ゆっくりと下から手を伸ばし。うさぎの背中にちっちゃな手を置いた。


「……! もふもふ、もふもふ!」

「ふふ。良かった」


 紫苑の顔がすっごいキラキラしている。可愛いというか……ああ、なんというか。


「動物と子供の絡み……良いな」

「分かる。最強だよね。特に紫苑と茜と柚がって」


 めちゃくちゃ可愛い。

 すっごい可愛い。

 永遠に見ていたくなる。


 ここも同じく、フラッシュは禁止だが写真はOKである。そのため、こっそりミアが紫苑の写真を撮っていた。


「さ、茜と柚も。うさぎさんと遊ぼ」

「うん……!」

「あそぶー……!」


 ミアが二人に野菜スティックを渡し、様子を見守る。


 茜はじりじりと。黒いうさぎに近寄った。

 逃げられるんじゃないかと思ったものの、思っていた以上に人馴れしているらしい。


 ぴょん、ぴょん、と。茜の所に近づいてきた。


「わぁ……!」


 茜が顔を輝かせながらも、ぶんぶんと首を振って。慌てたら怖がらせるからと、ゆっくりとしゃがんだ。


 そこで我慢出来るとか本当に子供か? 天才か? うちの子は天才なのか? 天才だろう。うちの子だし。


 そのままスティックをもっもっと食べ始めるうさぎ。茜がぱあっと顔を輝かせ、うさぎの背中を撫でた。


 野菜スティックを食べるうさぎに茜は「かわいいねぇ……かわいいねぇ」と言いながら撫でている。茜の方が可愛い。



 そして柚。

 柚はのんびりとその場に座り……不思議な事に、柚にぶち模様のうさぎが近づいてきて。柚の目の前で座った。


「ごはんさんだよー」


 柚が野菜スティックを渡し、うさぎがゆっくりもぐもぐと食べ始める。


 柚がもふもふのうさぎを撫でながら「えへー」と笑う。

 しばらく撫でていると、うさぎの目が閉じた。


「うさぎさんー……いっしょにおひるね」


 それを見て柚が座りながら目を瞑る。三秒後にはすやすやと寝息を立てていた。……可愛いけどめちゃくちゃ体幹良いな?


「柚はどこでも寝ちゃうからね」


 すると、紫苑が柚に寝ている事に気づいて立ち上がった。うさぎがこてんと首を傾げる。


 てってっと柚の所に走っていって。とっとっとうさぎがついていって。一人と一羽が柚の隣に座った。


 それと同時に柚がこてんと紫苑に頭を乗せた。紫苑は嬉しそうに柚の頭を撫で、もう片方の手でついてきてくれたまっしろなうさぎの背中を撫でた。


「やばい泣きそう」

「紫苑がお姉ちゃんしている……」


 やはりと言うべきか、この歳での一歳の差は中々大きい。


 ミアは目を潤ませながらも連写機能で写真を撮り続けている。


 二人が一緒に居る事に気づいて、茜がとことこと黒いうさぎと一緒にやってくる。そのまま紫苑に寄りかかるように座った。


「やばい。なにあの子達可愛すぎるんだけど」

「ちょっと俺も泣きそうになってきた」


 めちゃくちゃ可愛くて、色々と込み上げてきそうである。



 ややあって。


 めちゃくちゃ写真を撮ってから、ミアも俺もうさぎと触れ合う時間となっていた。


「……可愛いな」


 背中を撫でると気持ちよさそうに目を閉じるうさぎ。可愛い。


 しばらくうさぎを撫でて癒されていると。ぴとっと、隣にくっついてくる感触があった。


 茜である。


「じー」

「……茜? どうかしたのか?」


 うさぎが居なくなってしまったのかと思ったが……しっかりと茜の足元に居た。


 茜がじーっと言いながら見つめてきて。どうしたのだろうと思っていると。


「ぼくも、なでて」

「ん?」

「うさぎさんばっかりずるい!」



 ……ああ、そうか。そういう事か。


 茜、嫉妬しているのか。


 その事に気づいて、頬が緩んでしまった。


「おいで、茜」

「……!」


 茜がとん、と顔を肩に埋めさせてきた。

 うさぎを撫でていた手とは反対の手で茜の頭を撫でる。


 パシャリと、写真を撮る音が聞こえて。気がつけば目の前にミアが来ていた。


「ふふ。みんな可愛かったからついね」

「……そっか」

「ん。どんどん撮ってくからね」


 ミアが目を向けた場所。

 茜の後ろの方では、柚と紫苑がうさぎと一緒に待っていた。


「……外でも甘えんぼだな」

「ん!」


 そうして。動物園でもたくさんの思い出が出来た。

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