第4話 バルバとの出会い
また半年が過ぎた。2年生、10歳だ。
みんなかなり活発に動けるようになり、この半年の犠牲者は0だ!
何故かカーミラはあたしに早く特待生になれっていうけど、仕方ないじゃない。
今日も放課後に特別レッスン。
それがない日は「恋人たちの中庭」で人に言えないレッスンだ。
淫魔系に籍を移せばって?イヤだよ、嘘の応酬とか建前とかめんどくさい。
淫魔系は虚魔系と言われるほど嘘を吐くのが上手いのよ。
何より私、シスターはママがいい。ママが賢魔系だから賢魔系がいい。
教室に先に入ってママが来るのを待つ。
ママは教室の時計がぴったり2時になった時に来た。
靴音が秒針の音と全く同じなのはちょっとどうかと思ったけど。
「本日の特別授業を始めます。プリントのGー1を―――」
「あ、ママ、ちょっと待って」
「………なんですか?」
微妙に眉間にしわを寄せるママ。不機嫌のサインだ。あたしは慌てた。
「あのー、この学園に全てを預けたのは、この身一つでしょ?」
「そうですね」
「うちの家と敷地丸ごと学園に寄付するって、学園長先生に言っといて欲しいなー」
「ふむ………」
ママは黙考する。
「良い事だと思います」
「あ、ほんとー!じゃあお願いね」
「わかりました。ではプリントのGー1を―――」
ママはさらっと、特別授業を再開した。
ずいぶん後で知った事だが、この宣言が無ければ、私は危ない位置にいたらしい。
あたしは、よその派閥の魔女の子として、生贄になるのを待つ身だったらしい。
だが、私が全てを投げ打ったりしたものだから、事情が変わったらしい。
あたしは、それで点数が稼げるなら、ぐらいだったのだが。
それなら、うちの派閥の魔女として扱ってもいいのではないかと思われたのだと。
それでなければ、特待生昇格はすぐだったらしい。
♦♦♦
休みの日。ここリコリス学園では「火」曜日が休みだ。
今日から「生徒課」の課題を受けることにした。
学生課の割と普通のシスターによると、課題は掲示板に貼ってあって、やると決めた紙を剥がして持って行き、達成したらここに持って来る。
3日経ったら未解決と判断して紙を張り直す。
報酬はこちらで預かっています、など。
色々ある中から、あたしは「草むしり」を選択した。
当然、普通の草ではない。マンドラゴラだ。
マンドラゴラは抜くときに叫ぶ。その叫び声を聞くと死んでしまうのだ。
でもあたしはそれを選んだ。
多分あるならここだろうという農地に着いた。
辺りではアリ型ゴーレム「クラウト」が働いている。
クラウトを1匹捕まえて聞く
「この辺りの農地で、収穫しても構わないマンドラゴラの場所はどこ?」
「アァー。ソレならモリのナカにアル農地だネェー。アブナイカラ気を付けてネ」
やっぱり危ない依頼だったか。
先輩がやりたくない依頼なんて大抵こんなもんだと思った。
あたしは森の中を進む。
学園では訓練場以外で魔法は禁止されている。というか使えない。
だから、腕力で進むしかない。
でも、あたしを手ごろな獲物と見た奴には後悔させてやるわよ。
突っ込んで来る猪にカウンターをお見舞いし、まとわりついてくるスライムを引きちぎる。精霊は「クリミナルエンプレス(罪人の女帝)」で何とかした。
だって精霊は、魔法でしか倒せないんだもの。他の人はどうやってるんだろう。
殺意が高すぎるわよ、この森!
普通の下級生なら、とっくにひき肉ね。
あたしは爪を長く伸ばし、刃のようにしてモンスターを切り裂いていく。
すると、そこだけモンスターのよって来てない、結界の中の畑が見えてきた。
畑に辿り着いて―――モンスターたちは散って行った―――支給されていた耳栓を身に着ける。もちろん対策はそれだけじゃない。
生みのママの手伝いで、マンドラゴラ掘りはやったことがあるのだ。
まず、頭の部分だけ掘り出して、頭の部分をのばした爪で、サクッとやっておく。
これだけで、マンドラゴラの叫び声の威力は半減するのだ。
でも、小動物なら死ぬ威力の叫び声は放つから耳栓してるわけ。
さあ、ずぼっと抜いて―――
そのマンドラゴラの体―――ミの部分ね―――は随分と大きかった。
叫び声は半減してるにしては異様に大きく―――あたしは気絶した。
魔物避けのかかってる結界の中じゃなければ死んでた………と思いつつ起きる。
なんか、体が半ば土に埋まっていた。
さては、こうやって生徒やモンスターを取り込んで成長したわね!?
依頼のマンドラゴラはあと2体あるのよ、どうしようかしら?
まあ、やるしかないわよね、放り出すと畑を荒らしただけでマイナス評価だし。
結局、終わったのは夜になってからだった。
夜は全部の魔物が―――あの猪も魔物だ―――凶暴化するので危ないんだけど。
朝になってしまって授業をすっぽかす訳にはいかないわ、行くわよ。
ボロボロになってしまったけど、夜のうちに帰り着いたわ。
夜でも開いてる生徒課の建物に、依頼の物を、依頼票と一緒に渡す。
意外そうな表情の受付は
「はい、確かに依頼のものですね」
そう言って私に報酬として、刃渡り30㎝のナイフを渡した。
これ、鞄に入るかしら?
そのとき、背後から気配もなく、ぽん、と肩を叩かれる。
「うひゃっ!?」
声を上げて振り向くと、そこには、ママ。
「生徒課からは、担当のシスターがいる場合、連絡が入るのですよ。終わったか問い合わせてみたら、夜になっても帰って来ないというから、様子を見に来たのです」
「あ、ありがと、ママ」
「クラウトは限られた知識しかありません。聞き込みするなら多数つかまえなさい」
「何でそれを知ってるの!?」
「行きやすい農地のクラウトはみんな同じ知識だからですよ。依頼人もそれを期待したのでしょう。農地の指定が無かったでしょう?後でのクレーム逃れです」
「ううう~」
まんまと引っかかって悔しいやら恥ずかしいやら。
「今後は注意しなさい。あと召喚の書は持ち歩くように」
「持ち歩く?どうやって?背中に括り付ける?」
「さあ………それより制服がボロボロです。新しいのを申請しましょう。替えはあるでしょうから、今日の授業ではそれを着なさい」
「はーい」
「今日は家庭科の授業がありましたね、忘れ物をしないように」
「!」
ママはやっぱり優しい。この服、捨てるしかないと思っていたけど、ナイフと本が入るぐらいのナップサックぐらいなら作れそうだわ。
オーバースカートだから元から布は円になっているし、両端の加工ぐらいならあたしにもできそう!早く部屋に帰って、朝までに作らないと!
寝る気?0よ!あたしは強化人間なんだもの!
♦♦♦
やっぱり休みの日。あたしは学生課に来ていた。
前回ひどい目にあったけど、物を選べば大丈夫………なはず。
背中には不格好なナップサック。本と、大きなナイフが入っている
今回は、受付さんに気になる事は先に聞いておく事にした。
いくつか確認して、無理ね、と思ったところで気になるのが目に入った。
東地区の壁際、荒野にある小屋に届け物をして下さい。依頼人:学生課
これは良いかもしれない。学生課の人に危険ではないか確認してみる。
「危険ではないですよ。年老いたクラウトへの届け物です」
「じゃあ受けます」
「あなたが?」
そう言って彼女は「学生名簿」というやつをぺらぺらめくり。
「うん、あなたなら持って行けそうね」
「はい?」
シスターが引きずり出してきたのは、凄く重そうな袋だった。
「建築資材でも入ってるの?」
「いいえ、特殊な機械にガタが来たから、取り換えの部品なの。慎重に扱ってね」
あたしはそれを持ち上げる。
それは5年生でも持ち上がらないだろうというぐらい重かった。
「うん、さすがね、任せたわよ」
「えぇ………」
背中のシュールとエイーラがけらけら笑っている。
((甘かったですね、フラン))
((まさかそんなに重いとはね、あはは))
「あははは、笑うしかないわねえ。どうせどれ選んでも落とし穴があるのね」
((自分で笑うとは、見上げた根性ですね))
「だって笑うしかないじゃない?自分で選んだんだもの。他人に押し付けられたなら怒るけどね。あははは!」
やけになってるのか?いいえ、清々しく笑っているわよ?変?ほっといて。
あたしはえっちらおっちら―――今度は夜にならないように―――根性を入れて運んでいく。その先は草一本生えてない荒野だ。モンスターすらいやしない。
そんな荒野の真ん中に平屋の一軒家ぐらいの小屋が立っている。
匂う、匂うわ、かぐわしい香りが。
そう、人肉の香りよ。
あたしは足を速めた。
コンコン。
「あのー。生徒課から、修理機材のお届けです」
「入れ」
「はーい」
中に入った時、あたしの目はハートになっていたに違いない。
小屋の左半分には大きな機械があり、それは人肉を引き潰し、押しつぶして他の場所へ運んでいくようだ。来ていた服はさっきの声の主であろう、赤いクラウトが回収している。そして、焼却炉に放り込んでいる。
「………気持ち悪くないのか?」
「まさか!凄く素敵!おいしそうだとも思うわ!これは何をしているの?」
「………そうか。これはな、この学園に忍び込もうとした奴の末路だ」
ああ―――あんな方法で生徒を取っていたら、怪しまれて当然かあ。
あたしは細かく確認しなかったけど、学園に入れたら2度と家族とは会えない、とか条件にあったようだし。そもそも卒業しない人いるもんねえ。
後で知ったけど「卒業しない人がいる」のは本当のことでも裏がある。
学園はダミーを作って対処していた、この学園を作った悪魔の力らしい。
「こうやって潰して、平たく伸ばしてひき肉かぁ。どうするの?これ」
「肥料にするのだ」
「食べないの?美味しそうなのに。この光景を見てるだけでもうっとりするけど………あ、頭蓋骨がクラッシュした音………素敵」
「頭皮の部分を除去しなくてはいけない、髪が機械に引っかかる………娘」
「な~に?」
「修理の機材を持ってきたと言っていたな、手伝うか?」
「手伝う!」
血で錆びた部品を、新しい部品に取り換える作業は、あたしにとって至福だった。
「ワシの名はバルバ。娘これからも時々手伝いに来るか?」
「来る!バルバ大好き―!あたしの名前はフランチェスカね!フランって呼んでね」
老(顔がしわくちゃなので、多分)クラウトは頬を手でかいた。
照れていたのかどうかは、定かじゃないわね。
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