第23話 天海さんの妹達に好かれた理由

「かわいー!」

「もこもこー!」

「ぎゅー!」


 ぬいぐるみを抱きしめ撫でる三人。非常に愛らしい。


「……まさかほんとに取れるって。しかも千円で」

「多分取りやすく設定されてたな。俺も三千円くらいはかかると思ってた」


 多分子供向けの商品だからだろう。実に良心的なお店である。


 しかし、久しぶりだから本当に緊張したな。紫苑達も「もっとみぎー!」「おくー!」「てまえー!」と楽しそうにしていた。


 丁度、全部取りやすい場所にあったのだ。二回ずらして三回目で取る、が全て成功した形だ。



 その時、ふと。その近くにあった、小さなクレーンゲームが目に入ってきた。


 ぬいぐるみ……手のひらサイズの真っ白はうさぎが景品のようだ。


 財布を見ると、百円玉が一つだけ入っていた。


「……よし」

「柊弥?」

「運試しだな。まあ、取れたら儲けものみたいな感じだ」


 百円を入れた。こちらは横と奥に動かすボタン式ではなく、180°動かせるレバー式である。


 じーっと紫苑達が見てきて。慎重にレバーを調節する。


「……さて。どうかな」

「とれますよーに!」


 ぱん、と手を合わせて祈る茜。続いて紫苑と柚も手を合わせて祈った。


 ウィーン、とクレーンが下がり。うさぎを捕まえ――


「やった!」

「……そうだな」


 持ち上がったものの、今にもずり落ちそうだ。耐えられるかどうか微妙である。


 三人がはらはらするように見つめ。



 うさぎが落ちた。

 穴を囲っている板に。


 その板にぶつかり、跳ね。


 穴へと入った。


「やったー!」

「上手くいったな。……本当に取れるとは思ってなかったけども」

「とーやにぃがじょーずだったから!」

「そー!」

「……ありがとう」


 茜達の頭を撫で、景品取り出し口からうさぎを取る。

 手のひらに乗る程度の大きさだが、もふもふで柔らかい。


「さ、ミア。貰ってくれ」

「……え、私?」


 うさぎをミアへと見せると。目を丸くしていた。


「ああ。俺の部屋にあってもあれだしな」

「じ、じゃあ紫苑達に……」

「だめー!」


 ミアの言葉にしかし、紫苑が腕で×を作った。


「おねーちゃんがおにーちゃんからもらったんだよ!」

「そー! だからおねーちゃんがもってないとだめ!」

「じゃないとぎゅーってする! いっぱい!」


 相変わらず可愛らしい脅しである。柚にぎゅーっとされても得しかない。


「や、別にぎゅーってされても困らないけどね」


 ミアも分かっているのかそう返した。ニコニコとするミアに、柚がえー! と驚いた表情をした。


「じ、じゃあじゃあ! ちゅーもするもん!」

「ん、大歓迎だよ。する?」

「するー!」


 先程の脅しはどこへやら。にこー! と良い笑顔で腕を広げる柚。


 ミアが柚を抱き上げ、柚はミアにぎゅーっと抱きついて。ほっぺたにちゅーっとキスをしていた。

 柚がえへー! と笑う。ミアがおでこにキスをすると、えへへへー! と笑う。微笑ましい光景である。


「……ん。じゃあありがたく貰っとこうかな」

「ああ。貰ってくれ」


 ミアがうさぎを取り。手にちょこんと乗せた。


「ふふ、かわいい」

「かわいーねー!」


 うさぎを見て。二人が笑顔になる。


 その姿はとても。とても和やかで――



 こんな事で、と思われるかもしれないが。


 天国に居るお父さんに、『クレーンゲームのコツ、教えてくれてありがとう』と心の中で呟いたのだった。


 ◆◆◆


「かわいー!」

「ぎゅー!」

「すやぁ……」


 犬のぬいぐるみを撫で続ける紫苑。

 カメのぬいぐるみを抱きしめる茜。

 コアラのぬいぐるみを抱きしめながら眠る柚。


 可愛い。子供+ぬいぐるみは強い。最強である。


「しかし、またお邪魔して良かったのか?」


 デパートから帰ってきて。俺はまたミアの家に来ていた。『夕飯まで食べていって』と言われたから。


「『邪魔』なんかじゃないから。勘違いしないで」

「新しいタイプのツンデレみたいな事言ってるな……」


 しかし、その言葉は素直に嬉しい。


「柊弥はもうこの子達のお兄ちゃんなんだからね」

「そう、だな」


 ぎゅーっとぬいぐるみを抱きしめていた茜と目が合って。突進するように抱きついてきた。


「とーやにぃ!」

「なんだ?」

「すき!」

「……そっか」


 そのほっぺたをむにむにとして。もちもちとする。本当に……可愛い。


「お兄ちゃんも好きだぞー」

「えへー!」

「しおんはー?」

「もちろん紫苑も好きだよ」


 紫苑がぺたぺたと近づいてきたので、まとめて抱きしめる。


「しおんもすきー!」


 紫苑はもちもちなほっぺたを胸に擦りつけてくる。非常にもちもちである。


「すやぁ」


 すると、柚が寝返りを打ちながら近づいてきた。本当に寝てるのかと思いつつ、寝息を立てているので眠っている……のだろう。多分。


 足にぶつかって。もちもちなほっぺたを乗せてきた。


「もちろん柚も。好きだからね」


 頭を撫でると、眠りながらえへへと笑った。


「紫苑」

「なあに?」

「紫苑はどうしてお兄ちゃんを好きになってくれたんだ?」

「おにーちゃんだから!」


 即答である。ふと思いついた疑問なのだが……。


「茜はどうして人見知り……あー。初めて会った時、恥ずかしくならなかったんだ?」

「しおんがたのしそーだったから!」

「なるほど」


 茜の言葉に納得した。

 姉が懐いていたから、自分もという事なのだ。多分柚も同じだろう。

 そうなると余計紫苑が懐いた理由が気になるが。


「雰囲気、だと思うよ」

「雰囲気?」


 キッチンの方からミアが顔を出し、そう言った。


「そ。雰囲気。似てたんじゃないかな」

「――なるほど」


 お父さんに、という事か。


 紫苑が生まれて……多分一年と少しで亡くなっている。

 覚えているかどうか、聞く事はしないが。雰囲気くらいは覚えていたのかもしれない。


「おにーちゃんだからだもん!」

「……ああ。ありがとう、紫苑」


 頭を撫でようとするも、腕が捕まれ。ぎゅーっと腕に抱きついてきた。腕がもちもちになる。新しいパターンである。


「おにーちゃんのおててすきー!」

「ぼくもー!」

「むにゅ……すやぁ」


 にこー! と笑顔で告げてくる三人。柚も眠りながら笑っていて。


 めちゃくちゃ可愛く、癒されたのだった。

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