第14話 クラウトの巣穴
半年が過ぎた。現在は4年生。あたしは14歳だ。
今日のシュールの飴の味はヨーグルトとラー油、スパイシーね。
ユフィカに食べるか聞いてみたら、全力で首を横に振られた。可愛い反応ね。
今年もまた学園祭と後夜祭がやってきた。だいぶ慣れてきたわ。
後夜祭のボディーガードは、書物として持たれた事で有名になり、嫌そうだったおとなりさんに頼むと、奥に引っ込んだままでいいならとOKしてもらえた。
学園祭の出し物は、今までの経験を生かしてコーヒーと、手作りクッキーを出す事になった。コーヒーはドリップコーヒーだ。少なくともインスタントではない。
今回の学園祭と後夜祭は、特に特記する事もなく終わった。
♦♦♦
その日はバルバの所にやって来ていた。
バルバの美味しい人肉手料理を食べてかなりご機嫌な気分。
ハンバーグをもぐもぐと噛んでいると、バルバが聞いてきた。
「フラン、お前さん、何歳になったね」
食べかけの物を、ごくん、と飲み込んでから話す。行儀が悪いからね。
「13歳よ。あと半年で数えで14歳」
「もう少しで14なのなら、そろそろあれを教えてもいいかもしれないな」
「アレってな―に?」
あたしはとっておきの可愛い声を出す。ママには通用する気がしないけど。
「うむ、ダンジョンの一つとして設定されているクラウトの巣穴だ」
「どこにあるの?農地には時々行くけど見た事ないわ」
「ウム、隔離されてる農地があってな………紙とペンを………と」
バルバは紙に地図を書いてくれた。
これは見つからないわけだわ、農地のかなり奥にあるし、生ける森に隣接してる。
「探検するだけ?」
「いや、最初はワシからクエストをあげよう。その後は生徒課へ行きなさい。見えるようになるクエストが増えるはずだ」
「クエストくれるの!?ありがとう!出会ったクラウトとはどう接したらいい?」
「出会ったクラウトは、巣から異物を排除しようとして襲って来るぞ。巣から蹴り出されるだけだが、ダメージも負うから、何度も見つからない事だな。クラウトはあまり目が良くないから、幻覚でもかけておくといい。解放空間だからな」
解放空間なのか。
それでも生徒を蹴り出せるって事は、クラウトってかなり強いのね。
「クエストの前に、これをやろう。巣の上下に張り付いたり、縦穴の上り下りをする事の出来る手袋と靴だ。サイズは合うか?私の見立てだからどうかな?」
バルバは黄色い手袋と靴を差し出してきた。取り合えず靴を履いてみる。
ぴったりフィットする素材で、サイズはピッタリ。手袋も同じく。
「バルバは、あたしの事よく見てくれてるのね」
バルバは、照れたように前足でしわだらけの頭をかいた
「あー、それでクエストだけど。「火の魔石」を10個取ってきてくれないか?ここで料理するには、いつも熱源として使ってるんだ」
「あ、それでいつも、魔力の味がして美味しいのね。で、それはどこにあるの?」
「クラウトの巣穴の浅層、赤い宝箱の中だ。10個だよ?」
そう言ってバルバは「耐火袋」だ、と黒い袋を渡してくれた。
「まあ、クエストはお休みの明日にして、今日は料理を味わっていきなさい」
「やったー!バルバ大好き!」
♦♦♦
翌日、あたしはクラウトの巣穴にチャレンジする事にする。
複雑な農地を縫って、生ける森に近い巣穴に近付く。
近くの茂みで、体操服と、特殊な手袋と靴に着替える。
中に入る。思ったより暗いけど、あたしは暗視できるから問題ない。
そろそろと中を進む。これは道を覚えるのが大変そう。
頻繁に変わってる痕跡があるから、マッピングは無駄そうね………
ああ、クラウトに会う前に幻覚魔法をかけておかないと。
「透明」の幻覚でいいかしら。
と思って「透明化」したら、巣の中を突進してくるクラウトに跳ね飛ばされた。
いったたたぁ~。凄い力だわ。
「透明化」は切れずにすんだ。
だから、そのクラウトは周辺を?という感じで見回している。
再度進み始めたら、今度のクラウトには「透明化」がバレた。
「シンニュウシャ、ハイジョシマス」
ごろごろごろごろ、ぽーい。
巣穴から蹴り出されたあたし。かなり間抜けだ、誰も見てなくて良かった。
今度はどうしようか?「透明化」はバレたら終わりだから、クラウトへの「擬態」にしよう。それと「イーヴィルフォグ」の霧を組み合わせる。
これはかなりうまくいった。
なので、あたしはクラウトの巣穴を比較的自由に探検できるようになった。
赤い宝箱、赤い宝箱………
ウロウロしているうちに、宝物庫らしきところに辿り着いた。
宝物と言っても、用途の分からないものばかり。余計な欲はかかないが吉ね。
赤い宝箱………あった!赤いって言うか灼熱してるけど、多分あれよね。
耐火袋を使って開けると、それっぽい灼熱した石があった。
10個で良かったよね、耐火袋で包み取る。
取った時点で入ってきたクラウトを、霧でケムにまいて、あたしはクラウトの巣穴から退散したのだった。
バルバは、凄く喜んでくれて、あたしのご飯が作れると言ってくれた。
あたしのためだったんだ………なんか嬉しい。
報酬は黒いジュエル(魔力)だった。気力が充実する。
その日もバルバの心づくしの料理を味わえた。
♦♦♦
次の日。授業の後は特別授業………じゃなくてあたしの体の調整だった。
シスターメイベリン(ママ)と出会ってからというもの、1ヶ月に一度は調整してもらえている。それも、ものすごーく精密な調整を。
今あたしは培養ポッドに入って、肺の中まで調整液で満たされている。
点滅する数値を、ママが魔法のような手際で、正常値中の正常値―――しかもあたしが強くなるように、微妙に数値調節を入れてくれている。
「大丈夫だと思いますが、具合はどうですか?フランチェスカ」
あたしは((大丈夫))だと唇の動きで伝える。ママは唇が読めるのだ。
「大分、諸々の数値が上がって来ましたね。ジュエルでの上乗せ分も馴染みました」
((気になってたんだけど、ジュエルの効果ってどれぐらいなの?))
「青いジュエルが全能力の20分の1、その他が書く能力10分の1というところです」
((すごい、思ってたより上がるんだ))
「あなたはその分、調整が必要になりますがね」
ママはまた調整器具の調整に戻った。
「ところでフランチェスカ。クラウトの巣に行けるようになりましたか?」
((うん、こないだとうとうバルバが教えてくれたわ))
「バルバが贔屓にする生徒は、学園の歴史上あなただけですよ」
((え?そうなの?なんか嬉しいな))
「まあそれはおいといて、私からクエストです」
((え?珍しいね、何?))
「魔術の媒介となる「黒水晶」を6つ、巣穴の中層から採取して来て下さい。ただし、中層の「緋アリ」は動く者には何にでも攻撃してきますから気を付けなさい」
((はぁーい))
培養カプセルの液体がスーッと抜かれ、あたしは臓器から培養液を吐き出した。
♦♦♦
再度チャレンジ、クラウトの巣穴!前と同じく準備を整える。
霧を出して、手袋と靴、体操着を身に着けて、チャレンジ!
今回も、むやみに進むわけにはいかない。下に下りるルートを見つけなくちゃ。
何回も行き止まりに行き当たり、そのたびに脳内マップを修正する。
やっと中層―――土がちょっと赤くなるのが目印―――に辿り着いても目的のものがあるとは限らない。爆破したい衝動に駆られるけど我慢。
ようやく広めの場所に辿り着いて探索開始。
ところが緋アリに見つかってしまった。
霧の中であたしが動くのを、動物と認識したらしく、突進してきたのだ。
こっちも上層に向けて猛スピードで逃げる、緋アリの顎はヤバそうだ。
今度からは緋アリを見つけたら、じっとして動かないでいよう。
幸い鼻が効くわけではなさそうだし。
再度中層にチャレンジしたら、通路の端に黒水晶を見つけた!
あたしの力なら問題なく折り取れたので、3つ採取。残り3つ。
別の区画の中層を探す必要はあったものの、問題なく見つける。
それで、黒水晶を探していた訳なんだけど―――とんでもないものを見つけた。
中層を通り越して深層とおぼしき―――土が黒い―――に迷い込んだ時の事だ。
道行く先が先細りになっていて、道にみちっと宝玉が詰まっている場所を見つけたのだが、その先以外に行く場所がない。
仕方ないので吸着手袋でスポンと抜こうと試みる
結果は成功―――先への通路が開けた。
けど、そこはジュエルの保管庫だったのだ。
え………?これ、吸収して本当にいいのかな?ボーナスだよね?
あたしは、片っ端から青いジュエルを吸収した。
それでも、あたしの伸びしろの問題だろう、ジュエルは吸収されていく。
青いジュエルは50個は吸収したに違いない。
それでもジュエルは手元に残らなかった。
他にあったのは赤いジュエルだ。これも50個ぐらい。
どんどん吸収して―――最後に1つの赤いジュエルが手元に残った。
何かに使えるかもしれないと、ナップサックに放り込む。
というか、仮初なのは分かっているから油断はしないが、万能感が半端ない。
クラウト以上の速度で、巣穴の中を驀進する。
途中で登場した凶悪な外見の黒アリ(普通クラウトは茶色)をぶっちぎって爆走してしまった。普通に対峙してても勝てた気がする。
あとは、手間がかかったのは黒水晶探しだけだった、けど地道に地図を埋める。
ここしかないという場所を見つけて下りると、ビンゴ、黒水晶があった。
採取して帰る。あたしはちょっとフワフワするな、と思いながら帰還した。
次の日、特別授業の時に黒水晶をママに渡す。
「ご苦労でした。魔力のジュエルです」
貰って、吸収すると、ママが額に手を当ててきた。
「フランチェスカ。あなた、熱がありますよ。調整はしたはずなのに………」
あたしは昨日のジュエル沢山事件の事を話した。
「手に入れたのには問題はありませんが………それでバランスが崩れたのですね」
あたしはもう一回培養ポット送りになったのだった。
ちなみに培養ポッドから出たあたしは絶好調になっていた。
ママに抱き着くと押し倒してしまった。筋力がアップし過ぎたらしい。
もちろん怒られたので、はやく体を把握しないとね。
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