第21話 天海さんは少し大胆

「デパート!」

「わーい!」

「すずしー!」


 ぶんぶんと繋いだ手を力強く振る紫苑と柚。今日は抱っこではなく手を繋いでいる。茜はミアと手を繋いでいた。


 紫苑がとんとんと体をぶつけてきて。見ると、「にこー!」と言って笑った。可愛い。


「さ、水着のとこ行こっか」


 ミアの言葉に三人ははーいと元気に返事をして。俺達は水着コーナーへと向かったのだった。


 ◆◆◆


「かわいー!」

「これかうー!」

「わたしもー!」


 光の速さで三人の水着が決まった。フリルの付いたワンピース型の水着だ。

 紫苑は紫色。茜はオレンジ色。柚は黄色のものである。髪留めと同じ色だ。


「……あー。良いの?」

「これがいー!」

「来年までは同じの着ける事になるけど」

「かわいいもん!」

「柚は?」

「ぎゅー!」

「……それが良いんだ」


 感性が似ているのは歳が近いからか。それとも姉妹だからか。はたまたお揃いが良いのか。全部な気がする。


「じゃあとりあえず試着しよっか」

「はーい!」


 そうして、まずは試着をする事になったのだった。


 ◆◆◆


「じゃじゃーん!」

「しおんかわいー!」

「かわいー!」


 ワンピーススタイルの水着。

 明るい紫色が似合って見えるのは、普段から紫色の花の髪留めを付けてるからだろうか。

 いや。単純にめちゃくちゃ可愛いから似合ってるだけだな。


「どーお? おにーちゃん! おねーちゃん!」

「うん、めちゃくちゃ可愛い。さすが私の妹。天使。すんごい可愛い」

「ああ。めちゃくちゃ可愛い」

「えへー!」


 可愛い。


「サイズもいい感じだし、紫苑はそれでおっけー?」

「おっけー!」

「じゃあ茜と柚も試着しよっか」

「はーい!」

「わーい!」


 続いて二人もミアに連れられ、試着をした。


「ぼくかわいー!」

「わたしもかわいー!」

「うんうん、二人も天使天使。女神も卒倒する可愛さ」

「ああ。凄く似合ってて可愛い」


 茜はオレンジ色。柚は黄色で明るい色だ。

 二人とも元気だし……柚は若干おっとりした感じで可愛い。茜は元気で愛らしい。


「じゃあぼくもこれー!」

「わたしもー!」

「はいはい、決まりね」


 凄い速さで決まったな。良い事なのだが。


 そうして着替えて。買い物かごに水着を入れる。


「先私の見ていい? 近いし」

「ああ、もちろん」


 ミアの言葉に頷いて女性用水着の所へ…………。


「これ。俺行っても良いのか?」

「え? ダメなの?」

「いや、ダメって言うか。あー。居心地が悪いというか」


 水着。それは布面積が普通の服に比べてかなり小さくなる。もちろん物によるのだが。

 なんとなく、レディースの下着コーナーに居るような気分になってしまうのだ。


「んー……」


 ミアが少し考え。



「じゃあこうしよ」


 手を繋いできた。


「……ミア?」

「あ、や、ほら。こーしたらさ。周りから……か、カップルっぽく見えるし? そしたら居心地の悪さも良くなるかなって」


 ミアがそう言って顔を逸らした。



「……別に。手ぇ繋ぎたかったからじゃないし」


 ドクン、と。強く心臓が跳ねる。

 その言葉の意味を考えそうになり……考えすぎだと、小さく頭を振る。


「あー! おねーちゃんおかおまっかー!」

「茜。怒ったらぎゅーってするよ」

「わーい! ぎゅー!」


 怒るが、全然怒っているように見えないミア。

 茜がぎゅーっとしてきて、もう片方の手で頭を撫でていた。


「んー!」


 すると、反対の方で柚が手を伸ばしてきた。自分も手を繋ぎたいと言わんばかりの顔だ。


「あったかーい」


 手を繋ぐとニコニコする柚。ちなみに、柚のもう片方の手は紫苑と繋がれている。


 そのまま仲良く女性用水着の方へと向かった。


「……って言っても、水着かぁ。どーしようかな」

「女子は種類多くて大変だな」


 男などほぼ海パン一択である。上にラッシュガードとか着る事もあるが。


「学校、というかプールでも着るやつだからね。あんまり派手なやつもあれだし。色々着てみたいのもあるんだけどね」


 確かに学校で……ビキニなど着ける人は居ないだろう。多分。


 授業の一環であり、泳ぎやすいものが必要なのだから。


「ま、そーなるとこの辺になるかなぁ、種類多いし。ラフだし」

「フィットネス水着、か」


 主に泳ぐなり水の中で色々やる用の水着である。ミアはいくつか見て。


「あ、これ買お」


 即座に決めた。いや早いな。


 しかし、その水着を見て。思わずああ、と納得してしまった。


 全体的に黒い水着なのだが、横のラインにクローバーのイラストが用いられていたのだ。


「多分このサイズでもいけるはず。ちょっと試着してみるね」

「ああ」


 そこでやっと……やっと手が離れたのだが。


 少しだけ寂しく思ってしまった。


「じゃあわたしがつなぐー!」


 しかし、その手はすぐに埋められた。


「……紫苑」

「えへー! おにーちゃんのおててすきー!」


 にこにこと笑う紫苑に心がポカポカと暖かくなっていく。


 手をぎゅっと握る。

 ミアが試着室に入り、少ししてから。


 ミアがカーテンからひょこっと頭を覗かせてきた。


「あー、ごめ。柊弥」

「どうした?」

「ちょっと胸のとこキツくて。もうワンサイズ上のあったら持ってきて欲しいなって」

「わ、分かった」


 胸がキツい。その言葉に変な想像をしてしまいそうになった。



 先程の場所へ向かい、探してみると……あった。


 サイズに関してはよく分からないので、大きいものから二つほど持っていく。


「ありがと。着てみるからちょっと待ってて」

「あ、ああ」


 水着を渡しつつ、目を逸らす。カーテンの隙間から少し見えてしまいそうだったから。



 また少しして。名前を呼ばれた。


「柊弥、紫苑達も。ちょっと良い?」

「なーにー?」

「どうした?」

「あー、ちょっとさ。カーテン開けるの恥ずかしいから。どんな感じか見てくれない?」

「はーい!」


 その言葉を上手く理解出来なかった。

 固まっていると、紫苑がぐいぐいと手を引っ張ってきた。


「……?」


 きょとんとした顔で見上げてくる紫苑。


 俺、必要か?

 ……いや、あれか。


 紫苑達に比べれば、俺は高校生としての価値観がある。

 それで、俺から見て変かどうか見て欲しいのだろう。


 そう理由付けて。邪な考えは持つなと頭を振る。


「み、見るぞ」

「……ん」


 ミアに言われ。紫苑達と共にカーテンの中を覗き――



「ッ……」

「かわいー!」

「かっこいー!」

「すきー!」



 思わず、言葉を失ってしまう。



 制服の上……シャツの上からでも、そのスタイルの良さは分かっていた。


 そのつもりだった。


 しかし、水着という……ピッチリとしたものは、スタイルの良さが強調される。


 出る所は出て、しかし引き締まっている体つき。


 思わず、体のラインに目を向けそうになって。どうにか。無理やり視線を上げると。


 ミアと、目が合った。その顔はリンゴのように赤いが。


 にぃ、と笑っていた。


「バレバレだよ」

「……ぁ、ご、ごめ」


「いーよ、とーやなら」



 漏れかけていた言葉が行く先を失い、喉から変な音が出てしまう。


 その言葉は脳を揺さぶり。鼓動を早めた。


 どういう、意味だと聞こうとして。聞くのは良くないのではと、頭の中がぐるぐるぐるぐると回る。


「ふふ。どー? 似合うっしょ」


 ミアが投げかけてきた言葉に。


 俺は、小さく頷いて。


「……ああ。似合うよ。凄く」


 そう返す事しか出来なかった。

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