第8話 魔女の学園祭

 あと10日で学園祭。あたしたちの準備はラストスパートだった。

 それと、特待生は学園祭の後夜祭にも出席していいとの事で、制服の手入れ(普段あまり着ない方)の手入れに余念がない。


 とにかく、紅茶とコーヒーの淹れ方をマスターした特待生組。

 一般生徒にも教えていく。

 結果、前半はカーミラと私と裏方のユフィカ………とカーミラの取り巻き。

 後半はローナとメーベリーとやる気のないシャギー………とローナの取り巻き。

 あと、個人主義の生徒たちもぽつぽつと取り込んで。

 何とか客に出せる紅茶とコーヒーが完成した。

 ケーキ?食堂で作ってもらうわよそんなの。


 後はエプロンだけど、これは体型の関係のない仕様だったので問題ない。

 合わせてみたけど、制服によくマッチしており、かつフリフリで可愛かった。

「誰の趣味よ?」

 そうカーミラに聞いてみたところ

「何か文句があって?」

 と言われた。そういう事らしい。

「あんた、よく似合ってるじゃない?」

「当たり前ですわ。あなたの方こそ馬子にも衣裳ですわね」

「そーお?ありがと」

 多分カーミラは凄く頑張ってデザイン案を考えたのだろう。

「お手柄よね」

 フンっと、そっぽを向くカーミラ。耳が赤いぞ。


 当日。お客さんは来た。カフェなんて知ってる方が少ないこの学園である。

 物見遊山で来る者が続出したのだ。カウンターの裏は大忙し。


 ちなみに学園生には、お金と同じ感覚で使えるチケットが配布されている。


 1年生は折り紙の展示。

 2年生は、屋台でじゃがバタ―。

 3年生はあたしたち、スタンダードなカフェ。

 4年生はがんばってアクセサリーの販売。

 5年生は手作りの石鹸の販売。お風呂で使えるし、実用的ね。

 シスターたちは、各種食べ物の販売。後で行こうっと。


 そうしてあたしたちがバタバタしていると、ローナが戻ってきた。

「これ、あげるよ」

 差し出したのは水晶に糸を通しただけだけど、綺麗なペンダントトップ。

「?ありがとう。何であたしに?」

「あはは、その辺は適当に推測してよ、じゃ!」

 謎だわ。でも後で、お返しを買いに行こう。


 午後になっても学園祭はそれなりに盛り上がっている。

 普段娯楽が少ないからねー。

 あたしは4年生の出し物に行き、ローナが買ったのと同じものの色違いを買った。

 働いてる最中のローナに渡しに行くと

「そんな………でも、ねえ。うん、ありがと」

 ごにょごにょ言っていたが、ローナは嬉しそうだった。それならそれでよし!


 あたしは同派閥(賢魔派)のシスターがやっている屋台に行ってみた。

 わたあめ、とかいう本当に綿みたいな見た目の砂糖菓子を売っている。

「ママ、これどうやって食べるの?」

「ちぎって口に運ぶのが、手以外は汚れないし効率的です」

「はぁーい」

 あたしはその通りにやってみた。

 シュールの飴と違って味はついてないけど、美味しかった。

 ママが「ああ、やはり手拭きを持たせるべきでした」と手を拭いてくれたのも嬉しかった。作り方も面白かったしね。どうなってるんだろう、あれ?


 色々回っている間に、後夜祭の時間が来た。

 大慌てで、あちこち片付けが始まっているが、特待生はそれ所ではない。

 全員が渡された黒ローブに身を包み、同じ格好の人たちの列に並ぶ。

「確か、フランチェスカ、ちゃん?」

 あたしは真後ろの人に声をかけられた。とつとつとした喋り方の人。

「あ、ごめん、ね。迷惑………だった?」

 エマリア先輩!?とラナ先輩!?

「迷惑なんかじゃ!あたし、エマリア先輩のファンです!フランって呼んで下さい」

「え………わたしの?変わってるね、フランちゃん、って………」

「何言ってるのよ、エマ。学園特待生のほとんどはあんたを特別視してるわよ」

 あたしが困ったところで、ラナ先輩がフォローを入れてくれた。

「そうですよ!みんな憧れてますっ!先輩に喧嘩売った奴はみんな死ぬとか!」

「それは………事実だけど、憧れ、る?変わった、子だね」

 あたしがしゅんとした所に

「でも変わった子は、好き。お友達に、なろうか………?」

 とパンチ。

「はいっ、先輩がいいのなら是非!」

「じゃーフランちゃん、あたしとも友達だね?」

「ラナ先輩!、もちろんです!」

 後で考えたら、牽制という奴だったけど、この時のあたしはピュアだった。

「ああ、もう、生贄の列が途切れるね、わたしたちは、ここで待機」


 待機していると、聖歌が流れてくる。反射で歌いだすあたし。

 エマリア先輩はそんなあたしの頭を撫でてくれた。

 そのままエマリア先輩と一緒にいたのだが、ママが迎えに来てくれた。

「エマリア先輩、うちの子がお手数おかけしてすみません」

「シスター、お母さんみたいって言われない?」

 ラナ先輩の方が反応してそんな事を言う。ママは鉄面皮のまま答える。

「は………わたしのほうはなんとも?」

「フランちゃん、がっかりせずに、気を長くやった方がいいよ、こういう人」

「そうしまーす」

「何ですか、フランチェスカ?他のシスターたちとの顔合わせに行きますよ」

「あ。いって、らっしゃい………」

「エマリア、あたしたちも行かんといかんのよ?」

「そう、ね」


 あたしは、エマリア先輩とラナ先輩に礼をしてから、奥の生贄の祭壇がある場所に行く。カーミラたち、他の特待生も連れて来られていた。

 特待生には、1人づつ、生贄のとどめを刺すがあるのだという。

 1年生から1人づつ。

 1年生の特待生は泣いていたが、嬉しくて泣いたのだろうか?そうママに聞くと

「あなたと違う感性の者もいることを理解していますか?」と聞かれた。

「分かってるわよ、居る事はね。あたしはそれを勉強しなきゃなんでしょ?」

 すると頭をなでてくれて、

「私が教えます」と言ってくれた。

「大好き、ママ」


 ちなみに、当然だけど、あたしの順番の時は何の問題もなかった。

 ステージの上で、爪を刃物のようにして喉笛を切り裂いて見せた。

 血に濡れて酔いそうになったが、ママの手前何とか正気を保った。


 その後で、各派閥の主要なシスターに紹介してもらったが、みんな独特の雰囲気のある人ばかりだった。自分の派閥の長シスター「エレニア」様もその一人。

 何とも言えない威厳と雰囲気のある人、としかあたしには言えないわ。

 世界で最初の「苦手なタイプ」ってやつかもしれない。

 その場でシュールの本についての扱いについて話された。

 シュールがあたしの所に来てるのはやっぱりまずいらしく、妥協案を出された。

 本は図書館に戻ってもらって、携帯電話のような形で小さな本を繋がりを保ったままあたしのところに寄越す、というのはどうかしら?とあたしに聞かれた。

 シュールと念話したいけど、多分雰囲気的にバレるし………

「その、それでいいと思います………」

 あたしにしては、全く歯切れの悪い台詞になってしまったものだわ。

「じゃあ、明日には交換の方をさせます。メイベリン、お願いね」

「はい、エレニアさま」

 シュールの本が、ミニマム化することが決まったのだった。


 後で、ママが休ませてくれた木陰での会話。

((シュール、ああ応えちゃったけど大丈夫?))

((大丈夫です、今までと変わりませんよ。変えさせませんから))

((そっか、良かった。飴も出せる?))

((重要なポイントですからね、主張しますよ))

((そっか、でも図書館に戻ったらどうするの?))

((「偏屈通り」と呼ばれている一画があるんですが))

((偏屈通り?))

((そのものそういう悪魔の集まる場所です。ほら、ペインをスカウトした場所))

((ああ………あの奥まった、人の来ない場所))

((亜そこら辺にある空き扉を1つ拝借して、中を改装してみようかと))

((できたら行ってもいい?))

((扉の前だけにしておきなさいね))

((むー。はあい))


「フランチェスカ、ここで本の中の悪魔と会っておくのも手ですよ?」

「シュールとエイーラとは普段会ってるしなあ」

「………メインの彼ですよ」

「ああ、ペイン!あんたここ来てるの?」

((来ているよ、探してみるかね?))

「探してみていいの、ママ?」

「粗相のないようにしなさいね」


 ママの許可が出たので、ペインの本体を探しに出たら、ローナやカーミラと鉢合わせした。聞いてみたら目的はあたしと同じだという。

 もっとも、こっちは待ち合わせらしいんだけども。

「あたしは、探してごらんなさ~い、ウフフって言われたから探してる」

 2人から同情の視線をもらった、いらないよ。


 あたしは、ガンガン悪魔に聞き込みして回る。

 知ってるけど―――と、一夜のエロスを求められたので応じてみた。

 応じたのは中級淫魔だったらしく、何でそんなに上手いの、と言われた。

 あたしの処女を狙っていたみたいだが、その前に向こうが果てたのだ。

 だって、ねえ、普段から、と本の中のエイーラと気持ちが一つになる。

「誓って嘘は言わないわよね?ペインの本体はどこ?」

「誓って嘘は言わないさ、あっちの木陰で歓談していたよ」

「え………それは」 

 行ってみたらもういないってオチじゃあ。

 はい、そういうオチでした。


 他にも、下級戦魔に勝負を挑まれて、召喚なしで勝ってみたり。

 それも、さっき、あっちの集団の中に………というオチ。

 ちなみに戦魔の場合悪気はないので責められない。

 ちなみにこれは、あとで、もう少し賢魔系の魔女らしく………とお説教があった。


((てゆーかペイン、こっちの居場所あんたに筒抜けなんだから、分かりやすい所に出て来てよぅ!でないと探すの諦めるわよ!))

((むう、それではつまらないな。こっちとしてはもう少し探して欲しかったのだが))

 ペインが協力的になったので、あたしたちはようやく会う事ができた。


「あんた顔が広いのね、あんなにいろんな所にいるなんて」

「他者の集団に紛れ込む事など、造作もない事だよ」

「この後夜祭って、7日続くでしょ。どこで寝たらいいと思う?」

「信用できる者の所だろうねえ」

「じゃ、あんた今日よろしく」

「私を信用するのかね?」

「誓いぐらいは結ぶつもりだけど………」

「キミは、本当に興味深いな」

「そんなこと………あるのかしらねえ?」


あたしの学園祭は、こうして過ぎていったのだった。

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