第7話 とにかく力をつけよう

 悪魔召喚から半年が過ぎた。

 あたしは?生徒課の依頼を少しでもたくさん受けたいところである。


 今回選んだのは―――生徒課の依頼だ。

「生ける森に発生した毛虫ライダーと毛虫を討伐せよ」―――報酬:青ジュエル

 こんなの普通の女子なら絶対受けないだろうな。だから残っているんだろうけど。

 青ジュエルは全能力UPで美味しいのに。

 毛虫そのものに思い入れはないけど、毛虫も毛の部分を焼けば食べられるのに、と思った。実食した事があるのかって?あるわよ。


 そういえばゲテモノ(なの?)つながりでこんなことがあった。

((フラン、飴は好きですか?))

((好きだけど………たまに母親がくれてたわ))

((そうですか!じゃあこれをあげますから感想を聞かせて下さい!))

 シュールはポン、と音を立ててあたしの手のひらに包装された飴をよこした。

((私が作ったんですよ))

 味は………書いてないなぁ?とりあえず食べてみようか。

 ぱくっ………もぐもぐ………うん、美味しいんじゃない?不思議な味だけど。

((美味しいと思うけど、この味何?))

((美味しかった!そうですか!やっぱりあなたは良い子ですねぇ))

((ありがとー?で、何の味?))

((刺身と生クリームの味です!))

 ………あたしの味覚は、何でも食べれるようにかなり改造されている。

 だからよかったようなものの、普通では吐いているのではないだろうか?

((シュール、それって一般受けしないんじゃない?隔離されてる間に味覚狂った?))

((うぅ………みんな吐いたり倒れたり、酷いんですよぉ))

((まあ、あたしは美味しいと思うから、またちょうだい?))

((フランー!可愛い子ですねぇー!))

((シュール………まあいいか。はいはい、ありがと!))

 という出来事があったのだ。


 話を元に戻そう。毛虫ライダーの話だ。

 あたしなら、炎で撃退できる。あたしはその依頼票を取って生ける森に向かった。

 依頼票によると、この一本道で出現するはずだけど………

 わさわさわさわさっ!!

 森と、進行方向からへんな音がする。音までするって………もしかして。

 

 左右からあふれ出るようにして、毛虫の雪崩、雪崩、雪崩―――!!

 あたしは即座に「クリミナルエンプレス」を自分を起点にして全力で発動!

 毛虫の雪崩が、あたしを中心に爆散する。クレーターができちゃった。

 きったない光景だなあ………

 これを何度か繰り返して、やっと奥から巨大毛虫に乗った、巨大メイスを持つ妖精が見えてきた。メイスの方が本体より100倍はありそうだ。

 

 毛虫の死骸が周囲に積み上がったクレーターの中、それが勝負の場所になった。

 毛虫ライダーの毛虫は、ぼよんぼよんとありえない動きで跳ねた。

 爆弾を大量に投げて対処するあたし。

 もちろんガンガンヒットがあった………けど、しぶといわね。

 ぶおん、と若干焦げた妖精があたしにメイスを振り下ろす。

 そんな巨大メイス、避ける以外に対処法がないじゃない。

 でも、そのタイミングで、爆弾をくっつけさせてもらった。

 どかん、と一発入る。フルパワーよ。


 あたしは先に、大毛虫を始末することにした。

 芸はない。とにかくたくさん爆弾を繰り出していく。ただし、相手にくっ付くマグネット爆弾の形で。「クリミナルエンプレス」はそういう事もできるのだ。


 少し後、毛虫は体液をぶちまける袋のようになって、横たわっていた。

 毛虫の群れも、ほぼ爆散している。

 妖精は「コンチクショー!」と叫び、あたしに巨大メイスを振り下ろして来る。

 でもあたしは、巨大メイスをうまく躱して、ナイフで妖精本体を斬った。

 すぱっ。

 気持ちのいい音がして、妖精の首は宙に舞った。

 やっぱり本体は物理攻撃に弱かったわね。

 宙を舞う妖精の鬼の形相は、あたしを満足させるものだった。


 

 生徒課。証拠の妖精の首を持って、あたしは凱旋した。

 カウンターのシスター含めて誰も―――今回は光景が酷かったからか背中の悪魔達からも―――褒めてくれなかったけど、一応やり遂げて帰って来たんだしさ。

 一応凱旋でいいよね………?と思いながら報酬を受け取る。青いジュエルだ。

 手に取ると、すぐに吸収が始まる。全身が暖かくなる感覚。

 うん、気持ちいい。


♦♦♦

 

 次の日、教室はある噂で持ちきりだった。学園祭がある!

 ある、というより3年生になったから参加させてもらえる、が正解。

 卒業写真集に詳しいプロフィールとか全身写真があるので、みんなあこがれの先輩がいる模様。あたしはエマリア先輩に憧れている。

 ダントツ首席での卒業、授業の成績も満点ばかり。なのに本人はコミュ障気味で、いつも相方のラナ先輩の影に隠れていたとか。

 この2人は恋人とのうわさもあるので、2人まとめて人気がある。

 みんなだんだん百合が普通だと思うようになってるわ。

 まともな娘はまともなんだけど。


 自習の時間を使って、出し物は過去の記録をサルベージして、どんなものかを抜き出して黒板に書いて、その中から選んだ。

 そうでもしないと、娯楽を知らないあたしたちは「展示」一択である。

 で、カフェに決定。何の変哲もないカフェだけど、あたしたちにしてみれば新鮮。

 特待生は普段から忙しいのだが、これでさらに忙しくなる。

 カーミラ・メーベリー主導で衣装の考案と作成。

 ローナ・シャギー主導で飲食物の調達。

 あたし・ユフィカ主導でカフェの調度品(テーブルとイス含む)調達。力仕事だわ。

 頑張りましょうねとユフィカに言ってみたら、コクコクコクと頷いた。

 可愛いじゃない。見た目で損してるけど。


((フラン、ユフィカは母星では結構な美少女ですよ?))

((え、マジで?))

((ええ、今のあの子は母星からシスターによって誘拐されてきて、むりやりお手伝いをさせられている可哀想な美少女です。しかもあの子に何のかかわりもないお手伝い―――そのシスターの恋路の手伝いなのです))

((え!めっちゃ薄幸の美少女じゃない………見る目を変えるわ………))

((うんうん、1人だけでも理解者がいると嬉しいと思いますよ))


「ユフィカ、あんたっていい子ね。仲良くしましょ!」

(パチクリしたあと、目を輝かせてうんうんと頷くユフィカ)

「とりあえず、学園祭の準備担当のシスターが7人いるらしいからつかまえましょ」

(投げ縄の動作をして、合ってる?と言いたげ)

「ガチで捕まえちゃダメでしょ。声をかけるのよ」

(なるほど、という仕草の後しゅんとする)

「声かけるのはあたしがやるから、運ばなきゃいけない調度品を一緒に運びましょ。他の子じゃ頼りにならないわ。持つには持ってもらうけど、あたしたちは食器棚とカウンター、他の子はテーブルとイスね。それでも往復だろうけど」

(うんうんと頷いて、敬礼をした)

「あははっ、それじゃ、シスターの所に行こうか」


 それから、あたしたちは夜になる前に(すっごい忙しそうな)シスターを発見、つかまえて、備品の場所と、運ぶ許可を得たのだった。

 実際に運んだのは翌日の夕方(ママの特別授業の後)だ。

 あたしはカウンター、ユフィカは(食器抜きの)食器棚を運んだ。

 運び終えた後、ユフィカとハイタッチして、とりあえず教室の後方に片付けた。

 セッティングはもっと後の話だから、その分楽ができるわね。


 その間の休日は、また生徒課に行きましょう。


♦♦♦


 今回選んだ仕事の場所は初めての場所。旧校舎。

 内容は意志を持った魔剣が暴れているから止めてくれというもの。

 この依頼票を持った生徒にしか襲い掛からないっていうんだから、もう。

 生徒課が作り出した依頼で間違いないわよね。

 というか、討伐依頼はみんなそんな気がする………


 報酬は現物支給。やっつけた魔剣と、収納の小袋(鞘代わり)だ。

 収納の小袋は、依頼票を持って行ったら、その場でくれた。


 さて、学園の南西の舗装がはがれた道の先。

 不気味な―――一応校舎の体裁を保った建物がある。木造だ。

 そしてその中は「解放空間」だった。

 大幅というのも足りないぐらい―――今までの自分はミジンコだと思えるぐらい能力が上がったのを感じる。

 確かに最近生ける森の中層に行ってなかったけど、その間にこんなに上がるもの?

 青いジュエルだって、そんなにたくさんは獲得してない。じゃあ私の努力の結果?

 酔ってしまってはいけないんだろうけど、嬉しかった。


 さて、気を静めて旧校舎の中を観察する。

 ボロボロの木造の建物で、戦闘などには耐えれそうになかったのだが。

 50㎝ぐらいの小鬼たちが、あちこちを修理しているのだ。

「この傷はないよなー」「俺たちにかかれば一発よ」「んなわけねえべ」

 などと声をかけ合いながら修理している。

「おう、新しい特待生か」

 そのうちでも、ひときわ大きな小鬼が声をかけてきた。結構強そう。

 それに、集団でかかって来られたらちょっと危ないかも………

「校舎を壊すなよ。壊さなきゃ仲良くやれる」

「壊さない、壊さないわ」

 と、いいつつみんな壊しちゃうんだろうな、と見当はつくがそう言った。

「なら友達だ」

「友達?なら本当に壊さないように気を付けるわ」

 思わず本気でそう言ってしまっていた。


 小鬼たちと別れて(といってもあちこちにいるんだけど)目指す部屋は結構浅い位置にあった。部屋に入ると明らかに依頼票に反応して何かが起動する。

 凶悪なカーブラインを持つ、肉厚の、デザインの凝った刃。それが赤い光を纏う。

 それは、意志を持ってあたしに攻撃してきた。


 何度も続く空を飛ぶ刃物の攻撃、それを全部かわすのは大変だったけど、あたしは何とかやり遂げた。そして、弱点だと睨んだ―――光ってたから―――目のペイントに、ナイフの一撃を突っ込む。生物にする様にぐりぐりと。

 悲鳴のような音と共に、ふっと赤い光が消え、湾曲刀が落下する。受け止める。

 これはもうあたしのものだ。特別授業の時に、手入れの方法を聞かないと。


 何と余裕があったので、気を付けて戦ったあたしは校舎を壊していない。

 おかげで小鬼たちとも良好な関係が築けて、あたしはご機嫌だった。

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