第2話 シュールとの出会い
今日は、教科書を受け取りに行く日だ。
学園は一学年が2年なので、自然教科書の重みも増す。他の子、大丈夫かしら?
小さいので小走りのリンスと共に部屋を出ると、ローナが取り巻きと共に合流。
カーミラは、先に行って列整理をしている、マメな子だなあ。
「教科書、重いでしょうか」
「そう?大した事ないでしょ」
「みんながフランちゃんみたいにはできないよー」
「あたしは、それよりこの教科棟(勉強するとこ)と寮が離れてる事が気になるなぁ」
「へ?なんで?」
「んー。なんでもない。けど行き帰りの道は一人で歩かない方がいいよ」
講堂に集まっていた先輩たちの中に、魔女の気配を纏ってる人がいたから。
なんてこの子に今言っても理解できないだろうから。
いっぺん襲われてからでもぶっちゃけ話をしてあげよう。
「そうだね、カーミラがみんなを集めてその話をするんじゃないかな?」
「ああ、カーミラは音頭取りたがるところがあるもんね」
実際、教科書を貰い終わり、教室を見ておこうとカーミラの提案で、教室に来た。
「この学園は危険です、常に2人一組で行動した方がいいと思いますわ」
昨日講堂の儀式を見たばかりのクラスメイトだが、まだ危機感が足りないようだ。
「学校の中でしょ?大丈夫じゃない?」
こういうのが一番にやられるんだと思いながら、口を開く。
「カーミラは、みんなの事心配してるんだよ。昨日の事を覚えてるでしょ?」
「う………」
「だから念のために、ねっ?」
さいごの「ねっ?」はカーミラに向けてだ。あんたがまとめなさい。
「そう言う事ですわ。さあ、2人一組になって。ペアは変えても構いませんし、3~4人なら好きなようになさってくださいな」
カーミラがパンパンと手を叩くと、教室の中で小規模なグループができあがった。
どうも、部屋割りがそのまま反映されている所が多いようだ。
「では、グループごとにまとまって、寮に帰りますわよ」
ぞろぞろ歩いて、重い(らしい)教科書を持って帰る。
やはりといおうか「聖書」が一番重かった。
2週間以内に読破するよう言われているのもある意味で「重い」
そしてあたしたちが連れ立って帰るのを見ている眼差しを、その意味を。
あたしははっきり認識したのだった。
低学年はエモノなのだ―――
♦♦♦
1年がたち、クラスの人数は28人から24人に減った。
朝礼で「神の身元に行きました」と言われたので悪魔に捧げられて死んだか、生きたまま捧げられたか、どっちかだろう。クラスの結束感は増した。
というか、授業の後でカーミラがそれを促したのだ。
カーミラ一人では反発されるので、あたしもフォローに入った。
あたしも、所属するクラスが狩られるのはプライドに障るので協力するのだ。
結果、クラスの結束は増した。
聖書だが、あれは紅龍様をひたすら賛美する内容だった。
もちろん、基礎の魔女術は抑えてあったが、ほかは讃美歌とか。
だが、あたしは「紅龍様 賛美」が嫌ではなかった。
凄い実力主義で、血生臭くて、純粋に悪魔らしい。
フェニックスの姿をしており、炎が賛美される。
そして紋章は彼岸花。紅龍様の好きな花らしい。
要は、あたしの好みだったのである。多分魔帝陛下を奉じるよりも。
あたしは紅龍様の魔女になろうと決めたのである。
♦♦♦
さらに半年がたち、クラスの人数は24人から23人に減った。
あたしも正直、殺戮衝動が抑えがたい所まで来ているのだが、何とか我慢する。
先輩たちのように魔女になれれば、獲物を獲る事で発散できるだろうか、はあ。
クラスの結束を深めつつ、あたしとリンスは新しい事をしてみる気になった。
図書館というものがある事を、教科担当のシスターから聞いたのである。
本好きのリンスにねだられて、あたしも図書館に行く事にしたのだ。
巨大な図書館は、読書エリアと本棚エリアに分かれていた。
そして漂う、わずかな瘴気。
下手な本を開けない方がいいわね―――
そう思いつつ、魔女学の本を選ぶ、うん、これは大丈夫そう。
と、思ったら、リンスがまずい本に手を出していた。民話の本だ。
リンスが開けると、中から手が出て来て―――バキッ
今のはあたしが出て来た手をへし折った音よ。なんだ、大したことないじゃない。
「ちょっと、全身出てくる気なら相手になるわよ」
リンスの前に回り込んだあたしの台詞である。
悪魔としてのプライドを傷つけられたのか、そのまま出てくる下級悪魔。
あたしはそいつの全身の骨をへし折ってから本の中に突っ込んだ。入った。
ぱたんと本を閉じ、あたしはリンスに
「こういうことがあるから、あたしに確認しないで本を開けちゃダメ」
と、忠告した。こくこくこくと壊れたのかなと思うぐらい首を縦に振るリンス。
このあとは、選んだ本を持って読書エリアに集合と言う事になった。
ちなみに本は借りておける期限は1年とかなり長い。
借りられてる最中の本を巡ってのいざこざもありそうね。
翌日。リンスを伴わないで―――部屋まで送って―――あたしは図書館に来た。
昨日のような、悪魔を宿す本を見つけるためだ。
それも、昨日みたいな話の分からない下級悪魔じゃない奴を。
図書館の奥で、無数の扉が本棚の間に並んでいるエリアが、本能を刺激する。
扉を開けてはいけない。やはり本能が警鐘を鳴らす。では、本なら?
あたしは誰も取らなさそうな、隅っこの本棚から1冊本を引っ張り出した。
タイトルもない、飾りもない。取ってもらう気あるのかという一冊。
これはあたしにとって、まさに悪魔からの贈り物になった。
((私を持ちました?私を持ちました?私を持ちましたねーっ!?))
悪魔は『念話』で話しかけてきた。実際喋るのではなく心で喋るのだ。
((そうよ、私はフランチェスカ。フランって呼んでね」))
念話ぐらいは、あたしだって使える。
((フラン!私は引退淫魔領所属、最上級悪魔、名をシュールと申します!))
((えっ!凄い人引き当てた!?いいの?あたしが借りても!?))
ここで魔界の作りを紹介しておくね。
魔界の大地は魔帝陛下の体でできている。形は膨らみ気味のひし形って感じ。
その中央にある円形の台地が、8等分されてて、魔帝領(傲魔領)、海魔領、淫魔領、蟲魔領、賢魔領、権魔領(金魔領)、夢魔領、戦魔領とケーキ状に分かれてる。
その円形の外は「引退悪魔」達の住処だ。
一定の年月を過ごしたか、魔帝に貢献あったと認められたものの呼び名。
それ等が住む領地は、引退アスタロト領、引退ベールゼブブ領、引退ルキフェル領、そして引退淫魔領に分かれる。
シュールの引退淫魔領、最上級ですっていう宣言。
これは、わたしの能力、引退魔王さまの一歩手前ですぅー、というのに等しい。
「それ、魔帝陛下に誓って本当?」
((疑うとは嘆かわしい、今この身に浴びている月の魔力に誓って本当ですとも!))
あたしが動揺している間にシュールは次の言葉を続ける。
((引きこもりですけどね))
と―――
どういうことか聞いてみると、シュールは能力の暴走を抑えられない体質らしい。
その能力とは「周囲を全て「発情期」にすること」だ。
花は狂い咲き、獣は交尾を始める。その対象は人間、天使、悪魔関係ない。
というか人間、天使、悪魔はシュールを「恋」の対象としてしまう。
しかも叶わない恋だと知っているので、思い詰めて最後には自殺するのだとか。
それで、引退アスモデウスさまから、定位置から動くな、物と人を避難させる!
と宣告、お叱りを頂いて―――引きこもりのボッチというわけだ。
というわけで、お喋りの相手は喉から手が出るほど欲しい。
魔力の末端たる、自分の召喚方法が書かれた本とつながっただけの小娘でもだ。
というか、自分を召喚しただけでも暴走する能力に巻き込まれて、シュールに恋しかねないので、召喚したがる人などいないだろうとシュールは笑う。
と、言う訳で、あたしは色々アドバイスしてくれる便利な(?)本を手に入れた。
最初に教えてくれたのは、本来シュールみたいな召喚の書は、特待生に昇格しないと持てないという事だ。本はその悪魔を呼びだす時の優れた媒体にもなるらしい。
今回のあたしの所持は、シュールの方でごねて押し通すと言っている。
「よほど話し相手が欲しかったのね。でももっと見つかりやすい場所にいれば?」
「普通の子供の相手なんてしませんよ。あなたは子供だけど、合格です」
「何が?」
「度胸でしょうね」
「ふぅーん?まあいいわ特待生について教えてよ」
特待生は、学校の方から一方的に優れた学生を認定してくる。
ので、それでなるというものが単純に普通だ。
だけど条件は色々あるので、それを教えてくれるという。
一つ目。学園の外周には色々なエリアがある。
そこを攻略することでポイントを稼ぐ、というものだ。
ただし絶対に学園の壁に近寄ってはダメ、200mは間を開けろという事だった。
二つ目は当然だが教科でいい点数をとる、というもの。
「ちゃんと勉強してたら私がヒントをあげますよ。ちゃんと勉強してたらね」
言われなくても、ちゃんとやってるもん!
そして三つ目は、シスターを選ぶ事。だった。
なんでもこの学園のシスターは魔帝領をのぞく各領地の術に精通しており、特待生という名の弟子を取るのだそうだ。まだ特待生でなくても、面倒は見てくれる。
シスター選びは、この学園生活を送るうえで必須、だということだった。
最後に注意、学園の外に通じる門には近寄るな。
理由は、ガーゴイルからもっとすごいものまで配置されているから。
脱走防止と侵入防止らしい。
ま、あたしに選ぶことができるのは、一つ目と二つ目かな。
一つ目はリンスを置いて行かなきゃいけないのが不安だけど………
明日からは学生鞄にシュールも入れて。
とりあえず、勉強に励むとしましょーか!
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