第9話 とにかく力をつけよう・2

 学園祭が過ぎ去り、半年が過ぎた。あたしはまだ11歳のままだ。

 でも、背丈は他の子(ローナ除く)よりも高いし、力は一番あると思う。


 今回の休日も、あたしは生徒課に来ていた。

 ローナから貰った水晶のペンダントは、制服の中に付けている。

 前回の報酬の魔剣が入った小袋は、ポケットの中。

 ポケットはこっそり、裏から補強してあるので、落ちる心配はない。

 さて、今回はどんな「仕事クエスト」をこなそうかな?


 あたしは変わった依頼を見つけた。5年生の先輩からの依頼だ。

「「かわふぐ」を釣って来て!新鮮なうちにね!私の部屋まで持って来て!」

 報酬は魔力のジュエル。先輩の名前はミシュ。


 はて、かわふぐ………?どこでGETできたっけ?

 生徒課のシスターに聞いてみると、生ける森の中層に釣りスポットがあるらしい。

 中層は結構危ないんだけど………って言うか先輩、面倒がったわね。

((ペイン、結界とか援護とかよろしくね))

((中層ぐらいなら、私の援護がなくとも大丈夫そうだが))

((釣りしてる最中の防御をお願いしたいのよ!))

 生徒課の受付に依頼票を持って行くと、竿とクーラーボックスを貸してくれた。

 あくまで貸与だ。先輩に「かわふぐ」を渡したら返さなきゃ。


 とりあえず図書館で「かわふぐ」の見た目と、捕獲方法を調べなきゃ。

 釣りについての本と、図鑑を見つけたわ。

 ふんふん、ミミズで釣れるのね。流れの緩やかな広い川に生息か………

 行く前に農地でミミズ採取したほうがいいわね。


♦♦♦

 

 さて、さくっと浅層を抜けて、中層へ。

 強化されている嗅覚で水の臭いを感じ取って、川の方に向かう。

 どっかに、幅が広くて流れが緩い所がないか調べる。

 釣りの経験は一応ある。

 故郷の森には川も流れてたから、半分遊びで。

 でも、食事にできるぐらい釣れてたから、それなりの腕はあると思うんだけどな。


 ああ、いい場所を見つけた。

 問題は「かわふぐ」以外がかかった時どうすればいいかだけど………

 むやみに紅龍様の財産を殺しちゃダメだろうし、キャッチ&リリースかな。

 

 始めてみて、難点に気が付いた。

 モンスターがかかるのだ、それも結構頻繁に。

 空飛ぶ魚型のモンスターで―――それなら水の中にいるなよと言いたい―――3匹ぐらい同時に釣れてしまう。戦闘でかなり体力が削られた。

 ペインの援護がないと厳しかったかも。

 このまま川辺で夜を過ごす羽目になるかな、と思ったとき、それは来た。

 明らかに他の魚や、モンスターとは違う手ごたえ。

 これかな?と思って引き上げてみたらビンゴだった。


 クーラーボックスに水を満たし「かわふぐ」を入れて、帰還する。

 ただ、日没していたので、モンスターが凶暴化していて厄介だった。

 何度かは、逃走を選択したぐらい。

 

 いつものように、霧で巡回のシスターの目を誤魔化し、部屋に帰る。

 今行ったって先輩は寝ているだろう、明日の授業前に行こう。

 そう思って、あたしは眠りについた。


 予定通り早起きして、五年生の寮へ。特待生の部屋は2つあるが、プレートがかかっているので、すぐわかる。

 ミシュ先輩は、えらくやつれた暗い感じの人だった。

「そう………採って来てくれたのね。これで薬の完成が………うふふ」

 あ、これ、あんまり関わるとヤバいやつだ。

「あのー、報酬は………?」

「ああ、これ。吸収しなさいな」

 魔力の黒いジュエルを試すのははじめてだったが、他のジュエルと同じように手の中で溶けて消えた。なんだか、酷く気力が充実したような気がする。

 というか、まんべんなくに強化する青いジュエルより、上り幅が大きい気がする。

 先輩には深くかかわらないようにするとして、充実した一日が送れそう。


♦♦♦


 クーラーボックスと釣竿を返しに行くと、おかしな依頼が目についた。

「暖かいかき氷が食べたい」依頼人は、淫魔系のシスターミザリー

 報酬は青いジュエル。

 体育の授業とかで負傷した際お世話になるため、馴染みのシスターだ。

 ミステリアスな人だとは思ってたけど、これも訳の分からない依頼だなぁ。

 どうやって作るのかは、ママに聞けば分かるだろう。

 受けてみようかな?できなくてもペナルティとかないようだし。

 そこは受付のシスターに確認しておく。大丈夫。ペナルティはない。


 次の日の特別授業の時、ママに「暖かいかき氷」について聞いてみる。

「何でそんな依頼を………まあいいでしょう。暖かい氷なら生ける森の深層にあります。だいぶ奥なので、お勧めしませんが………と言っても行くのでしょう?」

「うん、深層は初めてだけど行ってみる。ママ、場所は?」

「はあ………地図を書いてあげますから持って行きなさい」

 あたしはママが地図を書き終わるのを待った………待った。待った。


「ねえママ、どんな地図書いてるの」

「地図は、地図です」

 覗き込んでみたら、物凄く精密な地図だった。本に載せられるぐらい。

 もういいって言っても無駄なんだろうなあ………

 あたしは、日没ギリギリのところで寮に帰り着いた。

 多分、間に合うように急いで書いてくれたんだろうとは思うけど………

 あたしは、これからも使えそうな精密な地図を見て、ため息をつくのだった。

 次の日、一般生に夕食のデザートを譲るからとノートを頼んで、授業を抜け出す。

 

 生ける森に辿り着いた。浅層である。

 そこから、ママの地図で最短ルートを割り出して、簡単に中層へ。

 もはや浅層のモンスターは、あたしの相手にならなくなっている。

 中層の敵も、手こずりはするけど、ペインの援護なしで何とかなるほどだ。

 だけど、深層はヤバかった。

 今まで出て来た敵が、全部バージョンアップされている。

 そのうえ、ダチョウサイズの恐竜っぽい爬虫類まで出て来た。

 今まで通りにはいきそうにないわね………!


 激闘の結果、ペインを簡易召喚―――ここのような解放空間なら、本を通じて呼び出せる―――したりしつつ、勝った。これ、釣りの依頼じゃなくて良かったわ。

 釣りなら釣れるモンスターが、層に応じてレベル高くなってただろうから。


 なんとか戦闘を切り抜けて、目的の場所に着く。

 そこには奇妙な光景があった。

 1つの大穴の周囲に「暖かい氷」が積み重なっているのだ。

 大穴からは、定期的にぽおん、ぽおんと拳大の「暖かい氷」が飛び出して来る。

 大穴がどうなってるのか好奇心が湧いたけど、なんだか詮索しない方がいいような気がしてやめておいた。「危険感知」というやつだ。

 万が一化け物が潜んでて、戦闘にでもなったら多分勝てない気がするし。


 あたしは、穴からできるだけ遠い位置の「暖かい氷」を手に取ってみる。

 ぬるい。暖かくない。

 穴から上がって来たばかりのやつは湯気を立ててるのに。

 これじゃ、依頼達成とは言えない。少し中央に近付かないと………


 あたしは穴から見えないギリギリのところで採取を始める。

 すると、なんと、穴から上がって来たばかりのやつが近くに落下。

 採取しようとしたけど、あっつい!!

 お手玉しながら採取用の自作カゴに放り込む。

 というか、他の「暖かい氷」を触ってみて気付いたのだが、これ、人間の体温でいっちょまえに溶ける。いや、でないと食べれないだろうけどさ。

 程よく温かい氷も念のためにいくつか採取していくことにした。

 それが終わったら、素早く撤収!


 結局、穴の底は見ないままだった。いつか見るんだろうか?ない、と思いたい。


 次の日、昼休み。かき氷にするには刃物でしょりしょり削らないとなぁ?

 と思っていると棚に「かき氷メーカー」と書かれた箱が。

 説明書を読むと、使えそうだった。

 「暖かい氷」を砕いて、メーカーに入れる。

 まず、湯気の上がっている方からだ、あちちちち。

 うん、湯気の上がるかき氷ができた!まだシロップかけてないけど!

 次に、温かい程度の氷のかき氷も作る。


 放っといても溶けないのは分かっているので、シロップ作りに入る。

 図書館に寄って、シロップの作り方は勉強した。「みぞれ」だけだけど。

 作り方の基本は、水100 mlに対してお好みの砂糖250グラム。

 中火にし、沸騰したらその後弱火にして、砂糖をしっかりと煮溶かす。

 火を止め、冷ます。鍋に砂糖と水を加え、沸騰させ砂糖をしっかり溶かす。

 濁りが無く透明になったら火を止めて冷ます。

 そして、容器にうつし冷蔵庫で冷やしてできあがり。


 シロップをかけてもかき氷が解けないことを確認して、段ボールの中へ。

 教室に持ち帰って、次の休み時間まで置いておく。


 次の休み時間、中身を取り出して、意気揚々と保健室に行こうとしたら、ローナに止められた。かき氷から湯気が出ているのを見てギョッとしたらしい。

「何それ………まさか生徒課の依頼の暖かいかき氷!?」

「そーよ。生ける森の深層まで行かないといけなくて、大変だったんだから」

「深層に行って帰ってきたのか!?無茶な真似を………」

「でもこの通り元気よ?」

「それはフランだからだろ………邪魔して悪かった、行って」

「はいはい、言われなくても行きますよっと」


 保健室に来るのは初めてではないので、気楽に入室許可を求めた。

「フランチェスカです、「暖かいかき氷」持って来ました」

「あら………お入りなさい」

 そこには、いつもと同じく色気を纏う大人の女性―――シスターミザリーがいた。

 細身なのにババンと張った胸、くびれた腰、ボリューミーなお尻。

 あたしもいつか、こんな風になれるだろうか?

「はいっ、先生、アツアツ氷と程よく温かい氷、両方で作ってみました」

「シロップは?」

「みぞれがかかってますよ」

「あらあ、作ってくれたのね、えらいわ。報酬、オマケしておくわね」


「3年生が深層まで行ったんだもの、それに応じた報酬をあげないとね。それにアツアツの氷まで取って来るなんてすごいわ。サラマンドラゴンには会わずに済んだ?」

 そのヤバそうな名前の奴が、あの穴の中にいたモンスターなのは想像に難くない。

「穴の中に引っ込んでてくれたから何とか」

「運が良かったわね、はいこれ、青いジュエル2つ………」

「いいんですか!?」

「生徒課にはないしょ………ね?」

 唇に指を押し付けるシスターミザリー。色気があるなあ………じゃなくて。

「ありがとうございます、頂きます」

 青いジュエルは二つとも、あたしの手のひらに消えた。

 1つでは得られなかった高揚感が身を包み、ゆっくりとおさまっていった。


 深層まで行ってきた甲斐は、十分にあったわね。

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