第21話 カーミラからの知らせと浮気

 ある時、屋敷のあたしの部屋の窓辺に、カラスの使い魔が来た。

「なんなの?」

「クアーッ、カーミラ、死亡。手出し無用」

「そっか、あんたは最期にカーミラが放ったのね」

 ローナみたいにして欲しくないという事は、あたしに助けられてなるものかという  カーミラの最後の意地なんだろうな。助けたら一生恨まれる。

「あなたに助けられるぐらいなら、自決しますわ!」

 というカーミラの台詞が聞こえてくるようだった。

 あたしは何もしない事に決めた。

 ただ、悪魔を使って情報収集はする。

 それによると「対悪魔機関」が悪魔と関係している罪で、カーミラの家を襲撃したらしい。連中、かなり過激な集団のようだ。

 カーミラは主(紅龍様)の元に永久貨幣で行ったはずだけど………詮索はなしね。


♦♦♦


 あるときあたしは、霧の中に迷い込んでしまった(珍しい事よ)

 やがて立派な館に辿り着く。

 そこでは、独特の個性あふれる人も平凡な人も、スクリーンに夢中になっていた。

 スクリーンにはFiマシンのデットヒートを感染させられているのだ。

 真紅のドレスでその部屋に入ったあたしは、使い魔と思しきものから説明を聞く。

「レースの予測を最下位で外した者は、死んでもらいます。ただ、あなたはペイモン様のお客さまですから、何も考えずにゆっくりしていって下さい」

 なるほど、引退ペイモン公は紅龍様派。あたしを巻き込んだのはアピールか。

 なら、ゆっくりさせてもらう事にしようか。


 あたしが行きついたのは、ビリヤードやダーツのある遊戯室だった。

 見て回っていると、入り口付近に気配がした。

「うふふ、あなたも退屈なレースに嫌気がさしたの?あんなのもう決まってるわ」

「そういう訳じゃないんだけど………あたしは魔女だから」

「魔女?ずいぶん綺麗な魔女なのね」

 あたしは、できるだけ学園の事を伏せて、今までの人生を語った。

「あたし事はねぇ、瞳ちゃんって呼んで。底辺の生まれなのよ。オトコとして奉公に出て、道を踏み外して女の物も得た。あたし全部あるのよ、あなたは引かない?」

「初恋の相手がそういう人だったわ」

「最高ね、あたしたち、相性いいんじゃない?」

「………そうかもね」


 ビリヤード台の上で。あたしは本格的な浮気をした。

 熱に侵された様に瞳ちゃんが今までの自分の体験を話す

 親に売られて、幼児売春をさせられ、大人になってからは両方の性を与えられた。

 随分過酷な人生を送ってきたのね、あたしとは違う意味で。

 あたしは瞳ちゃんに、いつもまにか本気で情を移していた。


 瞳ちゃんは、賭けに見事成功、次のステージに挑む挑戦権を得た。

 最後までこの試練をやり遂げたら、巨万の富を約束されて。

 ただし、脱落者の魂は悪魔の物になるという条件で。

 

 あたしには、別室で悪魔が面会したいという。

 嫌な予感がするけど、行かざるを得ないわね。

 その扉を開けたら、広大な空間の中、骨だけのと肉のある死体のうず高く積もった山の上に、玉座に座る男が見えた。

 ラフな黒髪、真っ赤な目で、最上級の美形。最上級悪魔だ。

「あたしに何か用かしら?」

「俺を目の前にしてそれか?」

「失礼しました、お名前と肩書は?あたしはしがない魔女ですわ」

「ディース。引退ペイモン寮の共同経営者だ」

 そんなもん、どうやって相手どれっていうのよ。

「なあーに、骸骨どもと派手な戦いを繰り広げて、俺の無聊を慰めてくれたらいい」

 骸骨どもがうごきだした。ええい、仕方ないわね。


 先頭は爆炎の花の咲く、至極派手なものになった。

 ここは解放空間なので「クリミナルエンプレス」の威力もマシマシだ。

「なかなか、やるねぇ。お遊び程度だが楽しめたよ」

 そこで、ようやくこのゲームの趣旨を話してくれる。

 栄光を得るのは一人だけ。それ以外はゲーム参加にサインした事により、魂は「ペイモンのやつが興味を示さなかったため」ディース様のアクセサリーに封入される。

 「最後の3戦までは、外にも出れるから、逢引きしたければどうぞ?」

 チェシャ猫の笑顔で、ディースさまが言う。

 先輩がいるのに逢引きなんて………しちゃうかも。


「さあ、説明はそんなもんかな~。お帰りはこちら」

 白い眩しい光の差し込んで来る扉。あたしはその扉をくぐった。

 と、家の目の前だったわ。正門を開けてご帰還よ。

 先輩が凄い勢いで走って来て、あたしを抱きしめた。

 だが、あたしの匂いを嗅いで、ちょっと固い顔になる。

 バレたかな?


 それからもあたしは、宇宙空間シャトルでやってくる瞳ちゃんと逢瀬を重ねた。

 デスゲームの合間合間だったため、頻繁には合えなかったけど………


 ところで「対悪魔機関」との戦闘に、キム先輩が駆り出された。

 聞くところによると、かなり部の悪い戦闘だという。

「帰って来て下さいね」

「ああ。必ず帰って来るさ。フランを他のやつにはやれない」

 そう言う先輩の顔が、えらく切羽詰まってるのを見て、あたしは不安を深めた。


♦♦♦


 キム先輩が死んだ。

 しかも最後は、堕天―――悪魔への転落だったという。

 堕ちた悪魔は「海魔」嫉妬を司る悪魔だ。

 何が原因かは言うまでもない。


 妖精さん(奥方様)に話したら、今は堕天のショックで海魔領で暴れているとの事。

 でも、そのままあなたの所に来る可能性もあるから、油断禁物との事。


 はたして、それはそうなった。家の庭いるときだった

 青黒い肌になり、大きな体躯が5倍にも膨れ上がっている、辛うじてキム先輩だと分かるモノが襲撃して来たのだ。

「フランチェスカー!」

 あたしはフランベルジュを構え「クリミナルエンプレス」を最大稼働する。


 剣戟戦になった。お互いが激しく火花を散らす。

 その上で「クリミナルエンプレス」を最大火力でお見舞いする。

 あたしは泣いていた、あのキム先輩がこんなのになるなんて。

 あたしにできることは、全力で受け止めるだけだ。

 あたしもかなりのダメージをくらったが「クリミナルエンプレス」の効果で、相手もボロボロだ。堕天すると言う事はその時の10倍の力を得るという事なので、きっと先輩は無意識下で手加減していたにちがいない。胸が痛む。


 さあ、最後だ。「クリミナルエンプレス」最大火力―――!

 先輩は、地面に焼き付けられたシミとなってしまった。


 だが、あたしの体にはなんだろう、負の高揚感が満ち溢れていた。

 雲霧林に落ちる「黒い雷」は、上級魔女の証。

 体の中には、忌々しいほど強い力が溢れかえって来る。

 あたしは、条件を満たし、上級魔女になったのだ。


 上級魔女の条件は2つ。

 規定値の能力を満たす事………そして大切な人を失う事。

 上がる能力は堕天した時と同じ、10倍。

 一般魔女とは隔絶した戦闘能力を有する事になる。


 でもあたしには今はどうでもよかった。

 先輩、先輩、どうしてたったあれだけの火遊びで?

 あたしはハッと思置いたって妖精さん(奥方様)に話しかける。

「またペインはいらんことしてましたか!?」

((してたねぇ))

 あたしは深いため息をついた。

 どうしても、子供の頃から一緒にいたあいつを憎めないのだ。

 あたしは先輩の墓穴を掘り、石碑を立てる「愛に生き愛に死す」と。


♦♦♦


 さて、この顛末を瞳ちゃんには話しておきたい。

 でも、魂を占うと、瞳ちゃんの魂はもうディース様のアクセサリーの中だった。

 これは、最上級悪魔、しかも役職付きの悪魔の召喚―――ディース様の召喚―――をするしかないでしょう。

 いままでに貸しのある魔女を呼びつけて、集団召喚にのぞむ。


 ディース様の魔法陣は超複雑な上に、影武者につながるわき道まであった。

 何とか本体を召喚して、複雑な問答を終える頃にはみんなぐったりしていた。

「あー、そろそろ本題に入っていい?」

 疲れ切ったあたしの問いに

「楽しませてもらったからな、聞いてやるよ」

「瞳ちゃんと話させて欲しいのよ」

「ヒトミチャン………ああ!このピアスに封じた魂か!」

「多分それよ!」

((フラン、フランなのか?))

「私よ。言いにくいんだけど、キム先輩は悪魔になってあたしを殺そうとしたわ」

((なんっだよそれ!あいつならフランを幸せにできると思って身を引いたのに!))

「ごめんね、瞳ちゃん。あたしが悪いのよ」

((そんなことない!ああ、あたしが生きていれば))

「ごめんね、面会するだけで精いっぱいなの」


「はいー。会話終了」

「ディース様!?」

「普通の人間の贄なんて、俺にとってはありふれてるからね」

「わかりました………」

 おそらく、瞳ちゃんとの最期の会話を終えて、悪魔召喚の痕跡を消す。


♦♦♦


 ………そういえば、キム先輩の魂はどうなってるんだろう。

 シュールを呼び出して聞いてみる。

「ああ、それなら」

 ショッキングだった。

 シュールの側にいるという事は、先輩はシュールを好きになっているのだろう。

 ただ「ごめんなさい」を繰り返す人形になり果てていたのだ。

 あたしはこみあげてくる嗚咽を押し殺して

「シュールったら、分かってないんだから………」

 そう言ってシュールの召喚を強引に打ち切った


 どうしたらいい?どうしたら先輩の魂を救える!?

 そう思っていた時、おとなりさんが人間形態で訪ねてきた

 シュールがあたしの様子がおかしいと、相談して来たそうだ。

「どうしたんですか、おとなりさん………いえ一流さん」

「シュールはあれが普通の事だと思っている。奴の手に納めておくべきじゃない」

「でも、どうしたら?」

「お前の手で、魂を砕いてやれ」

「あたしの手で………」

「悪魔の手では、それは禁忌だからな」

「わかりました………」


シュールは、多少渋ったが、あなたが砕くなら、と了承してくれた。

あたしは物質化した、青く澄んだ魂を見つめて深呼吸する。

それを片手で砕き散らし、床に落ちた欠片を踏みにじる。

粒子になるまで、泣きながら魂を光の粒子になるまで破壊したのだ。


これが、あたしを始めて愛してくれた人との別れだった。

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