魔女フランチェスカの半生
フランチェスカ
第1話 死の香りと、差し伸べられた手
あたしは水を飲むために、小川に自分自身を映す。
手入れの行き届いた、波打つブロンド。つぶらな青い瞳。
動きやすいなめし皮製の、可愛い洋服。色は目に合わせて青。
自分で言っちゃうけど、7歳の美少女が水面にいた。
あたしは自分の姿に満足すると水を飲み、軽く顔を洗って気を引き締めた。
汚れを落とす『生活魔法:ウォッシュ』は使える。
けど、水で落とせない時しか使わないようにしている。魔力の節約のためだ。
あたしは周囲をぐるっと見回す。
あたしは高台の水場に立っているけれど周囲はいくつか高台が見える程度。
で、他は森!森!森!………なのだ。見渡す限り森。
一番高い岩山にあたしの家は建っているけど、あたしは時々しか帰らない。
なんでかって?この森に入って来る侵入者を狩るのがあたしの仕事だから。
普段は森の中で生活しているのよ。
あたしは強化人間なの。ママが産み落としてすぐ強化手術を受けた。
いくつかの実験によって、強化以外の強力な能力も与えられた。
それは全て、自分たち夫婦の道具にあたしをするため。
でもあたしはそれが嫌ではなかった。
だって、役割を果たしていればパパとママは優しくしてくれるもの。
あたしはパパとママとそういう契約をしたものだと納得していた。
さて、あたしは今日も仕事をしていた。
森に薬草を摘みに入って来た女が標的だ。
あたしは森の各所に設けられている滑車を使って、シャー、とそこまで移動する。
急に降り立ったあたしを、一瞬引きつった表情で見た女は安心した目になる。
「おじょうちゃん、この森は化け物が出るのよ、早く出て行きなさい」
「早く出て行くのはあんたでしょ?化け物は私の事よ?」
「えっ?」
「
素手で引き裂いても良かったんだけど、気まぐれで特殊能力を使ってみる。
この能力は見えない爆弾を作り出す能力だ。個数は問わない。威力も自由自在。
それも「
他にも二つ、あたしには能力が付与されている。
さて、標的は、腹。
そこなら長く苦しむ姿を堪能できるから。
女は腹を爆発で抉られて転倒してから、最初、叫んだり命乞いをしたりしていた。
逃げる体力まで奪っちゃったのは誤算だったなあ。
病気の妹がいるとか、情に訴えたりもしてきた。
いいなぁ、その態度。ぞくぞくしちゃう。だから殺人はやめられない。
悲鳴も、命乞いも、あたしにとっては単なる綺麗な音楽。
そろそろ1時間か………時々蹴って音を出していたんだけど。
音が悪くなってきたなあ………
腹に手を突っ込んでかき回してやると、音楽は悲鳴の形で復活した。
まあ、それもしばらくしか持たないんだけど。
目の前の音楽プレイヤーは、あたしの食事にもなるのだ。
あたしは、あんまり頻繁に食べなくても生きていける。
そう作られているのだ。だからこのたまの食事をとっても楽しみにしている。
それにあたしの味覚に合うのだ、この
♦♦♦
それから1週間ぐらい。ふとパパもママもあたしに用事を頼まないなあ?と思う。
様子を見に行くべきだろうか?それとも余計なお世話?
違う違う、あたしがどうしたいか、が考えるべきことだわ。
よし、様子を見に行きたい。だから行く。
登り方向でも進む魔法の滑車が1本あるので、それで近くまで戻り、後は歩く。
家に到着した。すでに血の匂いがしている………
あたしは血の臭いを嗅ぎ分けられる。パパとママの血の臭いだ。
十中八九、パパとママを殺したのは、パパとママが召喚した悪魔の仕業だろう。
だっていつもより瘴気が濃いもの。
多分、召喚の失敗か、家の各所に配置してある悪魔の反乱だろう。
あたしは対抗できるだろうか?悪魔に勝てる?
たぶん、なんとかなる………ここを解放しないとあたしの培養ポッドが使えない。
使えないと、いずれ体の調節が狂って死んでしまうのだから仕方がない。
足を踏み入れようとした時、肩に手を置かれた。
ゾクッとした―――気配を感じなかったからだ。
バックステップで距離を取りつつ、振り返る。
「あんた誰!?」
「あなたを引き取りに来たリコリス学園のシスターです」
シスター?っていうの?た?
「………?どういうことか、あたしにも分かるように説明してよ」
「あなたの両親が死んだことを、お抱えの呪術師から知ったあなたの親族が、あなたを学園に入れることを決定したのですよ」
「………要は、その親族とやらはあたしを厄介払いしたいのね?」
「さあ………それは私の口からは何とも」
「言ってるじゃない」
………あたしは考えて口を開いた。
「パパとママが死んだ以上、親権はその親族にあるのよね」
「賢くて助かりますね」
「難しい事はよく理解してないわよ。それがあれば、私を悪魔に売り渡せるってことぐらいしか。もしくは魔女に」
「ええ、この場合魔女で間違っていません」
「あたしを連れて行くの?」
「はい、連れて行った先で、紅龍様に身を捧げる儀式をしてもらいます」
紅龍。その名前を聞いて、あたしは魔界の成り立ちを思い浮かべる。
頂点は魔帝、その下がその王子王女。紅龍とは第四王子のはずだ。
熱狂的なシンパがいる事で有名な王子だけど、人界に進出して来たのね。
その下は七大魔王と、74大魔王ね。
魔界の詳しい仕組みは、また機会があったら教えるわね。
とにかく、連れていかれる先は、珍しい魔女の派閥の学園。
魔帝でなく紅龍王子を奉じる魔女の集団らしい。
多分珍しい、はず。
「わかった、ついて行くわ、生きるのにそれ以外の選択肢はなさそうだし」
「賢明な選択だと思いますよ」
「私の体の調節はしてもらえるの?シスターさん、あなたの名前は?」
「体の事は誰かシスターに声をかけなさい。私はシスタークレアです」
「わかったわ、シスタークレア………」
♦♦♦
あたしは、大きなホテル?っていうのかしら?に他の子と一緒に宿泊していた。
全員同年代の女の子だ。男でも魔女はいるんだけどなぁ?パパみたいに。
どいつもこいつもガキね。不安そうにその辺をうろついている。
部屋から出てきてないらしい子もいるわね。
あ、外で他の子と遊んでいる子達がいる、何だか丸い遊具を蹴って、取り合って、線を引いた先に入れれば勝ちみたい。興味があるわ、行ってみよう!
先に遊んでた子たちに「まぜてー!」と勢い良く声をかける。
「いいよーおいでー」
「こっちのチームが足りなかったのですわ、こっちへ来てくださらない」
「いいよ!ルールは?」
と聞くとこっちのチームへと言った娘から「サッカー」のルールを教えて貰った。
ボールを爆散させたらまずいかと聞く。
するとと、ジト目でダメに決まってるでしょうと言われた。
ボールで皆を集めて「サッカー」を始めたのはこの子のようだ。
お淑やかそうな外見―――長い紫の髪、紫の瞳、白い肌―――なのに意外ね。
それと、ボールを爆散させないように蹴るのは少し難しそうね。
「ボールは一点ものなのね」
「一点ものではなくても、爆散させてはダメなのですわ」
「うん、分かった。あたしフランチェスカ。あんたは?」
「カーミラと申します」
「よっし、じゃあサッカー混ぜてくれてありがと、勝とうね!」
「勿論ですわ」
ボールの扱いに苦戦したけど、結局は勝つことができた。
「「「あなたすごいねー!」」」
「あなたじゃなくてフランチェスカ。フランって呼んでね!」
「私はローラだ」
名乗ったのは、ボーイッシュな子だ。金髪ショートに碧眼。とても大人びている。
それを皮切りにサッカーをやっていた面々が名乗る。
うん、多分全員覚えられたと思うんだけどな。
♦♦♦
あたしたちは、全員集められて着替えさせられた。
この学園の制服、というやつらしい。
暗紅色のワンピースで、その下に着るワンピースは薄いピンクだ。
まあね、悪魔を奉じる学園なら、制服に白を使う訳ないわよね。
あたしたちは講堂の舞台の舞台袖に連れていかれた。
講堂には上級生たちが整列して聖歌(らしきもの)を歌っている。
皆、熱狂的に歌っていて、熱気が講堂を渦巻いている。
舞台袖から中央まで行き、学園長の質問に「誓います」と応えるよう強制された。
いいけど、この雰囲気じゃ中央まで行けない子もいるんじゃないかしら?
質問はこうだ。
「尊いお方、主に永遠に仕えると誓いますか?」
これだけ。
でも、これは悪魔に永遠に魂を売り渡すということだ。
「誓います」と言うか言わないか、選択肢は2択のようで1択。
あまりにぐずりだして、収拾のつかなくなった娘に、学園長が銃を突きつける。
保護者にこの学園に売り渡されていた時点で、もう魂は魔女のもの。
ここでダメだと思ったものは、早めに捧げるとしよう―――ということだろう。
舞台の上で、炎の花が咲き、少女のこめかみから血があふれ出した。
ううん、とっても食欲がそそられるけど我慢だ我慢。
あたしは一応普通の食事からもエネルギーは補給できるのだから。
あたしの番だ。独特の雰囲気だけど、大丈夫。
「尊いお方、主に永遠に仕えると誓いますか?」
「誓います」
カーテシーをして、反対側の袖に引っ込む。これで悪魔との契約、終了。
2人程銃殺されて、他の子もほとんど泣いている。
泣いてないのは―――すでに知り合いなのは「カーミラ」「ローラ」
他の面子に声をかけてみる。
一人は「メーベリー」長い黒髪と黒い瞳。こんな局面でも冷静さを保っている。
「このぐらい………冷静さを無くしたら死ぬと思ったから」
暗い顔をする。まああたしみたいに明るいのが変なのか。
他は「シャギー」灰色の短髪に緑の瞳。
「何この雰囲気、異常だよね、てか2人死んだよね」
「死んだねー」
「普通に言うお前も異常、ふははっ」
笑い合って、周囲の他の面子に変な目で見られた。
後異常な子もいる。ギルマンみたいな顔とウロコに包まれた体。
お世辞にも綺麗とはいえないけど、彼女(たぶん)も動揺してなかった。
名前を聞いたら、たどたどしく「ユフィカ」と答えたわ。
そこからあたしたちは、これから2年を過ごす寮に入れられた。
学園は10年制で、1学年は2年だとカーミラが教えてくれた。
「よく知ってるね?」
「情報収集を怠らないだけですわ」
ツンツンしてるけど、あたしこの子好きかも。意外と律儀だし。
学園の量の部屋は3人部屋で、奥からカーミラ、リンス、あたし。
リンスというのは………なんかトロイ子だ。よくドジっている。
そしてあたしはそれを放っておけなかった。
何かにつけて世話を焼いてしまう、自分の新たな面を見た思いだった。
とにかく、この呪われた学園生活は始まったのだ。
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