第15話 キム先輩の告白

 半年が過ぎた。現在は4年生。あたしは14歳のままだ。


 今年も本の争奪戦が起こった。

 で、あたしは争奪されてない本なのにもかかわらず、ペインを手に入れるのにえらい苦労をした。全くもう。


 ある日、あたしは先輩から呼び出された。先輩一般生がメッセンジャーだ。

 内容は「放課後、庭園の西の東屋にひとりで来られたし。話がある」とのこと。

 誰かと思えば、以前ジュースを持って行った先輩、キム先輩だ。

 あの男性的な先輩かあ、何だろう。

 ひとりで行くのは危険かもしれないけど………どうしよう。


 悩んだけど、最初から「クリミナルエンプレス」全開発動で、爆弾を大量に周囲に浮かせていくことにする。もちろん爆弾は不可視の状態にしておく。

 浮かせておくのは、生半可な待ち伏せなんて粉砕できる個数だ。


 ちなみに庭園というのは、恋人たちの中庭をぐるっと囲んでいる庭園だ。

 恋人たちの中庭は今でも見ると、少し胸が痛む。引きずってるのかしら。

 でも今回は、先輩の用事なんだし関係ないわよね。


 完全武装で、東屋に行ったあたしを、先輩は椅子から立ち上がって迎えてくれた。

「よく来てくれた、本来なら私が訪ねるべきだったんだが、目立つのは嫌だろう?」

「あたしはいいんですけど、個人的な話なら同室者が嫌がるかもです」

「そうか、それなら間違いではなかったかな」

「何の御用ですか?」

「まあ、向かいに座ってくれ。4年生はまだ知らないと思う話だ」

 あたしは、何故そんな話をされるのか不思議だったが、向かいに腰かけた。

「わたしたちは、5年生になった時点で外に行く訓練を始める」

「まあ、確かにいつか外には出なきゃですけど………」

「その理由は卒業試験だ。課題は様々。例えばわたしは自分を学園に入れた両親を殺してくること。この課題を貰うやつは多い」

「ああ………あたしなら親戚への復讐とかですね」

「フランチェスカの事は調べた。多分それになるんじゃないかと思う」

「わざわざ調べたんですか?………あ、フランでいいですよ」

「ではフラン、私の卒業試験はもう終わりかけている。確実に成功するだろう」

「はい。………それで?」

「卒業生が、在校生の卒業試験に手を貸す事は認められているんだ。わたしはフランに手を貸したいと思っている。卒業試験の邪魔が卒業試験の者もいるから、そう言った手合いが出てきたら、排除してあげる事もできる」

「………?なんでそこまでして下さるんです?」

「フランチェスカ、いやフラン。私は君が好きだ。愛してる」

「………はい?」

 まさかそんな理由だと思わなかったあたしは、ちょっと間フリーズする。

 あたしが再起動するのを待っててくれる優しい先輩。

「女同士なのが問題なら、私は魔術で性転換してもいい」

「ええと、こだわりはないですけど、外だとその方が………いいのかな?」

 まだ混乱している。

「外ではその方がいいだろう、学園生同士だと好奇の目で見られるしね」

 あたしは、この先輩を好きになれるのか?まだ分からない。

「協力は有難く受け入れますけど、好き嫌いのお返事は後でもいいですか?」

「ああ、それで構わない。次に会う時には卒業試験の時になるだろう」

「分かりました。その時に。先輩も元気で」

「私はどうとでもなるさ。それじゃあ、元気で………」

 あたしたちは再会の約束だけをして別れた。


 寮へ帰る道すがら、あたしはシュールに話しかける。

((いつか親戚には復讐するつもりだったからエイーラに男の落とし方を仕込んで貰ってたわけだけど、それが卒業試験になるんなら万が一の失敗もできないわ。シュールを呼び出すのは召喚陣を知らないから無理だけど、何とか協力してもらえない?))

((そうですねえ、う~ん。フランと添い遂げる相手は必ず私の許可を取る事。そしてフランを幸せに出来なければ私がその人の魂を貰います))

((相手がそれを了承するなら、あたしは文句ないけど………))

((決まりですね、これでいいと誓いますか))

((誓うわ))

 ごめんね、先輩。ハードル高くしちゃった。


♦♦♦


 ある日の体の調整中。ママが何故か難しい顔をして唸っている。

((何か変調でもあった、ママ?))

「あなたの「クリミナルエンプレス」「イーヴィルフォグ」はどこから来た能力なのです?調べてみてもまるでわかりません。何故、制限空間で使えるのです?」

((生みの母親も、もっと弱い能力でだけど、同じような事ができたから遺伝かな?))

「遺伝………そうですか、フラッシュ様に報告してみましょう」

((フラッシュ………様?それって誰?))

「主の配下の中でも、研究班のトップの方です」

((何を研究している研究班なの?))

「価値がある事なら何でもです」

 ………賢魔らしい賢魔ってことね。好奇心のおもむくまま。

 今回はあたしの体質が、興味を引いたという事らしい。


♦♦♦


 次の特別授業の時。

「フラッシュ様は、遺伝するならと、あなたの子供を差し出す事で納得してくださいました。あなた自身をという話もありましたが、無くなりました」

「うわ。ママ、説得してくれたの?」

「私の言葉など聞いては貰えません。シスターエレニアのおかげです」

 知識欲で頭がイってるのが賢魔だもんね。方向性違うけどペインもそうだし。

 でもシスターエレニア(賢魔系シスターの長)の意見は通るんだ………すごいな。

「子供なんていつできるかわからないけど………」

「早急に作れとの仰せです………現実的には5年生でチャンスがあるでしょう」

 うわあ。ガチだ。てゆーか、誰と子供を作ったらいいのよ!?

「割り切って作ってしまった方が無難でしょうね」

「………仕方ないのね。わかった、考えとく」

 14歳の乙女に無茶いうよなあ………。


♦♦♦


 さて、次の休み。あたしは気分転換に、生徒課に来ていた。

 というか、キム先輩の口ぶりだと、5年生はそれどころじゃなさそうなので今のうちに少しでも力をつけることにしたのだ。

 クラウトの宝物庫で吸収した量には、とても及ばないのは分かってるけどね。


 あ、今回は選ぶついでに私もクエストを出して見ようと思っている。

 人間の生き血500mlだ。報酬はは私の30㎝のナイフと筋力のジュエル。

 どんな子が持って来るか、はたまた受ける人はいないか、楽しみだ。


 さて、何か面白そうな依頼はないかな………これはどうだろう。あいまいだけど。

 「熱さましに、何か涼しくなるものを持って来て」依頼者はシスターミザリー。

 報酬は青いジュエル2つ。

 生徒課の受付に「これどういう趣旨なの?」と聞いてみるが「さあ?」と返ってくるばかり。よし、じゃあ、しっかり涼しくなるものを作ってやろう


 目的のものを作るには、まずは図書館に調べものに行った方が良さそうね。

 

 早速図書館にやってきた。調べたいのは「冷やす元」になるものと、「送風機」、「外枠」だ。あちこちの書棚で、役にたちそうなものを引っ張ってきた。

 まずは「冷やす元」これはずーっと冷たくないといけない。

 生ける森の深層に「解けない氷」があるという記述を見つけた。

 「冷やす元」はこれが良さそうね。


 「送風機」だけど、からくり風車草ふうしゃそう、というものを見つけた。

 枯れても風車の部分が回り続けるのが特徴らしく、これのたくさん生えていた場所には、枯れた風車草がいつまでも回り続けているとか。

 ただ、手で止めようと思ったら簡単に止まるそうだ。離すと動き出すけど。

 それなら、オンオフのスイッチも簡単に付けられるかもしれない。


 これを収めて、送風機の体裁を整えるのが「外枠」だ。

 色々調べてみたけど、これはもう、材料の木だけ生ける森で取って来て、工作室を借りて作った方が良さそうだとなった。まあそんな都合のいいものないよね。


 全部生ける森で採れるので、早速出発しよう。

 全部それぞれ難関がある。「解けない氷」は場所ね。深層でも深い所だもの。

 浅層は元より、中層はあっけないほど早く突破できた。

 あたしの能力が、飛躍的に上がっているのだ。

 ママ曰く、素養がないとジュエルでは上がらないそうだから、これはあたしが急激に成長したようなものだと思っていいだろう。ラッキーなのは否めないけど。


 そして、深層でも、ペインの力を借りるのは最小限で済んだ。

 うん、自分でも自分の力を実感してきた感じ。

 そして「クリミナルエンプレス」の力も大幅に上がっていた。

 キム先輩に会いに行ってた時、周囲に浮かべてたのを爆発させてたら大惨事になる所だったわ。やっぱりこれはあたしに根ざした能力なのね。

 「イーヴィルフォグ」と「」も多分同じだ。


 そんなこんなで、無事「解けない氷」を見つけ出す事ができた。

 ナイフ(食堂のナイフを研いだ)で、四角く削り出す。うん、できた。

 溶けないから扱いが楽ね。ナップサックにぽいっと。


 さて、風車草はもっと厄介だった。

 どこに生えているかの記述が本になかったので、見当をつけて探すしかない。

 さすがにペインに頼んで、大まかな場所と方向を探知してもらった。

 解放空間とはいえ、あたしではまだそういう繊細な術は間違えやすいからね。


 たどり着いた風車草の群生地は、不思議な眺めだった。

 色とりどりの花が群生して、くるくると回っているのだから。

 目が回りそうだな、とおもいつつ、扱いやすそうな大きなやつを採取。

 壊れたら困るので、複数採取しておいた。

 

 あとは、浅層に戻り、木を切り出すだけだ。失敗するかもしれないので多めに。

 その頃には夜になっていたので、続きは明日。


 次の日の放課後、工作室にこもったあたしは無事「冷風機」の作製に成功した。

 不格好だけど、性能は確かだと自負している。

 

 シスターミザリーに届けると、驚かれた。

 受けた生徒は氷だけ持って来るだろうと思っていたのだそうだ。

 大いに褒めてくれたシスターミザリーから、青いジュエルを2つ貰う。

 それらは、またあたしの血肉となってくれたようだった。


 来期はいよいよ5年生ね………

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