第22話 星を主に捧げます

 先輩は生前、星を主(紅龍様)に捧げる(星の破壊)計画を進めていた。

 あたしは、それができるならやらなければいけない立場だ。

 安住の地だと思っていたのだが、住みついた地を魔女は壊さねばならないらしい。


 屋敷の地下にスターマインドを狂わせる装置がすでに組み上がっており、後はあたしが地脈を操って崩壊させれば、星が自壊する。

 あたしは、惑星議会議員としてせめて仲良くなった人は見逃してやろうと思ったのだが………妖精さん(奥方様)に聞いてみたら、学園長の不興を買うからやめておけと言われた。学園長の不興を買うと、死にかねない任務に就かされる、と。

 キム先輩は、不興なんか買ってなかったはずだけどね………あれは戦魔系だから?


 無慈悲に、来れる人全員に「重大な会議がある」「現地でないと言えない」と秘匿回線でメッセージを送る。

 ちなみに、この頃には学園卒業生だからという理由で、天使が空からあたしたちを見守っているけど………ごめんね、星は爆発するから巻き込んじゃうわね。


 要人たちが揃ってあたしを待っている時を見計らって、星の崩壊を開始する。

 あたしは、上級魔女になったら自動で付与される「界渡り」の能力で宇宙空間へエスケープ。星はスターマインドの暴走で自壊していき、いずれ暴走するだろう。

「主よ、これを貴方に捧げます………」

「うむ、いい心がけだ。星を捧げたのはお前が初めてだな。褒めてやろう」

「えっ!?主!?」

 あたしの目の前に現れた人は、フォーマルな黒地に金の刺繍のチャイナスーツを身に纏い、短い黒髪、真っ赤な目、炎の翼をもつ、超美形なチャイニーズだった。

「主と呼ぶな、神と混同されているようで不愉快だ!」

「じゃあ、なんてお呼びしたら?」

「紅龍様と呼ぶことを許す!」

「えーと、はい、ありがとうございます」

「これだけ大きな物を捧げたのだ、お前に能力を授けよう」

「能力、ですか?」

「おまえは強化人間だろう?体を自由に変化させられる能力をやろう。熟練すれば体をダイアモンドのようにしたり、腕を凶器に変貌させたりすることが可能になる」

「………うわあ」

「生得の能力ではないから鍛錬がいるが、修業とは良い物だぞ」

「はい、紅龍様」

「では貢物は受け取った!さらばだ!」


 びっくりした、まさか紅龍様を召喚してしまうなんて。

 ………とと、あたしもさっさと逃げないとね。


 あたしが逃走場所にえらんだのは4つの銀河系団をぐるっと包み込んでいる「辺境」と呼ばれる地域だった。

 「鬼」と呼ばれる貴族階級が各地の星を治めているが、その統治はもはや崩壊しており、荒んだ生活をしている村や町が点在している。

 街道を馬車で行くのすら簡単ではなく、モンスターが襲って来る。

 冒険者組合なんてものも、潰れてひさしい、すべてが荒れ果てた地だ。

 しばらくは、生きて行くのだけで精いっぱいになるだろう。

 だから、追手も来ないのだが。


♦♦♦


 辺境は、生半可な悪魔が行っても死ぬようなところだ。

 あたしも妖精さん(奥方様)の助言や警告がなかったら、とっくに死んでいる。

 後夜祭には行っていた(表彰された)が、そこで思わぬ申し出を受けることになる。

「フランチェスカが好きだ、フランの生き方も性格も好きだ―――すべてが好きなんだ。一緒に辺境に行かせて欲しい、必ず役に立つよ」

 紙も目も肌も、全てが黒い黒豹の獣人の先輩だった。男性の姿を取っている。

「ミア先輩………ですよね?副学園長の秘蔵っ子と言われ続けてきた」

「あの女は、詳しくは言いたくないけどクズだった。今の俺は派閥はない」

 そういえば、後夜祭に副学園長の姿がない。死んだのかしら?そう聞いてみると

「ああ、殺して主に捧げた。横領とか沢山証拠が出て来たよ」

 なるほど、学園長が何も言わないわけだ。

「でも、今の私はキム先輩のことを忘れられません」

「大丈夫、いつまででも待つ」

「………わかりました。お受けしますが嫌になったら言って下さい」


 そういうわけで、道行きは2人になった。

 だが、旅をしているのに慣れて来た頃、フラシュ様から指令があった。

 その辺りにある巨大遺跡から、残された神像の核を持ち出してこいと。

 これは、死にかけた。ミア先輩がいなければ死んでいた。


 ときどき入るフラシュ様の要望のせいで、レベルが上がるのは異常に早かった。

 多分今のあたしは学園でも最強の一角だろうと思う。ミア先輩も。

 「クリミナルエンプレス」は、全力で放てば都市丸ごと破壊できるまでになった。

 「イーヴィルフォグ」も同じく、範囲が都市クラスに。威力も上がった。

 あたしたちは、天人魔の中で初めて、辺境を探索する探索者になったのだ。

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