故ノ贄・神霊旅館

 ジブ〇の【千と千〇の神隠し】を知らない人はほとんどいないのでは無いかと思うんだけどさ。その日見た夢は、あのアニメを彷彿とさせるものだったんだよ。

 って言うのも、夢で私は泊った旅館(職場)の前に立って居たんだけど番頭が人間じゃなく鬼だったのね。赤鬼と青鬼が、旅館の名が入った羽織着て立ってたの。

 怖いと言うよりも奇妙な光景だった。戸惑っている私に青鬼が声を掛けて来てさ。


「初めまして。本日より、こちらに務められるのですよね ? 

 差し当たって、わたくしたちの主人からあなた様にお伝えしたい事があり急遽こちらへとお呼び立てさせて頂いた次第でございます。突然の事で驚かれたでしょうが、どうかご容赦下さいませ」


 見た目、4~5メートルはありそうなガチムチで強面の真っ青な肌をした青鬼からは想像も出来ない様な礼儀正しい口調で言われもんだから拍子抜けしたんだけどさ。むしろ、心は落ち着きを取り戻したよね。

 敵意はないと解り安心したのもあったし……とは言え、幽霊や妖怪の中には時に油断させておいて襲ってくる者もいるのでね。もし皆さんが似た様な経験をする事があったら(早々あってたまるか)、自分の直感を信じて少しでも違和感など感じたら即座に逃げる事をお勧めする。

 その後、私は青鬼の案内で9階へと通された。けど、実際の勤め先である旅館に9階は存在しないんだよね。

 実際には、8階までだったよ。その時点で逃げる人は逃げるかもだけど、私は私の直感を信じて着いて行った。

 そんで、9階へ着くと湯婆〇……ではなく。仙人の様な出で立ちの初老の男性が、私を待ってたの。


「お待ちしておりました。当旅館の裏主人でございます」

「裏主人 ? 」

「はい。こちらの旅館はですね。

 立地の関係で古くより、全国の神様方をお招きし日ごろの疲れをとって頂く場所なのでございます。霊感の薄い人間たちには、普通の旅館にしか視えませんがね。

 人の泊まっていない部屋は神様方がお泊り下さっているのです。最近では、神様だけでなく……妖怪や精霊など多岐に渡り様々な方が利用して下さっています」

「そうなんですね……」

「ええ。それで、今回あなた様をお呼び立てしたした理由なのですがね。

 先ほど申し上げた通り、この旅館は人ならざる方が多く宿泊されます。なので、あなた様の様な人は影響を受けやすいと思いご忠告の為にお呼びいたしました」

「なるほど ? 」

「あなた様には、位の高い神様の加護が付いていますね。強い加護を持つと言う事は、それだけ特別と言う事……誰でも特別なモノには興味関心を惹かれますからね」

「……」

「とは言え、あなた様に手を出すと言う事は……加護を与えている神様に喧嘩を売るに等しい行為です。早々、そんな命知らずはいないとは思いますが万が一の可能性を捨てきれませんでしたので」

「……ご忠告ありがとうございます。私、この地にはどれだけ居れるか解りませんが十分に気を付けますね」


 そう答えると同時に目が覚めてさ。私は思ったんだ。

 どうせなら、向こうの温泉にも入りたかったなと……冗談はさておき、それから怒涛の2ヵ月が過ぎ去った。先に述べた通り、私の精神は日々の激務とお局様方により削りつくされ3ヵ月目に突入してすぐ家庭の事情と言う事で無理やり辞める事に。

 そこからの1カ月もなかなかしんどかったけどね。思い出したくないんで割愛する。

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