第17話 卒業試験・1
((どうも、ペインがクラスの皆の感情を増幅させてたみたいね))
ある日、妖精さん(奥方様)との雑談で出て来た、妖精さんの爆弾発言だ。
((そうなの?ペイン))
((成功例はシャギーとかいうあの娘だけだったがね))
((どうだか、あんたの事だから他にもいるんじゃないの?))
((さて、どうだろうね?))
((クラスの全員が、あなたに対して大小あれ何か思っているはずよ))
((かないませんな、奥方様には))
((ママが死んだ遠因じゃない………でもあんたの事、嫌いじゃないのよね))
((君は摩訶不思議だな))
((本とはいえ、ずっと一緒に育ってきてるんだもの))
♦♦♦
その日、あたしは図書館で唸っていた。子供の名前が決まらないのだ。
そこにローナが―――5年生になって美青年ぶりが上がっている―――「どうかしたのか?」とやってきたので、巻き込むことにした。
シャギーの事と、子供の事を言ったらさすがに驚いていたようだったが、さすがと言おうか、すぐに気を取り直したようだった。
「へぇー。お腹が全然目立たないから、全く気付かなかったよ」
「一緒に考えてよ、面白半分でもいいから………」
「あはは、確かに面白そうだ。フランの子だから、物騒な名前がいいと思う」
「あんまり、露骨なのは嫌よ」
「じゃあ、響きだけでも普通の名前を考える?」
「なら、漢字を決めてから、そこに響きを当てましょう」
「なら、例えば「殺」という文字に何か当てはめてみよう」
「こ………ころす?はダメよね」
「殺める………ていう呼び方もあるよな」
「殺める、あやめる………あやめ………はどうかしら!?」
「いいなそれ!まず「菖蒲」と間違えるぞ!」
「それなら、1人目のなまえは
「次はフラン、候補を出して見ろよ」
「えー?じゃあ主(紅龍様)が炎の化身だから、「火」「焔」とか?」
「「焔」ほむら、ほのお………「火」ひ、か、かな?」
「う~ん、思いつかない………」
「焔火………ほのか、なんてどうだ!」
「おお、それだと普通ひらがなよね、採用するわ、ローナ!」
「ふふ、意外と私も役に立つだろう?」
「そうね、助かったわ。フラッシュ様に差し出す方を
「え?捧げちゃうのか?」
あたしはローナに、自分の身代わりとして子供を差し出す事を説明した。
「なるほど、制限空間なのに爆発が起こってたのはフランだったのか」
「そんなに制限空間では使ってないはずだけど?怪しまれるから」
「ふふん、私の情報網を舐めて貰っちゃ困るね」
「………舐めて貰ってた方がいい気がするけど。それだったら聞くけど不自然な夜霧の発生は?把握してるの?」
「してるけど………まさかあれもフランが?」
「そういうこと。同室のカーミラは気が付いてるかもしれないけどね」
「特待生になるはずだな、それだけでも特異だ」
「遅かったけどね」
「それは何か、学園側に理由があるんだろうな」
「まあ、そうでしょうね」
あたしはローナと、学園生活中最後になるお喋りを楽しんだ。
卒業試験の事を聞くのはタブーだけど、日常の話は結構楽しかった。
ローナが試験にパスする事を、主に祈っておく―――
♦♦♦
あたしは最後まで妊娠しているとは他の同級生に知られないまま、出産を迎えた。
双子は元気で、可愛かった。
赤髪ストレートの子を
フラッシュ様は、5歳までは焔火もあたしに育てるようにと言ってきた。
どうも、人間の子はそれぐらいの年齢にならないと、実験に使いにくいらしい。
生体データは取るように、機材を送るとも言ってきたが。
あたしは育てるなら強化人間にするつもりなので、データは自然と取れるだろう。
双子を、クラウトに「旧校舎の金メダル」と引き換えに世話してもらう。
ママの死と引き換えに手に入れたに等しいいメダルだ。
使うのは惜しかったけど、いまは試験に集中しないと。
♦♦♦
一つ目の試験。同級生との決闘の時が来た。
場所は、生ける森の中。
森の中だが、なんと空間を歪めて作られた、サッカーグラウンドぐらいの平坦なフィールドが用意されている。豪華仕様だ。
シスターが2人担当としてついているのだが、これも顔ぶれが豪華だ。
立ち会うシスターは、シスターエレニア(賢魔系TOP)とシスターノーラ(夢魔系TOP)と豪華だ。多分特待生の試験は危険管理の問題で、TOPがつくんだろう。
相手の生徒は、一般生だが、シスターノーラが出てきているという事は夢魔系だ。
夢魔系か………苦手だな、物理攻撃が効きにくい相手だ。
あたしは、確実性を取って「イーヴィルフォグ」で対応することにした。
あたしらしくない手法だが、「イーヴィルフォグ」の若返りの効果で、時間をかければ相手は胎児に戻る。そうなれば簡単につぶせる。
そう思っていたのだが、相手が姿を現さない。
う~ん、戦術をミスったかな?
たぶん、これ、夢魔の特殊空間「夢路」に潜んでこちらを狙っているのだ。
夢魔なら誰でもできることなので、召喚して頼んでいたのかも。
「夢路」とは、夢を見ている人間と「睡魔」という特殊な悪魔が作る空間の事で、現世に干渉できないかわり、現世からも干渉できない。
つまり「イーヴィルフォグ」が効いてない可能性が極めて高い。
そう思った瞬間だった。あたしは背後から対戦相手に心臓を貫かれ―――死んだ。
3つ目の能力「ホイール・オブ・フォーチューン」自動発動―――
あたしは「死の前」―――この場合は試験の直前に、時をさかのぼった。
「ホイール・オブ・フォーチューン」はあたしの意志では動かせない能力だ。
あたしが「死ぬ」一瞬前を感知して、死に近い時間に巻き戻す。
巻き戻すタイミングが、今回は試験直前だったようだ。
この能力は6歳の時に発動して以来、発動させないように慎重にふるまってきた。
もし下手に死の直前に巻き戻ると、無限ループする可能性があるからだ。
当てにしていなかった、というか、してはいけない怖い能力なのだ。
が、今回は助かった。
相手には、殺してくれたお礼はしてあげる。
あたしは、あたしらしく戦う事にした。
半透明で浮遊する爆弾(大体シャボン玉のようなものだとイメージして欲しい)をフィールドを埋め尽くす勢いで放ったのだ。
相手が「夢路」から出てきたら、確実に引っかかる。
最悪でも相打ちだ。さあ、どう出て来てくれるかしら!?
その時のあたしは、サディスティックな笑みを浮かべていたと思う。
死合いましょうよ、今度は全力で。
まあ、今回は味方してくれた反則能力がある以上、あなたが不利だけど。
状況は膠着状態におちいった。相手が反応できないのだ。
相手が反応できないでいる間に、空間にぎっちり爆弾を詰め込んだからね。
この爆弾はあたしには無効なので、誘爆したって一向にかまわない。
なので、無茶苦茶してみたのだが―――相手は反応できないみたい。
時間切れ、というシステムは無いので、考える時間は山ほどあるけど―――?
そして、決着は時間が味方する形でついた。
フィールド全体が爆発する危険があるので、空間隔離に忙しかったシスターたち。
だが、時間に余裕ができて観察し、気付いたのだ。相手の違反に。
なんでも、その子の実力では、悪魔が協力できない範疇まで、悪魔が協力していたらしい。悪魔がその子に入れ込んだのかしら?
「夢路」にその相手の子を入れるのはともかく、出したり引っ込めたり、現実の武器を持たせて具現化させたりは高等技術なのだそうだ。
詳細は例によって教えてもらえなかったが、相手は試験失敗とみなされるそうだ。
試験失敗。つまり、死。
あたしは、相手が反則でもバトルで決着をつけたかったが、学園には逆らえない。
決闘の卒業試験は、不完全燃焼で終わったのだった。
♦♦♦
決闘の卒業試験を終えたあたしは、いよいよ外に出て行くことになる。
キム先輩の協力と、学園で調べられる情報で、大体向こうの事は把握していた。
行く先は銀河連合の一つ「魔法王国フィーウ」の「惑星サトラス」
惑星の「核」である「スターマインド」には意思がある事も多いが、サトラスのスターマインドには意思はない。意志的なものを感じ取れるとすると、波長の合う、我が家の人間が操れるということぐらいだ。つまり今は分家の長男だ。
空間は意志のないスターマインドにはありがちな制限空間。
だけど、分家の敷地だけは解放空間になっている。
家の名前は本家の名前―――あたしの苗字を乗っ取って「ドロッテテクア家」
本当に広大な敷地で、雲霧林の中に無理やり車道と屋敷をねじ込んだ感じね。
訪ねてくる人なんて、政府関係の人しかいないわ。
そして分家の3兄弟。これを、あたしが罪を被らずに抹殺できればあたしの勝ち。
みんな、解放空間だから油断はできないけど、プランは立てている。
長男と次男は女性にだらしない。長男は色仕掛けで、次男は女に細工。
一番弱い3男は、追い詰めて地獄を見せてあげる。
ペインには、官憲の疑いがあたしに絶対向かないように頼んだ。
2男には「イーヴィルフォグ」を使うつもりだ。
全員篭絡しなきゃいけないのが手間だけど、これはシュールの担当。
あたしは思わせぶりに動いて、相手が迫ってきたら勝ちのようなもの。
妨害の卒業試験を受けている同級生は、キム先輩が抑えてくれる予定。
キム先輩は、この1年を使って、惑星サトラスの高官になっている。
事が終わった後は、2人でサトラスを治めるつもり。
そう、あたしはキム先輩を受け入れることに決めたのだ。
卒業したら結婚する―――その予定で話を進めている。
キム先輩は、警察機構の高官になっているので、あたしの為に色々してくれる。
それにほだされて、家を継いだあたしが婿に迎えるという筋書きだ。
卒業試験なので油断はできないけど、楽しめそうだった。
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