第19話 卒業試験・3

 次の標的はケンだ。これは簡単だと思う。

 障害は2つ。

 毎夜やって来るダンと、あたしを『ウィザードアイ』で見張っている当人である。

 ダンは、早めに精気を吸い取り尽くしてぐっすりと休ませることにする。

 『ウィザードアイ』を『ディスペルマジック(魔法解除)』してからが勝負だ。


 決行の夜がやってきた。

 ダンを眠らせ、浮かんでいる『ウィザードアイ』―――そう、こいつは夜の営みまでのぞき見してやがるのだ―――にニヤリと笑いかけ「ディスペルマジック」する。

 そこからはスピード勝負だった。

 邸内から、飛び出して外に向かう扉へひた走るケンを「イーヴィルフォグ」が捕捉する。その位置情報を頼りに、あたしが強化人間の足で追いかける。

 軍配はあたしに上がった。

 音もなくケンの後ろに着地。口をふさぎ、首に手刀を入れて気絶させる。


 そのまま、ケンを抱えて、雲霧林のはずれにある使用人たちの作業小屋へ。

 ここには誰も来ない、放棄されて久しい小屋だ。

 かなりの距離があるので、どれだけ叫び声をあげても誰も来ないだろう。

 素敵な事だと思わない?


 ケンを床に転がして、あたしはナイフを1本取り出す。

 念のために手足の腱を切って、逃げられないようにしておくのだ。

 お、目が覚めたみたいね、よしよし。

 ケンはあたしを見るなり、甲高い悲鳴を上げて逃げようとした。

 でも腱を切られているから逃げられないのよねーうふふ。

 あたしはケンを蹴り転がして、ずばっ、と腹を割く。

 こぼれだした内臓を元に戻そうとしながら、悲鳴を上げるケン。


「ゆ、許してくれ、もうのぞき見はしないから!」

 こいつ、あたしがそんな事で怒っていると思っていたの?

「そんなことはどうでもいいのよ。でもそれも胸に秘めたまま地獄へお行き!」

 あたしは、ケンのはらわたに腕を突っ込んだ。色艶のいい内臓ね。

「ほら、自分の糞が詰まったソーセージよ。食べた事ないでしょう?お食べ?」

 内臓をケンの口の中に押し込むあたし。

 必死で吐き出そうとするケンを見ながら、あたしは内臓をかきだしていく。

 床の上に整然と並べた内臓を前に満足するあたし。


 だけど、ケンが死にそうだ。まだ、お楽しみはこれからなのに。

 あたしは『オリジナル魔法:無属性:延命』をケンにかけた。

 心臓と脳さえあれば生きてはいられる魔法よ。生きてるだけだけど。

 あたしは、愛情を込めて肉という肉、臓器という臓器を引きはがしてあげた。

 ケンがあげ続ける悲鳴は、天井の美酒ね―――

 最後に、心臓をえぐり取り、臓器の群れの中に置き、脳天にナイフを突き刺す。

 まあ、顔だけある骸骨みたいで素敵だわ。傑作ね!主に捧げます!


 ああ、でももうじき夜が明ける。怪物は退散する時間ね。


 その日は何事もなく始まった。

 ケンの姿がないと騒ぎになり始めたのは翌日の事だ。

 ケンはニートだったので、自室にいない事に気付いたのが翌日になったのである。

 使用人たちで捜索隊が組まれた。だけど見つからない。

 結局警察の手を借りる騒ぎとなり、3日後、は見つかった。

 見つけた使用人は卒倒したらしい、失礼な。


 顔が残っていたので、身元確認はすぐだった。

 犯人の特定には時間がかかるという事だった。

 本人の部屋から、殺された小屋までが非常に遠いからである。

 乗り物が見当たらない以上、移動魔法を使ったとしか考えられないが、その使い手が使用人の中にいない。唯一の例外は使用人ではないが、ダンだ。でも動機がない。

 あたしは問題外(という事にキム先輩とペインがしている)だそうだ。


 捜査は混迷を極め、外部からの侵入者でしかありえないという事に落ち着いた。

 しばらく屋敷の門(通用門も)は警察が見張り、邸内も巡回が来ることになった。

 だが、あたしが最後のターゲット、ダンを仕留める前には何の障害でもない。

 ダンには腹上死をとげてもらうからだ。


 決行日、ダンは当たり前のようにあたしの部屋に来た。

 だいぶ消耗しているようだ。

「ダン、消耗してるわ。今日は止めて置いたら」

「だまれ、お前を抱かないと体調が悪くなる。誰がこんな体にした」

「あたしだけど、弟さん2人が死んだっていうのにあたしを疑ってないの?」

 軽く挑発してみる。

「お前はずっと俺と一緒にいただろうが!お前だけはあり得ない!」

 あたしの淫技とシュールの力で、完全にあたしにぞっこんみたいね。

 バッと服を脱ぎ去ると、性急に求めてくる。

 それに応えながら、あたしの頭は冷めに冷めていた。


 行為をしながら、淫魔のように、精気を急速に吸い取る。

 ダンは最後の射精をしながら、目を剥いてあたしに倒れ込んできた。

 普通死んだのに気付くのに、これぐらいの時間はかかるかな、という時間が過ぎたので、あたしはお約束の悲鳴を上げることにした。

「イヤァァァぁぁ!ダン!ダンが!誰か来てぇー!!」

 ほどなく警察官が飛び込んできて、一目で状況を察したらしい、応援と使用人を呼んでくれた。あたしはダンの下から抜け出すと、その警官に抱き着いた。

 顔を真っ赤にして、しっかりしてください、という警官。可愛いわね。


 飛んできたキム先輩(警視)の取り調べを通りいっぺん受けて、あたしはその日は別室で休むことになった。


 大変だったのはそれからだ。

 ダンもいなくなった以上、この星の支配者が不在になり―――資格を持つ者があたししかいなくなったのである。早急に継承の儀をしなければならない。

 だが、やり方を知っている人がいない、というのだ。

「あの、あたし大丈夫です、子供の頃に父に聞いていましたし、ダンも少し聞かせてくれてましたから。自慢だったんでしょうけど」

 宣言すると、その場の全員から、早速継承の儀をしてくれるよう頼まれた。


 そう急ぐにはちゃんと理由がある。

 スターマインドの継承者が、星を安定させてくれないと大災害が起こるのだ。

 それもかなり早く。

 あたしの父親からの継承に時間がかかったため、津波が2件も起こったとか。

 継承者になり、この星の命運を握ったあたしが、一連の兄弟殺しの追及を受けることはもうないでしょうね。

 そう思いながら、キム先輩の付き添いのもと、スターマインドの祠につく。

 

 呪文を唱えながら、スターマインドにつながっている巨大な宝石に手を当てる。

 呪文に対応して宝石の色が目まぐるしく変わり、やがてゆっくりになる。

 あたしの中に力が流れ込んで来る。星を制御するための力だ。

 それをあたしが受けきると、宝石は光るのをやめ、落ち着いた。

 宝石に触れて、星を安定させるように、災害が起こらないように調節する。

 やりかたは、流れ込んできた力を読み取る事で自然と理解できた。


♦♦♦


 それから、しばらくが経った。

 あたしの卒業試験を失敗させる試験を受けた子は、先輩が始末してくれたらしい。

 学園からは文書で、学園に戻らず、そこで星をおさめるようにとのことだった。

 そして普段から主への捧げものを忘れないように、学園祭の後夜祭にはきちんと生贄を差し出すようにとも念押しがあった。

 学園へ直通の次元通路の使い方こみの封書だった。

 暗記したあと、即燃やした。置いとけないわよ、こんなもの。


 卒業式も何もなく、あたしは卒業したのだった。

 ちなみにキム先輩の時も、似たような感じで文書で卒業が告げられたらしい。


 使用人は、全員解雇した。事情を知らない輩は邪魔なのだ。

 その代わりに下級悪魔を半ダース呼び出して、メイドと執事とする。


 そして、完全に男性形体を取るようになったキム先輩は、あたしと結婚した。

 前後に起こった悲劇のため、慎ましい式だったが、先輩は気にしなかった。

 「フランと結婚できただけで幸せだ」

 って………本当にあたしには出来すぎた人である。

 むしろ、シュールとの契約に緊張していた。

 以前シュールとあたしが交わした「フランと添い遂げる相手は必ず私の許可を取る事。そしてフランを幸せに出来なければ私がその人の魂を貰います」というやつだ。

「その条件を飲んで必ず幸せにすると誓います」

 と告げた先輩の顔は、結婚式本番より緊張していた。

「よろしい、では契約は成りました。あなたたちは夫婦です」

 それが、あたしとキム先輩が結婚した瞬間だったといえよう。

「先輩、あたし、浮気性だと思うから、しっかりつかまえててね?浮気するわよ」

「嫉妬深い方かどうかはわからないけど、つかまえておきたいよ」

 この時は、そんな風に言っていたわね………先輩。


 先輩は家の力で、どんどん昇進していき―――10年後に警視総監になった。

 あたしはといえば、星の惑星議会への参加が主な仕事だ。政治家である。

 最も惑星議会議員「長」のあたしは、この惑星独自のルールで選挙は必要ない。

 終生議員なのだ。子供が生まれればともかく………っとそうそう。

 学園で産んだ子はうちで引き取り、教育した。

 そして焔火ほのかは魔界のフラッシュ様に捧げた。

 あやめは学園に入れたが、残念ながら死んでしまった。


 そして外に出て年を重ねた事で、学園にも敵がいることが分かった。

 一つは天界。天使は人間に手出しできないため基本的には無害だが、任務の妨害や召喚の妨害をしてくる、厄介な敵だ。

 直接的な敵は、魔法王国フィーウと科学王国ルベリアの「対悪魔機関」だ。

 高能力者が多数所属しており、学園の魔女が狩られる例も決して少なくないとか。

 今の所、あたしたちは関わりを持たないが、先輩は「戦魔系魔女」なので、前線に駆り出される可能性がある。そうなったら、帰還は危ういものになるだろう。

 ちなみにここは「対悪魔機関」に目をつけられてはいない。

 スターマインドの力で行われる、超遠距離テレポートで、別の星に行って獲物を探すからだ。それも慎重にやっている。


 そんな感じで、あたしの星の主としての魔女ライフは始まったのだった。

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