第12話 おとなりさんとの後夜祭

 半年が過ぎた。学園祭の季節。あたしは12歳のままだ。


 自習時間、いつものようにカーミラが音頭を取り、議題を掲げる。

 この時期お題はこれしかない。学園祭の出し物だ。


 自分たちは飲食店をやった経験があるのだから、それ系がいいと言うグループ。

 何か夏らしい事がしたいというグループ。意見無しというグループ。

 うん、3つに分かれたわね。

 夏らしいというなら家庭科室にかき氷メーカーがあったと伝えると飲食店グループと夏グループでどっちがいいか喧嘩になる。アタマ痛い。

 それをあたしが仲裁した結果、かき氷とアイスドリンクをだすカフェに決まった。

 氷とジュースは業者任せにできるしね。


 5年生は何やら忙しいらしく、フランクフルトの屋台が一つ。

 そういうのはシスターたちがやるよ?

 4年生は射的。これは楽しそう。行こうかな。

 3年生はあたしたち「氷カフェ」

 2年生はヨーヨー釣り。これも面白そうね

 1年生は、折り紙の展示。これお決まりなのかしら?


 そしてあたしはというと、後夜祭で守ってくれる悪魔を探さないといけないのだ。

 シュールを引っ張り出したらパニックになるし、エイールは学園関係者じゃない。

 ペインはこないだもかなりあてにならない感じだったし………無事には済んだけど、気を抜くとどうなるかわからないのよね、こいつ。

 思い切っておとなりさんに頼んでみるしかないか。


 そして、許可は割とあっさり出た。


 図書館での会話。

「と、いうわけで、頼める人(悪魔)がいないんですっ、お願いします!」

「………ああ、その面子じゃあそうなるか。ちょっと掛け合って来るから待ってろ」


 ……… ……… ………


「出席の許可が下りた。後夜祭の間は守ってやるから安心しろ」

「………誓いまで求めるのは不躾ですか?」

「私は構わん、守ると誓ってやろう」

「………おとなりさんって男前!」

「男ではないがな」

「唯一の心配事がクリアされたわ!」


 心配事をクリアしたからには、後は楽しむしかないわね!


 当日のあたしの担当は午後だった。

 特待生だから片付けとかは一般生に任せて、後夜祭の準備をするんだけどね。

 「氷カフェ」は、この学園は暑いので盛況だった。

 冬でも雪とか降らないし、氷の精霊とかほとんどいないもの。

 これは紅龍様が炎の化身―――フェニックスだからである。

 え?名前と実態が違う?

 確か生まれた時はフェニックスだってわかってなかったから、らしいけど。

 でも、あたしはシュールに教えて貰ったからたまたま知ってたけど、普通そんな事を考えるのは「不敬」らしいので、口に出さない方がいいんだけどね。


 ちなみにこの「氷カフェ」あたしが採取して来てた「温かい氷」が結構余ってたから提供して、「限定!ホットかき氷」なるものも出している。

 暑いから売れないと思いきや、物珍しさで結構好評だったのは意外。

 当然普通のかき氷の方が人気があったけど。

 あと、カップル(女×女)が入って来て「あーん」させ合ってるのをみんな羨ましがってたわ。完全に女ばっかりの学園に染められてるわね。

 って、エイール(両性具有)とピンクな訓練してるあたしが言うのもなんだけどね。


 そろそろ後夜祭。一般生徒と留守番シスター以外は、黒ローブ姿に着替える。

 ちなみに、シスターも留守番がいるって事は今日初めて知った。

 不機嫌そうな顔をしていたので、どうやって決めるのかとかは聞けなかったけど。

 とにかく、長く続く列に並ぶ。

 目的地の魔法門ゲートに着くまでの光景は前回と変わらない。


 前回と違うのは魔法門をくぐってからで―――って、むっっし暑ぅ!

「火山のふもとの、樹海、だから、ね」

 唐突に背後に気配が現れ、エマリア先輩の声がした。

「先輩!?ビックリしたぁ!」

「ごめん、ね。ラナと、待ち合わせ中、なの」

「いえ、でも先輩、あたしそんなに顔に出てました?」

「うん、少し。あ、ラナ、来た………」

「来たよー。あれ、今回もフランちゃん一緒になったんだ、こんばんは」

「はい、こんばんは」

「暑いね~。サバトにはやぶや木陰がつきものとはいえ、これはむし暑いわ」

「何で、やぶや木陰が………ってああ、わかりました。カップリング多そう………」

「それで気付くとはなかなかやるね、賢魔系じゃなかったの?」

「賢魔系でーす。召喚悪魔もちゃんと賢魔ですよ!」

「どうかなー?発育もかなりいいしー?」

「そうなんですよね、あたし強化人間だけど、この姿がバランスいいみたいで」

「ふたりとも、列、整ったから並ぶよ」

 それであたしとラナ先輩のキワドイ会話は打ち切られた。


 樹海に、石組みで造られた舞台の上で、生贄が捧げられる。

 200人ぐらいはいたんじゃないかな?凄い量の血。

 あたしの中の殺人鬼は早く殺したくてたまらないだろうと囁く。

 その通りよ、否定はしない。でも卒業するまでそれは我慢、我慢なのよ。

 この殺人鬼は、年を経るごとに抑えられない衝動によってあたしを悩ませる。

 おとなりさんにでも、相談してみようかしら?


 ちょうど、生贄を奉げ終わって、フリータイムが来た。

 エマリア先輩は、ラナ先輩に名残惜しそうにしつつ、学園長に連れられて行った。

 学園長には気に入った人を取り巻きにして、連れ回す微妙な癖があるみたい。

 あたし?むしろじろっと睨まれましたけど何か?

 自分が偉い人に好かれるような性格だとは思ってないわよ、あたし。

 カーミラは同格と見てくれてるから、友達続いてるけど。

「ここだけの話、学園長はかなり狭量で視野の狭い人だから気をつけな」

 ラナ先輩に忠告までもらってしまった。学園長って………


 ラナ先輩と別れて、魔女と悪魔が混在するエリアで、お隣さんを探す。

 見つからない。しまった、連絡手段を確保しておくんだった。

 焦ったその時、ふわっと体が宙に浮いた。

 気が付くとあたしは、おとなりさんの腕の中にいた。

「すまん、予想外の人出に手間取った」

「え、探してくれてたの?自己責任だとばかり………」

「守ると言った。嘘はない」

「おとなりさん………」

 カッコよすぎるでしょ、反則よ、それ。


 おとなりさんはあたしを、森の深部に連れて行ってくれた。

「変わり者のたまり場だ」

 そう言ったおとなりさんの近くには、悪魔の腕を齧る骸骨がいる。悪魔なのよね?

「ふぇっふぇっふぇっ、一流が人間の娘と一緒とは、槍がふるんじゃないか?」

「グーベール。これは食用じゃない。保護している」

 そのやり取りに、ざわざわする周囲の気配。

「グーベールは同族喰で死体喰だ、お前が恐れる必要はない、フラン」

「なるほど………グーベールさん、と、周囲の人たち。あたし魔女見習いのフランチェスカです。よろしくお願いします」

 さらにざわざわする周囲の気配。代表だろう、誰かが答えた。

「一流が守るというのなら是非もなし。好きにここにいるがいい」

「そういうことだ、フラン」

「はい、そうさせてもらいます」


 ………というわけで、あたしは変わり者集団に受け入れられた。

 このサバトに来れる悪魔は魔界の方で選別されてるそうで、単細胞は来れないから心配するなとグーベールさんに教わった。

「グーベールさん、悪魔って美味しいの?」

「個体差が激しいが、儂は全ての悪魔の死体を愛しとるよ。嬢ちゃんには勧めんが」

「やっぱり人間には毒?」

「そりゃあ、瘴気の許容量を超えるじゃろうからな」

 なんて会話もあったりして。そうか、毒なのか。残念。


 そして後夜祭の7日間は夢のように過ぎたのである。

 あ、先輩・シスターたちへの挨拶回りは、おとなりさんが同行してくれました。

 多謝。


♦♦♦


 学園祭の後始末に追われるのも今日まで。今日は休日!


 もちろん学生課に行こうと思うのだけど、今はヘビィな依頼はちょっと嫌だ。

 7日間の後夜祭(時間が歪められて、その日の朝には帰った事になってるけど)学園祭の後始末でさすがのあたしも疲れているのよ。


 そう思って掲示板を見たら「イモ掘り手伝い募集!」と書かれた依頼票が。

 依頼は生徒課とクラウト。報酬はクラウトから赤いジュエルが貰える。

 うん、のんびりしてそうだしいいんじゃないかな。

 そう思って受付のシスターに持って行くと、あっさり受理。

 ただ、何故か外からは簡単に放り込めるけど、内側からは破れない構造のと、いやに頑丈そうな軍手を渡された。

 この手袋(?)、もはやガントレットな気がするんだけど………


「あのー、芋の収穫ですよね?」

「そうよ、叫ぶし噛みつくし逃げるけど」

「え」

「大丈夫よ、その装備があれば………」


 とんだ依頼を引き受けたかも………


 農地に行くと、クラウトたちに歓迎を受ける。

「セイト中々キテクレない、オウぼしてくれてウレシイ」

 「イモ掘り」はもう始まっているらしい。

 絶叫がこだましていた。

 聞いたからってマンドラゴラとは違って無害だ。

 なので死にはしないが、この中に入るのか………

 叫び声は好きだけど、芋の叫び声はお呼びじゃないわよ!


 結果。

 芋は絶叫の表情で叫んだ挙句、飛びついて噛みついてきました。

 ちょっとした流血の惨事。

 以後は、徹底的に軍手でガード!

 手にガジガジと噛みつかせたまま、カゴに無理やりシュート!

 手からひっぺがすのに一苦労するわ。

 だけど1番困ったパターン。逃げる奴はどうしたらいいの?

 クラウトは意外と素早く(アリって結構早く走るよね)つかまえてたけど。

 あたしは慣れない農地での追いかけっこなんて、したことないよ………

 

 泣き言を言っていても仕方ないので、スカートを限界までたくし上げて走る。

 クラウトから借りた、網が鉄製の捕獲網で捕獲!

 そういうのは、大抵イキがいいから、手袋でつかむ時は注意だ。

 実は1回ミスって、思い切り腕に噛みつかれた。

 2度とごめんだ。派手に流血したし、まだジンジンするのよ。


 全ての収穫を終えて、囚人のごとく暴れる芋どもを、檻に押し込んだ頃には、空は夕焼け、カラスが………ガーゴイルかもしれないけど、が飛んでいた。

 叫び芋を使って、クラウトたちがつくってくれたけんちん汁は美味しかったぁ。


 こうして疲れる学園祭は、さらに疲れた依頼で幕を閉じたのだった。

 あ、報酬の赤(筋力)のジュエルはちゃんと貰ったわよ。

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