第11話 天海さん達が家にやってきた

「おおー! おっきい!」

「すごーい!」

「おひるね……!」


 家を見て目を輝かせる三人。

 そして、目を丸くする美少女が一人。


「……柊弥の家。お金持ちなんだ」

「まあ。そうとも言えなくはないな」


 俺の家は一軒家だ。二階まである。ミアの言う通り、お金持ち……というか。お金に関して、生活に不自由があったことはない。あまりミアに言うべき事ではないのだろうが。


「さ、入ってくれ。誰も居ないから少しくらい騒いでも問題ないぞ」

「わーい!」

「やったー!」

「おひるね!」


 柚がお昼寝大好きすぎる。いや、別に良いんだけどな。


 すると、ミアが俺の言葉に引っかかったのか、じっと俺を見てきた。


「誰も居ない?」

「ああ。一人暮らしなんだ」

「はっ……ええ!?」


 ミアが呼吸を切って少し大きな声を出した。まあ、驚くだろうなとは思っていた。


 家の中へ入っていく三人を見ながら。

 なるべく聞こえないよう、俺は呟く。


「五年前。両親が他界してな」

「……ッ」

「それからしばらくは叔母の家で暮らしてたんだが、やっぱりこの家が恋しくてな。無理を言って戻ってきたんだ。両親がかなりの遺産を残してくれていたからな。生命保険なんかも含めて、ではあるが」

「ごめん」


 ミアが謝る必要はない。首を振って答えつつ、それよりと俺は廊下を見た。


「それなりに広いからな。入ってくれ」

「……ん。ありがと」


 ミアを家に招き入れて。俺も中へ入る。

 既に三人はリビングではしゃいでいた。


「ひろーい!」

「おっきー!」

「ふかふか!」

「こーら、走らない」


 はしゃぐ紫苑達をミアが注意し、紫苑達がピタッと止まった。

 その様子が面白くて、思わず笑ってしまう。


「ああ、そうだ。小さい頃読んでた絵本が何冊かあるんだ。読むか?」

「よむー!」

「分かった、持ってくるよ。テレビのリモコンはこれで。好きにくつろいで良いからね」

「はーい!」


 元気に返事をする紫苑を横目に。残しておいて良かったと、俺は絵本を取りに向かった。


 ◆◆◆


「おじーさんと、おばーさんは、しあわせにくらしました! めでたしめでたし!」

「凄いな。もう字も読めるんだ」


 膝の上で絵本を広げるのは紫苑。今日は紫苑が読み聞かせをしたいとの事なので、やってもらったのだ。

 頭を撫でるとえへーと笑う。なんなんだこの可愛さは。


「とーやにぃ! ぼくも!」

「わたしも!」

「はいはい。順番な」


 そして隣で服を掴んでくるのは柚と茜である。


「……ほんと。よく気に入られたよね」

「自分でもどうしてか分からないけどな」


 うりうりと頭を撫でると、茜が嬉しそうに頭を揺らす。小さな犬耳と犬しっぽを幻視してしまう。


 反対に柚は気持ちよさそうに目を閉じ。このまま撫で続けたら眠りそうだ。


 ……いや。寝かせても良いか?


 ミアを見ると、こくりと頷かれる。それと同時に紫苑が俺の膝からぴょんと飛び降りて。ミアへ駆け寄ってぎゅっと抱き締めた。


「えへー。おねーちゃんひとりじめー」

「え、やだ何この子可愛い。持ち帰っていい?」

「いやお前の妹だろうが」


 ミアが紫苑を撫でくりまわした。紫苑が嬉しそうに、更にぎゅーっと強くミアに抱きついた。


「さて。じゃあ今日もお昼寝するか?」

「する!」

「はーい!」


 柚が食い気味に頷いて、茜が元気に手を上げた。


「じゃあ……俺の部屋で良いかな。ベッドも大きいの使ってるし」

「わーい!」

「ん、おっけ。二階?」

「ああ。二階のすぐそこだ」


 立ち上がると、茜と柚が服の裾を掴んできた。


「おにーちゃん、だっこ」

「だっこ」


 なんなんだこの可愛い生物は。だっこなどいくらでも出来る。例え二人ずつ分裂したとしても出来そうだ。いや、出来るだろう。


「しおんはおねーちゃんと!」

「はいはい。もー、三人ともあまえんぼさんなんだから」


 ミアはそう言いつつも嬉しそうだ。そのままミアが紫苑をだっこし。俺は柚と茜をだっこした。


「ミアって結構力持ちだよな」

「まーね。いざという時に三人を抱えて逃げられない、とかじゃ話にならないから。鍛えてるんだ」


 ミアが腕を曲げてぐっと力を入れると、小さな力こぶが出来た。

 そういえば、体力テストの時にかなり活躍していた気がする。一時話題になってたな。


 そうして俺は柚と茜を抱え。ミアは紫苑を抱えて二階へと上がる。


「むにゃむにゃ」

「……もう少しだから耐えてな? 茜」

「むにゅ……? はーい」


 茜に服をぎゅっと掴んで貰って階段を上がる。


「この部屋だな。柚。開けて貰って良いか?」

「はーい!」


 少ししゃがむと、柚が両手を使って扉を開けてくれた。


「ありがとな、柚」

「えへー!」


 可愛い。可愛いとしか言えない。めちゃくちゃに可愛い。


「あー、可愛い」

「分かる。超絶可愛い」


 可愛いがゲシュタルト崩壊しそうだ。

 三人も早く部屋に入りたいとうずうずしているので、早く部屋へと入ろう。


「さ、ここだ」

「わーい!」

「ひろーい!」


 念の為に冷房を入れておいて良かった。

 そのままベッドへ向かい、茜を横にした。続いてミアが紫苑を横にする。紫苑が体を動かし、こちら側に来た。俺の方から紫苑、柚、茜となる形だ。


 このベッドはかなり大きい。

 昔。小さい頃、俺はかなり寝相が悪かった。そんな俺を見て、両親が大きいものを買ってくれたのだ。


「おねーちゃんも!」

「んー。狭くなっちゃうよ?」

「いーもん!」


 ミアが茜の言葉に苦笑し、俺を見てきた。もちろん良いぞと頷く。


「じゃあ……ちょっと失礼するね」

「わーい!」


 ミアが茜の隣に横になると。茜が嬉しそうにぎゅっとミアへと抱きついた。


「おにーちゃんも!」

「お、俺もか?」


 いくら大きいと言っても、この人数だとさすがに狭い。


「しおんがおにーちゃんぎゅってするからだいじょーぶ!」

「わたしも、しおんぎゅってする」


 二人の言葉に苦笑していると。ミアが茜を抱き締め返しながら笑った。


「昨日見て分かったと思うけど。この子達、抱きつき癖あるから。寝る時は誰かに抱きつかないと寝れないんだよね」

「……そうか。分かったよ」

「わーい!」


 横になった瞬間、紫苑が抱きついてくる。温かい。

 そして、柚が紫苑にぎゅっと抱きついた。本当に……。


「可愛いの極みが過ぎる」

「分かる。さすが私の妹達」


 頭を撫でると嬉しそうに頬をゆるゆるにする。なんなら頭を擦りつけてくる。

 なんなんだこの可愛い生物達は。


 頬をつんつんと指でつつくと「くすぐったいよ」と身を捩る。可愛くてどうにかなってしまいそうだ。


 いたずらはそれくらいにして、三人を眠らせにかかる。

 ミアのやっている事を真似し、手を回してとんとんと優しく背中を叩く。紫苑だけではなく柚も。


 そうして数分程で、三人はすやすやと寝息を立て始めた。

 起きてる時もめちゃくちゃかわいかったのだが。相変わらず眠っていても可愛い。


 そうしてしばらく眺めて。ふと顔を上げると、ミアと目が合った。


(可愛いっしょ)


 言葉は発せられなかったが、何を言っているのか分かる。


 全力で頷きそうになって、しかし紫苑達を起こしてしまいそうだったのでやめ。小さく頷いた。


 しばらく三人を眺めて。すると、ミアがこっそりとベッドから抜け出して俺を見た。


(ちょっといい?)


 なんだろうと思いながら。俺は紫苑が落ちないよう、同じくこっそり抜け出したのだった。

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