第9話 天海さんの妹達はすやすや眠る

「三人も仲良しだな」

「うん! なかよしだよ!」


 柚と茜を迎えて、帰り道。三人は手を繋いで仲良く帰っていた。


「いきなり走ったりしないようにね。あと、周りもちゃんと見る事」

「はーい! わかってるよー!」


 ミアの声掛けにもしっかり返事をする紫苑。

 交差点が来る度に三人はきょろきょろと周りを確認してから「よーし!」と元気に歩き始める。可愛い。


「うちの妹達。天使っしょ」

「ああ。めちゃくちゃ可愛い。持ち帰りたい」

「それはだめ」


 お決まりのセリフに笑い、のんびりと五人で歩く。



「もう、柊弥とは帰れないのかなって思ってた」


 小さくミアが呟いた。三人に聞こえないように。


「柊弥が来れないんだって言ったら、三人とも凄く悲しんだと思う。……凄く」

「……ちょっとあれだが。そう言って貰えるのは嬉しいな。三人に気に入られてるって分かるから」

「ん。もうお父さんみたいな感じだと思ってるんじゃないかな。うち、お父さん居ないから」


 小さく呟かれた言葉にそうか、と頷いた。


「……だから、ありがと。私だけじゃなくて、妹達の事も考えてくれて」

「俺も紫苑達と会えなくなるのは寂しいからな」

「よんだー?」


 声は小さかったはずだが、紫苑が呼ばれた事に気づいて振り返ってきた。


「ううん。紫苑達が可愛いなーって話してただけだよ」

「そー! しおんたちはかわいいのです!」


 自己肯定感が高いようで良かった。多分ミアの教育のお陰だろう。

 胸を張って自慢げにする姿も可愛らしい。


「ぼくもかわいいのです!」

「わたしもかわいいのです! あとねむいのです!」


 紫苑の言葉を真似する二人も可愛い。凄く癒される。


「もちろんおねーちゃんもかわいい!」

「かわいい!」「かわいい!」


 その言葉にほんわかしていると。紫苑と目が合った。


「おにーちゃんもおねーちゃんのこと、かわいいっておもうよね!」

「ん? ああ。凄く可愛いと思うよ」

「えへへー」


 自分の事のように喜ぶ紫苑。可愛いなとミアを見ると。


「……」

「ミア?」

「や、今見ないで」


 ミアは腕で顔を隠そうとしていた。しかし、その前に俺はしっかり見てしまっていた。


 乳白色の肌はリンゴのように赤くなっていて。口元が笑うのを我慢するようにもにょもにょと動いていたのだ。


「……ふふ」

「わ、笑わないで」

「悪い悪い」


 その表情が珍しくて。つい笑ってしまったのだった。


 ◆◆◆


「すぅ……すぅ」

「……やばい。可愛い」


 ミアの家に着いてから。三人は眠くなったとの事でお昼寝を始めた。


 始めたのだが。


「やーっば。姉ながらに思うけど。天使とかもうその辺超越した何かっしょ」

「可愛いの極みがすぎる。可愛いの暴力で現行犯逮捕される」

「ちょっと何言ってるか分かんない」


 紫苑が真ん中で、茜と柚が挟む形で。


 二人が紫苑をぎゅーっと抱きしめてるのだ。もう可愛いったらありゃしない。


「……写真撮って良いか?」

「もち。撮らない方が犯罪まであるし」


 全くもってそんな事はない。どちらかと言えば犯罪寄りである。


 しかし、このチャンスを逃す理由はないとスマホを構えて。パシャリと写真を撮る。


「むにゃ……すやぁ」

「可愛いオブザイヤー決定戦優勝候補すぎる」

「優勝間違いなしっしょ。何この天使達。持ち帰りたい」

「ミアの家だろうが」


 それにしても可愛い。可愛いしか言える事がなくなるくらいには可愛い。


「しおん……すき」

「むにゅ」


 茜が紫苑に抱きついて。ほっぺたにほっぺたを擦り合わせた。

 もちもち。ぷにぷにと音が鳴りそうなくらいもちもちぷにぷにしていた。


「すやぁ」


 柚も気持ちよさそうに眠っている。眠るのが相当好きなのだろう。ミアが頬をつんつんとつついても起きる気配がない。


「やー……いつまでも見てられる」

「ほんとにな」


 愛らしい。こう、庇護欲がそそられるというか。可愛さが天元突破しつつある、というか。


 とにかく可愛い。語彙力が消失してしまうくらい可愛い。


 そうして眺めていると――かなりの時間が経っていた。


「あ、もう起こさなきゃ。夜寝れなくなっちゃう」


 ミアがそう言って、柚を揺すり起こす。むにゃむにゃと眠そうにしながらも、柚が小さく目を開けた。


「えへー……おねーちゃんすきー」

「寝起きの妹が可愛くて死にそう」


 柚がいつも以上にとろんとした目でミアを見て。顔をミアのお腹に擦り付けた。ミアが凄いニマニマとしていた。絶対に外では見せない表情だ。


「んん……とーやにぃ?」

「あ、茜も起きたか」

「とーやにぃ……! えへ。とーやにぃだぁ」

「可愛いの具現化か?」


 手を広げてくる茜を抱きしめると、凄く楽しそうに。嬉しそうに笑う。


「紫苑もな」

「んぅ……? おにーちゃん。おにーちゃんだ!」


 紫苑は起きた時から元気いっぱいのようだ。二人まとめてぎゅーっとすると。本当に嬉しそうに笑う。



 あー、可愛い。可愛すぎて倒れそうだ。


「とーやにぃのにおいすきー」

「しおんもー」


 胸にすりすりと顔を擦り付けてくる二人の頭をわしゃわしゃと撫でる。


「持ち帰りたい」

「だめ」


 相変わらずだめらしい。


「おねーちゃんのとこいくー!」

「ん? ああ」


 紫苑と茜を解放すると、てちてちとミアの所に行って、ミアにぎゅーっとされていた。反対にミアが柚を解放し。柚はこちらに来る。


 倒れるように抱きついてきた柚を抱きとめ、愛でていると。ミアが二人に何やら話しているのが見えた。


 紫苑と茜の顔がぱあっと輝いて。駆け寄ってきた。


「おにーちゃん!」

「とーやにぃ!」

「ん? どうした?」


 柚を離そうとするも、ぎゅっと掴んだ手は離れなかった。きょとんとした顔で二人を見ている。可愛いので頭を撫でておいた。


「おにーちゃんすき!」

「とーやにぃすき!」

「いきなりどうした?」


 そして、胸に飛び込んできた。さすがに三人に抱きつかれるといっぱいいっぱいになる。


 二人に釣られて柚も抱きついてきた。頭にクエスチョンマークを浮かべながらも、「すきー」と言ってくれる。


「おねーちゃん! たすけてくれたって!」

「ん? ……ああ、話したのか」

「そ。助けてくれたってね」


 さすがに内容は話してないのだろうが。紫苑達からすれば、『助けてくれた』という事実があれば良いのだろう。


「ありがとー! おにーちゃん! だいすき!」

「ふふ。良いんだよ」


 すると。紫苑が見上げてきて、顔を合わせてきたり


「しおんもおにーちゃんになにかあったらたすける!」

「ぼ、ぼくも! とーやにぃたすける!」

「わたしもー!」

「それまたかなり心強いな」


 しかし――


「いっぱい助けられてるよ、もう」


 三人は気づいていないのだろう。きょとんとした顔をしている。



 その三人を見て笑い、またぎゅーっと、三人を抱きしめる。



 ミアは俺達を見て。柔らかい笑みを浮かべていたのだった。

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