第18話 卒業試験・2
あたしは、惑星サトラスの宇宙船発着場に来ていた。
分家の者が―――3兄弟は来ない―――あたしを出迎えに来るはずだ。
あたしは、赤いロングドレスに、キャリーケースがふたつ。
ほとんど服だけど、見られちゃ困る物も偽装して入っている。
困る物とは主に悪魔召喚に使うものだ。日用製品に偽装している。
相手は家督欲しさにあたしを学園へ入れたようなやつらなのだ。
荷物をあさられる可能性も考慮しておくべきである。
迎えが来た。黒服の男が3人こちらに寄って来る。
あたしの身分証明書(これは学園が保管していた本物)を見た男たちは、うやうやしくあたしをリムジンに導いた。しつけが行き届いているわね。
リムジンに揺られる事3時間―――何でこんな、空港から遠い場所に家があるのよ―――分家の塀が見えてきた。正門までさらに30分。疲れたわ。
正門で黒服がチャイムを押すと、執事さんらしき人が出て来て、あたしを導いた。
荷物は黒服が部屋へ運んでおいてくれるそうだ。
執事さんについて行くと、宴会場らしき所に着く。
すると、小狡そうな男が声をかけてきた。入口そばで待機していたようだ。
「おおっロバート(執事さんの事らしい)、そちらがお嬢様で!いや、お美しい!お母様に生き写しですな!」
「これはハーゲン様、こちらがフランチェスカ様です」
あたしは妖艶な笑みを浮かべ、その男へ片手を差し出した。
「フランチェスカです。よろしくお願いします」
ハーゲンは恭しくあたしの手を取って、口付ける。握手のつもりだったんだけど?
「惑星議会議員のハーゲンです。以後お見知りおきを!」
あたしは仕方がないので、笑みを絶やさぬまま頷いておいた。
「ささ、フランチェスカ様。ここの長をご紹介しますぞ。惑星議会議員長にしてこの家の長、ダン様です!ご挨拶を!」
なんで執事のロバートさんじゃなくて、ハーゲンが仕切ってるのよ。
「おお、フランチェスカ!不自由をさせて悪かった!母親に生き写しだな!………間違いない、我が家の血統の娘だ!この宴会はお前の帰還祝いだ、参加していけ」
あたしは、妖艶な笑みを深め、ダンに寄り添うようにして
「ありがとう、おじさま。おじさまとは騒がしくない所でゆっくりお話ししたいわ」
と耳に囁いた。
ダンの腕が腰に回り、お尻を撫でるが、あたしは笑みを崩さない。
「いずれ、その機会もある。今は座りなさい」
ダンは、すでに色香に惑わされていると見ていいだろう。
そのあと、弟たちにあたしを紹介する時も、あたしに触らせないようにしていた。
次男リブと三男ケンである。
すらりとして色男なリブは好色そうにあたしを見ていた。
反対にケンはチビデブブサイクの3重苦。怒ったようにあたしを見て
「兄さんたち、こんな女を家に招き入れるなんてどういうつもりだ!?家督を奪い取っていくに違いないよ!」
「落ち着け、ケン。こんなか細い少女に、何ができるというのだ」
「そうだよ、可愛いものじゃないか」
「兄さんたちは僕の序列を下げようとしてるんだ………!」
「そんな事があるわけないだろう、落ち着け」
………という感じで、3兄弟の言い合いはしばし続いた。
ほかのひとたちは、いつもの事だと言いたげに、平然と宴会を続けている。
………ダンのカリスマだけで持っているって感じね。
あたしはダンに言われた通りに座り、隣に座ったハーゲンと世間話をしていた。
「ダンさんとリブさんは、大変女性にもてるとか。見て納得しましたわ」
「大きな声では言えませんが、リブ様は商売女にモテるのです。ダン様は良い家の奥様とかにおモテになられますな。ご本人は令嬢の方がいいと仰ってましたが」
「うふふ、ダンさんなら、あたしにもチャンスがありそうね。商売女の真似はできないからリブさんは無理だけど」
そう言ってウインク。ハーゲンは赤くなった。
「いやはや、16歳とは思えません。フランチェスカ様は魔性の女でいらっしゃる」
「悪い事かしら?」
「いや、ワタクシに関しては高嶺の花というだけの事で………」
その後、挨拶に訪れる客―――いいとこのボンボン、何とかの責任者、会社の経営者etc―――どうもハーゲンの惑星議会議員というのは、高い身分らしい。
惑星議会というのは「魔法王国フィーウ銀河連邦」に参加する惑星サトラスの代表。惑星サトラス代表がダン。ハーゲンはその下の議員という事らしい。
学校で習ってても、この辺はややこしいわ………。
でも官憲になっているキム先輩はもっとややこしかったでしょうね。尊敬。
私はダンの立場にならないといけないんだから、もっとしっかりしなきゃね。
さて、宴は続き、夜が来た。
「フランチェスカ、夜ももう遅い、お前は寝なさい」
猫なで声でのダンの提案である。
(俺もすぐに行くから、お前は先に行っているんだ)
こっそりと、何か勘違いした発言。都合がいいので頷いておく。
部屋に帰って、荷物をほどくと、勝手に開けられた痕跡があった。やっぱりね。
幸い偽装は見破られてなかったようなので、使う機会があるかどうかわからないものだし、そのままにしておく。
まあ見られても何に使うものかはわからなかったでしょうね。
あたしはベッドに寝転びダンを待つ。
すぐにノック音がして、あたしは「どうぞ」と返事をした。
その後の事を細かく語るのはよしておく。
あとがやり難くなるから、いきなりは殺さない、他の兄弟が先だ―――。
幸い、根拠がなくてもあたしをかばうだろう程度には、ダンはあたしの虜だ。
1回でこれとは、シュールの協力が大きいと思うが。
次の日から、あたしは「イーヴィルフォグ」の常時発動を始めた。
この広大な雲霧林の霧に紛れさせるのである。
屋敷の周囲だけ、ちょっと霧が濃くなるかもしれないが、さほど目立つまい。
あたしの五感は、霧を通じて広がっていく―――。
1週間後―――ダンは毎日あたしの部屋に来るようになっていた。
鬱陶しいけどしばらくの我慢だと思って、恋人としてダンを扱ってやった。
今日は、待っていた状況が訪れた。
なので、ダンの相手をしながらそっちに意識を向ける。
リブが外泊せずに帰って来たのだ、娼婦らしい娘を連れて。
リブはほとんどが外泊なので、一番ターゲットにし辛い相手だった。
だからこうやって、家でお楽しみの所を狙う必要があったのよね。
相手の娘と床に入り、2人して寝静まった所に「イーヴィルフォグ」をかける。
1時間もしたら幼児まで戻っているわ。あたしは後で回収に行けばいいだけ。
ダンが寝てから、窓から抜け出し、リブの部屋―――離れへ。
当然、周囲の視線には極限まで気を払っている。
「イーヴィルフォグ」が全方向のあたしの視界となって周囲を覆っているのだ。
するりと離れに入り込み、2体の幼児の脳天をかち割って殺す。
そのあとで「イーヴィルフォグ」を解いて、惨殺死体の出来上がりだ。
今日リブが帰ってきていることを知っているのは、執事のロバートだけ。
彼が疑われるのはちょっと心苦しいけど、仕方ない。
ちなみに事件になるのは当たり前だから、あらかじめ、この家で何か起こったら対応することになっているキム先輩が家に来ることになるわね。
誰にも見つからず、部屋に帰ったあたしは、ベッドでゆっくり眠るのだった。
次の日は騒がしかった。
執事のロバートがリブの離れに行って、惨殺死体を2体見つけたのだ。
まあ、さぞかし驚いた事でしょうね。
え?一緒にいた娼婦は、殺す必要はあったのかって?
あたし自身、後でそれに気付いた。必要は特になかったって。
多分、10年近く押し込めてきた「殺したい」って感情が暴走したんだと思う。
だって、昨日はすっごくよく眠れたし、胸が晴れ晴れとしている。
学園を出てから初めて、人間を殺す事ができたんだもの。
学園で、あれだけ我慢していたんだから、晴れ晴れするのは当然よね?
官憲―――警察が来て、責任者だという警視を紹介してくれた。
もちろんキム先輩だ。
先輩が言うには、不可解な事件だ、という。
「2人とも、まるきり抵抗していないのです。薬を盛られていたかもしれません」
((適当に捜査を混乱させておくから、フランは好きにやるといい))
((ありがとう))
「昨日の夜はダン叔父様と一緒に過ごされていたという事で間違いないですか」
((その男、私が殺したいぐらいなんだが………))
((ごめん先輩、最後の標的だからすぐには殺せない。落ち着いて))
「間違いないです。ずっと一緒でした」
「あちらからも同様の証言が取れています。お嬢さんを疑ってるわけではないので大丈夫ですよ。むしろ気を付けて下さい」
「はい、わかりました」
警察は遺体を運んでいき―――鑑識にかけるのだろう―――家は静かになった。
唯一の違いは、外出禁止になった事だろう。
ウザいのはケンが後をつけてくるようになった事。あたしを疑っているようだ。
正解だけどウザいので、ダンに気味が悪いと訴えて、追い払って貰った。
だが「イーヴィルフォグ」の霧から見えた情報で『ウィザードアイ』であたしを追っていることが判明。この後の事にはあまり影響しないけど、本当にウザい。
多分、シュールの術の効果で、あたしに執着しているのだ。
それ自体は悪い事ではないのだが………
追ってダンから入手した情報では、キム先輩が細工してくれたらしく、2人は薬を盛られたうえで殺された事が判明したそうだ。
盛ったのはうちの人間以外にいないので、執事のロバートに嫌疑がかかっている。
このままだと、彼に容疑が固まってしまいそうだが、動機がないのよね。
なので、2人が帰ってきたことに気付いてしまった(かもしれない)リブに惚れてる女使用人になるかも?先は分からない。
分かっているのは、次がダンだということぐらいだ。
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