第11話 スーパーボール投下作戦

 半年が過ぎた。あたしは12歳になり、3年生も半ばになった。


 今年は、何か起こらないかな、と思っていると、予想外の事が起きた。


 体育(戦闘術)の授業中。

 その日は「山走り」という、勾配のきっついコースを走り込みしたんだけど………

 何と全員が全員、途中で靴紐が全てバラバラに切断されて転ぶという目にあった。

 あたし?例外なく転んだわよ、悪い?


 シスターは何故か微妙な顔で「………今日の分は成績に付けないでおく、はあ」

 とか言い出してため息つくし。一体何なのよ!?


 そこで、鞄の中の悪魔(本)に聞いたが何もわからない。

 シスターは事情を知っているみたいだったし、聞くならママかな。

 ちょうど、放課後はママの特別授業があるからその時聞こう。


 ちょうど、特別授業が終わった時、あたしは今日あった事をママに話した。

「ああ………ですか、ええ、転入してきた子が少し特殊なのです」

「特殊って?」

「明言はできません、特殊な力が使えて、1年生はすでに彼女のシンパだとしか」

「転入っていうのは?」

「正確には転入ではなく中途入学ですね。前にどこかに通っていた訳ではないです」

 なるほど………?おとなりさんにも聞きに行こうかな。


 ママの特別授業を終えて、あたしは図書館にやってきた。

 門限まではまだ間があるから大丈夫だろう。

((おとなりさーん))

((どうした、フランチェスカ。何かあったか?))

((うん、かくかくしかじか))

((ちょっと待ってろ、調べてみる))


……… ……… ………


((待たせたな))

((何かわかったの?))

((その転入生は、お前以上に多彩な特殊能力を制限空間内で扱える。どうやら前世が悪魔だったようだ。どのぐらいのクラスの悪魔か分からんが))

((1年生はその子に守られてるって事?))

((ああ、今年は1年生からの生贄調達は難しいだろうな))

((ふうん………でも転んだ分の意趣返しはしたいなあ))

((何をするつもりですか?フラン))

((もうちょっと考えてから話すわ))

 その日はそれで図書館から引き上げた。いい時間だったしね。


 自室に帰り、就寝した。

 横でごそごそしてると、カーミラが寝られないとうるさいからだ。

 朝が来てから、ささやかな仕返しを思いついた。悪魔の力が必要だけど。

 「大浴場に威力マシマシのスーパーボール、大量投下作戦」である。

 もちろん一人じゃ無理だ。悪魔の手が必要である。

 でも上級のペインを呼ぶほどじゃないな。エイールなら中級だし、いいか?

 エイールに召喚されてくれない?

 と言ったら、内容を聞いて「ぶふぉ!?」と吹いたあとでOKされた。


 中級悪魔で、内容的には大した事ない願いだから、生ける森にいる野生のヤギを狩って生贄にすることを選んだ。牧場で貰うのもいいけどね。

 でも、悪魔は人間の苦労なんかも糧にするので手間をかけた方がいいのである。

 農家の人が召喚するなら、手間と愛情かけた分価値があるんだろうけどね。

 まあ、そこまで行かなくても、魔界で山羊肉は人間肉と同じぐらい人気があるそうだし、あたしの選択は間違ってないだろう。


 あいかわらず、ママの付き添いで悪魔召喚の儀式場へ。

「ママ、これって複数あるの?それともブッキングしないように調整してる?」

「両方です。さあ、着きましたよ」

 生贄を台に置く。生きたままだ、命は召喚時に奪う。それが動物の生贄なら普通。

 召喚は成功、元から友好的なのでやり取りもスムーズだった。

 ママは召喚の目的に終始呆れてた。

 けど、やられたらやり返すのだ。それが正義?だ。

「じゃあ、明日の夜、1年生の入浴時間に開始するからねv」

 そういってエイールは―――楽しそうに―――消えていった。召喚終了!


♦♦♦


 次の日の入浴時間。

「「「「「ぎにゃあああ!!」」」」」という叫び声が大浴場にこだました。

 3Fのあたしたちの部屋まで聞こえてきたから相当だ。

「よっし!」

 そう言ってあたしがドヤ顔をしていると、カーミラがジト目で、

「あなた、何しましたの?」

 と聞いてきたので一部始終を話す。

「そんなことで悪魔召喚をするのはあなたぐらいでしょうね、はあ」

「スッキリしたでしょ」

「しましたわよ、だから責めませんわ。ただ、あの一年には4~5年生まで悩まされていると聞きますし、何か仕返しが来ないか警戒が必要ですわ」

「それはあるわねー。結局靴紐はお取り寄せになったもんね」

「警戒だけは怠るんじゃありませんわよ」

「らじゃ」


 翌々日。

 まず言っておくと警戒はしていた。特待生は、だけど。

 でも、授業中に天井からバケツをひっくり返したような雨ならぬスライムが降り注いでくるなんて誰が想像する?命知らずな事に教壇のシスター巻き添え食ってるし!

 特待生は、普段の訓練でこれが作り物な事を理解し、酸の攻撃はないと分かる。

 でも一般生は授業で聞いただけなので、パニックだ。

「大丈夫、こいつらは作りものよ!」

「そうですわ!むしろ服に張り付いて取れなくなっている事の方が問題ですわ!」

「そうだ!けど顔に張り付いたのを取らなきゃ窒息するぞ!」

 あたしとカーミラ、ローナが声をあげた事で、多少事態が落ち着く。


 ずるべたなままのシスターレイチェルが静かな怒りをにじませながら、

「自習にします」の一言を残して教室を出てった………うわ怖。

 結局、顔に張り付いた奴は取れたけど、皮膚に張り付いて気持ち悪い。

 制服の中まで入りこんで来るし、制服からは取れないし………

 結局、お湯で落ちることが判明したのは、家庭科室で水洗いしようとした時。

 間違ってお湯を出したカーミラのお手柄だった。

 これで、着る物がないって事はなくなる。

 けど、寮までは濡れた制服で帰るしかないわね。

 反撃手段を考えなくちゃ。


 といっても、うーん、そうそういい案なんて―――古典的なのがあったか。

 それにちょっと手を加えて―――

((みんな、ブーブークッション魔法版、透明にして平たくして気付かれないように。匂い付き、起立・礼・「着席」のところで発動。思い切り臭くね))

 みんな、説明するにつれて笑い出し、理解した時にはみんな笑っていた。

((エイール、また頼める?))

((そういう用件なら聞かざるを得ないなぁ))


 そういうわけで、悪魔召喚はママに呆れられつつ成功した。


「「「「「「「「臭あああああああああ!!!」」」」」」」

届いたみたいね、あたしのプレゼント。


これでもう、ちょっかいかけて来なくなるといいんだけど。

そう思ったんだけど、向こうのリーダーは反応したあたしを気に入ったらしい。

おとなりさん情報なので信用できると思われる。

とりあえずは止まってるけど、また何かあるかもってことね………


♦♦♦


 などとやっていた間も、休日は来てたわけで。

 あたしは生徒課に来ていた。


 色々ごたごたの最中だし、規模の大きいものはやだなーと思って依頼票を見る。

 ―――目に留まったのがあった。

 「お掃除の依頼」依頼者は生徒課。報酬は青いジュエル

 特殊な掃除なんだろうけど、得るものがあるかもしれないし、やってみようかな?

「あのー、これ詳細は?」

 受付のやる気なさげなシスター(シスターパミラだそうだ)に聞く。

「ああ、定期的に出る依頼でねー。悪魔召喚の空間が汚れると出されるの。今回は2か所ね。瘴気はこの黒い小瓶、その他の汚れはこの赤い小瓶に収集してちょうだい。普通のゴミは、もちろん普通に掃除するのよ。はい、箒と雑巾とちりとり」

 もうやることに決まってしまったらしい。興味あるから、いいけど。

「はーい、で、どうやって行くんですか?」

「そうだったっけ、はい、1~3番のキー。生ける森に入るところで活性化させて」

「そんな風につながってたんだ………あ、はい了解です」

 あたしは教室の大掃除のような恰好で、生ける森に向かったのだった。

 道行く一般生がこっちを見てくるので、何もない風を装って愛想を振りまく。

 どこに行くか知られるわけにいかないから仕方ないんだけど。


 1番のキーに魔力を送る。魔道具の活性化はこれで合ってるわよね。合ってた。

 中の儀式場は、そりゃ掃除も必要になるわというぐらい血まみれだった。

 供物を魔法陣の上で引き裂いてぶちまけたらこうなるだろうか?

 血を土が吸収しきれてないのである、土が血を含んでるだけでも誤作動するのに。

 これじゃ、掃除が必要になるのも頷ける。何系の悪魔かしら?

((場に残る正気を肌で感じてごらんなさい。普通私たちは匂いと言いますがね))

 うーん、と?激しい感情?これは………怒り?

((ってことぐらいしかわからないけど))

((怒りの匂いは戦魔の証ですよ。フランもこれを嗅ぎ分けられるようになりませんとね。瘴気を封入した瘴気飴を作ってあげましょう。他の味とミックスで))

((勉強させてくれるつもりならミックスはやめてよ、ミックスは))

((大丈夫!その方が鍛えられます))

((その前に訳わかんなくなるでしょ!))

((仕方ありませんねぇー))

 それはさておき、掃除、掃除と………瘴気じゃないから赤い小瓶を起動。

 血と魔法薬による汚れらしいものは、小瓶の中に吸い込まれて行った。

 でも骨は残るわけね、砕かれて粉々のやつが。

 ホウキとチリ取りでよいしょよいしょ。木の葉なんかもついでに集める。

 祭壇の汚れは清潔な布―――という名の雑巾で拭く。

 瘴気を黒い小瓶で吸い取って。何とか一つ目の所は終了かな。


 ふたつめの儀式場は水浸しだった。

 あたしは海って行った事ないんだけど、これは海水なのだという。

 じゃあ海魔かぁ………感じる気配は粘りつくような不快な感じだ。

 聞いてみたら、海魔の瘴気で間違いないと言われた。

 分かりやすいっちゃー分かりやすいんだけど、気分のいいものじゃない。

 赤い小瓶で海水を全部吸い取る。魔法薬が散乱してたのでそれも吸い取る。

 人体の一部も散乱していたので、それはゴミ袋へ。

 というか、バルバのところで食べさせてもらってなかったら食べてたな………

 普通の掃除と祭壇の掃除もして、それで終了っと。


 生徒課に掃除道具とゴミを渡し、青いジュエルを貰ったので吸収。

 召喚の時のマナーには、できるだけ気をつけよう………

 そう思ったあたしなのだった。 

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