第5話 特待生
1年が過ぎた。あたしは3年生、11歳になった!そして特待生になった!
学園長があたしに特待生のバッジをくれたのだが、
「紅龍様のために、これからも励みなさい」
と言われただけだった。
ママが詳しい話をしてくれた。
今は魔法や武芸の稽古をしていても、飛躍的にレベルが上がったという感覚もなく、超人的な力を得ることもないだろう。
すべては地道な努力をして、少しずつ技能を上げるもののはずだ。
まあ、年齢からくる力はともかく。
それは、ここが「
強くなるには「解放空間」で訓練するより「制限空間」で訓練してから「解放空間」に出る方が効率がいい。だから学園は「制限空間」なのだ。
学園でレベルを上げると、外の「解放空間」に出れば高能力を会得できる。
だから特待生の仕事はレベルを上げること。
自分から試練にぶつかっていきなさい、というのがママの説明だった。
もう一つ、説明があった。悪魔の事だ。
普通は1つしか召喚書を持てない。そして書を持つのは一般生でもできる。
シュールのときに、いい顔をされなかったのは、分不相応だったからだ。
学年を上げるごとに、一般生は特待生の脅威になってくるのだと。
あなたは知らないだろうけど、とママが話してくれたことによると。
持ち主は、本を通じて悪魔の力を使う事ができるらしい。
シュールは一切それをしない約束で、あたしの所にいるらしい。
うーん。シュールの能力は全てに「発情期」の能力が乗るらしいからなぁ。
ロクでもないからこれからもそれでいいと思うわ、とママに言った。
なら持っていても構わないとの事。
ただし警戒はされるから気を付けるように、と言われた。
他の召喚書は近くに来た召喚書の事を感知するのですと。
「使えない召喚書を持っていても仕方ないので、召喚書を手に入れるように」
スタンダードな研究者肌の悪魔にするようにと言われた。
「分かったわ、ママ。今日は休日だし、図書館に行ってみる」
((ふふふ、私たちに怯えない悪魔がいるでしょうかね))
「そうだった、ママ、研究肌の悪魔ってシュールの隣に置いて大丈夫!?」
「………せめて賢魔にしてください。あなたは「らしくない」んですから」
「わかった、せめて賢魔ね!」
ママが他のシスターに顔向けできないようなことは、しないようにしないと………
♦♦♦
図書館に着いた。あたしは真っ直ぐ無数の扉(意匠は様々)のあるエリアに行く。
あたしの事を知っているのか、それらしい本は、本棚から抜けてくれないのが多かった。抜けたのも悪魔つきではなかった。
何百回目のトライだっただろう。
黒革に銀の装丁の「人間学」と書かれた本に手をのばしたのは。
本からの念話が来た
((ほう………わたしで良いのかね?))
((あたしの選択肢って、あってないようなものだと思うのよね))
((一つ質問をさせてもらいたいのだがね?))
((試験ってやつ?どうぞ))
((できるできないは別に答えを。君は両親を殺された。どうするかね?))
((両親の遺体を腐らないように保管して、犯人をつかまえて、たっぷり拷問して殺すわ。食べれる犯人だったらいいわね。それが終わったらパパとママを食べるわ))
((何故かね?))
((………?パパとママを愛しているだろうと思うからよ))
((悲しくはないのかね?))
((悲しいから食べるのよ、自分の中に取り込むの。排泄で大部分が出て行ってしまうのは分かってる、でも一部は取り込めるでしょ))
((なら犯人を食べるのは何故かね?))
((楽しいし、おいしいからよ?))
((ははは!父と母は娯楽の後かね?))
((犯人の遺体保存はめんどくさいわ。手をかける価値もない))
((くくく、なるほど、非常に面白い、面白い素材だ!))
((あなたの所有者になっていいの?))
((ああ、持って行きたまえ。これでも上級悪魔だよ))
((今聞こうと思ってたのよ。名前は?どんな能力者なの?))
((名はペイン。上級賢魔なりの能力だよ。多少人心を操るのが得意ではあるがね))
((特技の方はあたしの所で使う機会があるとは思えないけどね))
こうしてあたしは自分専用の悪魔を得た。
後日、特別授業の時に紹介したら、ママはただ「そうですか」と言った。
いいとも悪いとも言わないので、問い詰めたらため息を一つ。
「その悪魔は前科があるのです。シスター同士の恋愛をこじらせた」
「え?シスターって女だけよね?」
「アンドロギュノスの悪魔を師にしたあなたがそれを?それに学園では普通です」
「いや、それは恋愛じゃないし………普通なの?で、どうなったの?」
「片方が死に、片方が学園を去りました」
「うわー。ろくでもない。あんた何やってるのよ」
((ふむ、大変面白かったがね?私は片方の猜疑心を増してあげただけだよ?))
「普通にタチ悪かった。気を付けるね、ママ」
「あなたが気をつけてもどうにもならない気もしますが………そうしなさい」
♦♦♦
特待生になって悪魔の召喚書を得た事を報告しなければいけない人がまだいる。
最近になって、処理中の肉を調理して食べさせてくれるようになったバルバだ。
おじいちゃんっていたらこんな感じかしらと思う。
報告したら、バルバはすごく喜んでくれた。
「クラウトにもチャレンジできるフィールドがある。時期が来たら教えてやろう」
そういって、今日は奮発して豪勢なステーキを作る、と言ってくれた。
夕食には帰らなくて良さそうだね!
♦♦♦
夜、いつもはあたしはみんなと同じように、主(紅龍様)に祈る。
でも、今日の特別授業の時、みんなと同じではいけません、血を吐いてもいい、魂をもっていかれてもいい、死んでもいいぐらいの気持ちで祈りなさい、と言われた。
それで何が変わるのと聞いたら、紅龍様からお返事がいただけます、と言われた。
だから今日は、気持ちを込めて祈る事にする、卒業できる強さを下さい、と。
そうすると、頭の中に灼熱感があった。癖になるような感じ。
そうして脳の中に直接「励めよ。お前には見込みがある」との声があった。
男性のテノール。一言だけなのにどこかカリスマ性のある声。
ぞくっときた。そうか、これが主(紅龍様)か………
励めよとの事だったが、あたしに期待するとしたら、魔法と戦闘能力の事だろう。
魔法はここが制限空間なので、勉強する事しかできない。
戦闘能力で励むとしたら、生徒課かな?大抵身体能力がいるから。
よし、明日は休みだ、生徒課に行こう!
♦♦♦
次の日、生徒課にやってきた。作ったナップサックの中にいる召喚書は、何やらお互いに話し合っているようである。
掲示板を見ると、欲しい物の重なっている依頼を2つ見つけた。
だけど労力は桁違い。
一つ目は、ある柑橘類(ここでは「みかん」としておこう)のジュースが飲みたいから持って来て、という特待生からのパシリ依頼。
もう一つは食堂からの依頼で、朝食に出す果物―――「みかん」―――を130個持って来て、というもの。確かに全校生徒とシスター、合わせるとそれぐらいね。
「みかん」の木はかなりたくさん実をつけるし「生ける森」の浅い層で手に入る。
やってみる価値はありそうだった。
あたしは「生ける森」の浅層まで来た。
まずは、その辺に生えてる繊維質な植物を裂いて、背負える籠を作る。
130個+ジュースの分個入るように頑丈にね。
あたしは元から自然の中で生きてきたので、こういうのはおちゃのこさいさいだ。
ナップサックの方は正面に持たないとね。
その辺の高そうな木に登って、てっぺんまで辿り着いた。で、あたりを見回す。
((ワイルドですねー。フラン))
((それだから「ママ」にらしくないって言われるんだよ~))
((ふうむ………これでアスタロト(賢魔)系とは興味深いな))
「そこ!あたしはあたしよ、変われないわ。自然に変わるならともかくね」
((それだからフランは私なんかと気が合うんですねー))
とにかく外野は置いといて、ひと際高い木の上から「みかん」の木を確認。
どっさり実ってそうな木を目がけて進軍よ。
戦いに慣れて来たのか、精霊、スライム、豚は、もうあたしの相手じゃなかった。
体が大きくなったとか、体術に習熟してきたとかも理由かも。
こういうのが「解放空間」でいう高能力になる条件なのかな?
これならもうちょっと高難易度の仕事を受けてみてもいいかもしれないわね。
「みかん」は順調に採取できた。さすがに重いけど。
ただ、最後の木は、中深度―――解放空間にある。気をつけないといけない。
中層の敵は、同じモンスターでもケタ違いに強かった。
でも、驚いたことにあたしの能力はその比ではなかった。
拳一発で大抵のカタがつく。
精霊に使った「クリミナルエンプレス(罪人の女帝)」の爆弾は、いつもと同じだ。
ただ、これは威力を上げる必要があったけど。
最後の木に辿り着いた。だがその木には番人がいた―――
ほとんどの数を埋めそうなほど実り、美味しそうなのもこの木がダントツだ。
番人がいる価値はある―――のかなあ?
番人は授業で習った「ウッドゴーレム」だ。炎が弱点だったはず。
とりあえず「クリミナルエンプレス」最大火力!ファイヤー!!
森に爆発の花が咲いた。
周囲の木々は、対象外に指定していたので無事だったけど、確実に学園まで聞こえた爆発音だったと思う。変な噂にならないといいけど。
というか「クリミナルエンプレス」の爆発ってここまで強力だっけ?
((生得の能力ゆえに、君の成長に合わせて成長しているようだよ?))
「生得の能力?両親が付け加えた能力だと聞いたけど」
((いいや、完全に生得の能力だね。このペイン一応は賢魔だよ?))
「思い込まされてたって事か………じゃあ残りの2つの能力も?」
((可能性は高いだろうね))
「検証してみなきゃ。この依頼の後でね」
あたしはたっぷりと、実をもいで、背負子に入れて帰ったのだった。
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