故ノ贄・神霊旅館

 うちの両親は私が高校3年生の頃に離婚しててね。弟たちと共に母と暮らしていたんだ。

 そう言う経緯もあって、私は20歳過ぎても1人暮らしの経験がなかったんだよ。意気地なしで親元離れるのが怖かったんだよね。

 でもさ。そんな私が、闇夜さんに出会って数か月後にリゾートバイトで北海道へと行く事を決意したんだ。


 私は、闇夜さんと一緒に居ると決めた時にこの命が今日明日に尽きたとしても良いって本気で思ったんだよ。だからこそ、それならば怖いモノなど何もないと思いきる事が出来た訳なんだが。

 そして、北海道にある寮付きの旅館で3ヵ月働いた。本当は、2~3年は居るつもりだったのだがお局様に負けてしまったんだ。

 働き始めて2カ月経つか経たない頃に、エレベーターで二人っきりになった際。


「私が怖いか ? 」


 とお局様に満面の笑みで聞かれたの。正直に言う、怖いに決まってるだろ鬼ば〇ぁ。

 この職種は未経験の初心者と派遣元から話も言っている筈なのに、出来た事より出来ない事を毎日毎日注意され陰口も叩かれたらそりゃそう思うわ。仲良くなった人に、話の流れで少し霊感があると言ったのも良くなかったんだとは思う。

 その事も散々馬鹿にされたし。仕事には直接関係の無い事なのだから、ほっといて欲しかったが……人と言うものは他人の粗を探すのを生き甲斐とする者も少なからずいる。

 その事を失念していた自分の落ち度だと最後の方は諦めてたけどさ。2ヵ月経つか経たないかで、自分たちと同レベルの出来を求めるなや。

 とは、今でも思う。まぁ、そんなこんなあって元いじめられっ子の私には耐えられる職場環境では無かったんだわ。

 だが、北海道と職場だった旅館と周囲の観光名所は今も気に入っていてまた行きたいなと密かに思ってはいる。お局様が居なくなった頃にでも泊まりに行きたいな。

 酷い人は、お局様ばかりでは無かったけど……


 今回は、その職場で体験した不思議な話をしようと思う。事の始まりは、私が北海道へと到着した1日目の夜に起こった。

 昼のうちに旅館に到着し、上司や同僚の皆さんに挨拶すると最初の3日はまずこの辺りになれる為にもゆっくり休んでくれと言われ初出勤は4日後と言う事になったんだ。そして、初日なんだけどね。

 寮の部屋が私の来るギリギリまで人が居た為にまだ準備中だからって、旅館の一室に泊まる事になったんだよ。こちらの所為なのでと、宿泊費は無料。

 夕食は出なかったけど、朝食のバイキング券を貰った。温泉に入って部屋に戻ると私は長旅の疲れとこれから始まる新生活への期待で、すぐさま深い眠りに落ちたんだ。

 この時が、一番幸せだったなぁ。


 休憩中にスマホを弄るなと言われ休憩の意味を問いたくなった事もある。おかげで、今の職場での休憩も最初スマホを弄る事を躊躇してしまった程だ。

 だが今の職場の上司は常識的な優しい方で、休憩は心を休める為にも自由にして良いと言ってくれたので心置きなくスマホを見れている。ちなみに、旅館に居た頃よりも休憩時間は短いけど、心の補充が十分に出来るので仕事に対する意欲は今の方がある。


 とまぁ、愚痴はこの辺にして本題に戻ろう。眠った私は、夢を見た。

 人は、寝ている時が一番無防備だからなのかね。闇夜さんに出会ってから霊感の感度が上がった私は、夢で神様や怪異に凸される事が多かったんだ。

 前に話した【樹海の夢】や【迷路の夢】みたいな感じで。カチコミに来るなら、せめて起きてる時に来いと最初は思っていたけど……今ではそんなに大差ないなと半ば諦めている。

 寧ろ、夢でなら時間を無駄にしないし良いかとさえ思う今日この頃。

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