第39話 天海さん達と夏の思い出:海編
「うみだー!」
「うみー!」
「きれー!」
「ちょい待って、三人とも。日焼け止め塗らないと」
「はーい!」
「はーい!」
「はーい!」
俺達は海へと来ていた。三人を呼び止めるミアを見つつ、砂浜にシートを敷き。荷物を置く。
「とーやにぃ、ぬってー!」
「ん? ああ、分かった」
「あ、はい。とーや、日焼け止め」
「ありがとう」
ミアから日焼け止めのクリームを手に出してもらい、それを茜の腕や脚に塗り広げていく。
「えへー! くすぐったい!」
「ちょっとだけ我慢してな」
「はーい!」
茜の肌が出ている所を重点的に塗り広げる。塗り方のコツなんかはこの前ミアに聞いていた。
「茜。目、瞑っててな。顔にも塗るから」
「はーい!」
顔にぬりぬりと日焼け止めを塗る。もちもちである。
塗るついでにほっぺたをもちもちとする。茜の口がどんどん緩んでいき、最終的に口が開きそうだったのでやめておく。
「はい、出来たぞ」
「ありがとー! とーやにぃ!」
「はい、どういたしまして」
ぎゅー! と抱きついてくる茜の背中をぽんぽんと叩いて、ミアの隣に向かう。
「あ、とーや。丁度良かった」
「……? どうした?」
「日焼け止め。塗って欲しいんだけど」
「ん?」
「日焼け止め」
ん、と言いながら日焼け止めを差し出してくるミア。思わずそれを受け取ってしまう。
「紫苑、茜、柚。ごめんだけど、お姉ちゃん達が日焼け止め塗り終わるまで近くに居といて欲しいな」
「はーい!」
「わかった!」
「すなあそびするー!」
「ん、ありがと。そうしといて」
ミアが三人の頭を撫でて、シートの上に寝転がった。
「じゃ、とーや。お願い」
「……ミアって時々強引だよな」
「ふふ。とーやほどじゃないかな?」
ミアの言葉にうっと喉が詰まる。最初の頃の事を思い出してしまったからだ。
「そんな顔しないでよ。感謝してるんだからさ」
「……分かった」
日焼け止めのクリームをミアの肩、そして背中へと付ける。
「……触るぞ」
「ん、お願い」
そっと、その背に触れる。白く綺麗な――ちょっとの衝撃で壊れてしまう、ガラス細工のようだ。
しかし、実際に壊れるような事はない。
「ん」
一瞬だけミアは肩を跳ねさせ。しかし、すぐに大人しくなった。
すべすべとしていて、しかし弾力のある肌。
「……っ」
時折ミアの口から吐息が漏れる。それがやけに耳を……心をくすぐってくる。
どうにかそこから意識を逸らそうとするも。ミアが身を捩り、こちらを向いてきた。
「ちょっと、くすぐったいかも」
人差し指を小さく噛んで、ミアが言う。
心臓がバクンと、一度大きく高鳴った。
「わ、悪い。すぐ、終わらせるから」
「ごめ、別に急かしてる訳じゃないから。いーよ、ゆっくりで」
その言葉の意味を邪推しそうになって、首を振る。
またその肌に触れようとした時だ。
「あ、とーや」
「……なんだ?」
「紐の下の方もお願いね」
「……ん?」
「お願いね。跡になっちゃうと大変だから」
サラッととんでもない事を言われてしまった。……え? やるの? 俺。
しかし、ミアの肌が焼けるのは良くない。
「……ん」
そっと。その紐の下に指をくぐらせる。
別に卑猥な事をしている訳ではない。ちゃんと塗らないと。
そうしてどうにか――塗り終わった。
ふう、と大きく息を吐く。ミアが「ありがと」と言いながら、ごろんと仰向けになった。
「じゃあ次は――前?」
「――ッ」
「ふふ。さすがに冗談だよ」
めちゃくちゃ心臓に悪い冗談である。ホッとしていると――
「それとも。塗りたい?」
「ばっ……」
「ふふ。塗りたいなら塗ってく?」
「ぬ……塗らない」
「そりゃ残念、かな」
顔に熱が溜まっていく。しかしそれはミアも同様のようだった。
ミアが日焼け止めを塗っているのをボーッと見て。しかしすぐに目を逸らした。……水着の中の方に手を入れたからである。
「ずれた時に変な焼け方したら困るからね」
「そ、そっか」
「サイズもピッタリだし、そんなにずれないとは思うけどね」
なんとなくその言葉には返しにくかった。目を逸らしてると、ミアが日焼け止めをシートの上に置いた。
「さ、次はとーやの番だね」
ミアがちょんちょんとシートをつつく。そこに寝転がってという事だろう
「……じゃあお願いしようかな」
「任せて」
ミアに背中の方を塗って貰う。
やはり日焼け止めを塗る事には慣れているのか、かなり手早く塗って貰う事が出来た。
その後、前の方を自分で塗った。すると、ミアが立ち上がった。
「じゃあ行こ。三人ともお城作ってるし」
そう言って。ミアは手を差し伸べてくれた。
「ああ。そうだな」
その手を取って――
「うおっ」
「あ、ごめん」
引っ張られる力が想像以上に強くて。思わず前に倒れ込みそうになってしまった。
ぽすりと――ミアの体に抱きとめられる。
「ッ……」
抱きとめられてしまった。
今の俺は、日焼け止めを塗るからとラッシュガードを脱いでいて――ミアも当然ながら、水着しか着けていない訳で。
「ごめんね。だいじょぶ?」
少し低く、しかし耳心地の良い声が耳を撫でる。薄い吐息が鼓膜をくすぐる。
体の前面が暖かく……幸せな感触に包まれていた。
非常にまずい。これは。非常に。
「だ、だいじょぶ、だから」
「ほんと? 怪我とか痛いとことかない?」
離れようとするも、ミアが離してくれない。その言葉もどこか楽しげに聞こえた。
「ふふ。とーや、ドキドキしてる」
「み、ミア……」
「すっごい困ってるね。……困ってるとーや、可愛くてなんかいいかも」
ドクン、ドクンと。鼓動が内で暴れ回る。しかし、それは一つだけでなく――
「あ、バレた。私も今心臓の音、凄いんだよね」
――その音に重なるようにして。鼓動が響いていた。
ドクン、ドクン、と。心音が重なる。
まるで、一つに溶け合ってしまうかのように――
「あー! おにーちゃんとおねーちゃん!」
「ぼくもぎゅーってする!」
「わたしもー!」
その言葉にミアがピクリと体を跳ねさせ。小さく笑う。
俺からそっと体を離して、三人を見た。
「ん、じゃあ誰からぎゅーしたい?」
「ぼく!」
「わたし!」
「しおんはおにーちゃんと!」
はい! と手を挙げる三人にミアはうんうんと頷いた。
「おっけ。おいで、茜、柚」
「紫苑もおいで」
「おねーちゃんすき!」
「だいすきー!」
「おにーちゃんだいすき!」
紫苑が抱きつき。俺を見上げて笑う。
そのもちもちなほっぺたをつっつくと、くすぐったそうに笑う。ほっぺたをもちもちすると、気持ちよさそうに目を細める。
子供とはそれなりに触れてきたつもりである。叔母の手伝いで子供と触れ合う事が多かったから。
向こうの子達もみんな可愛く、素直であった。
しかし――
「うちの子が一番可愛いかもしれない」
「分かる。誇張抜きで一番可愛い」
紫苑が「かわいいー?」と聞いてくるので「めちゃくちゃ可愛い」と言いながらほっぺをもちもちする。
「えへー! しおんかわいい!」
「ぼくはー?」
「わたしはー?」
「茜と柚もすっごい可愛いよ」
「えへー!」
「にへー!」
にこにことする二人を軽く抱えるミア。かなり力持ちである。
「とーや。写真撮ろ」
「ああ、そうだな」
ミアは両手が塞がっている。紫苑を落とさないよう慎重にリュックの中からスマホを取り出した。
ミアが二人を抱えて近づいてきて。ぴとっと肩を重ね合わせる。
「じゃあ撮るぞ」
なるべく意識しないようにしつつも……肩から伝わる柔らかな感触は消える事がない。
カメラを内カメにして、手を伸ばす。
紫苑と茜、柚がにこー! と笑って、俺とミアのほっぺにちゅーをした。
「はい、チーズ」
それに微笑みつつ、写真を撮る。
こうして、夏休みの思い出がまた一つ増えたのだった。
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