肆ノ縁・奇妙な夢(下)

 それから、3日が経って私はまた奇妙な夢を見た。真っ暗な迷路の中、ずっと何かに追い掛けられる夢だ。

 何に追われているのかは、解らなかったけど…………捕まってはいけない事だけは、何となく解っていて必死に逃げていた。その夢も【樹海の夢】同様に裸足だったのは何か意味があるのだろうか。

 そして、やはり足裏から伝わる床の感触が凄くリアルだったの覚えてる。夢は、一週間も続いた。

 でも、見るのは夜だけだったんだよね。だから、昼寝をする事で睡眠不足になる事は避けられていたんだ。


 そんで、6日目の昼に眠っている時。その時に見た夢が、これまた不思議でね。

 何も無い真っ白な空間で、闇夜さんと2人きりでお茶をしてたんだ。


 因みに、私は北東北で闇夜さんは関東方面に在住。その為、未だ直接会った事はない。


「変な夢を見る所為せいで、まともに寝れないよ……本当に何なの ? もう、やだ〜……」

「ふ〜ん……」

「もう少し、興味を持てよ ! 」


 余りに素っ気ない態度だったので、思わずツッコむ夢の私。だけど、実際こんな会話をしてたとしても当時の私は闇夜さんにツッコんだり出来なかったと思う。

 すると、急に闇夜さんが真剣な顔付きになってね。


「…………絶対に捕まんなよ」

「うん……解ってる」


 目が覚めた時、凄く安心している自分が居た。そして、夜になる。

 何時いつにも増して、強力な眠気に襲われた。その日の夢は、最悪な始まり方だったよ。

 だって、曲がった先が行き止まりだったんだからね。「……やばい」そう思って引き返そうとしたけど、時既に遅かった。

 何かが、私の後を追って角の向こうからこちらへ向かって来ていたからね。パッと見の感想としては、昔ゲゲゲの〇太郎に出ていた【ベアード】って西洋妖怪のボスに似ていたな。

 黒くて丸い球体の中心に大きい目玉が1つ……でも、良く見るとその球体は黒く塗りつぶされた人の集合体だったんだ。体が捻じれて絡み合いくっつき合っている……凄くおぞましかったよ。


 そいつは、私の腕を掴むと引き寄せながら


『ホシい……ほしィ……、…………ほしい ! 』


 そう繰り返し呟いてた。逃げ様にも金縛りで、身体がピクリとも動かせなくてね。


 「……〈あ、私……ここで、死ぬんだ〉」


 一瞬、本気で死を覚悟して目を閉じた。でも、次の瞬間。

 誰かに後ろから思い切り引っ張られて、気が付くと私は床に尻もちをつく形で座っていたんだ。目の前に視線をやると、ベアードと私の間に着物姿の男性が立ちはだかっていた。

 その背中を見た瞬間。私は直ぐに、七五三で出会ったお面の男性を思い出した。

 不思議なんだけど、この体験をするまで私は神隠しに遭った事自体忘れてたんだよね。


「去れ。二度と、俺の前にその醜い姿を見せるな」


 お面の男性がそう告げた瞬間。ベアードが断末魔の叫びを上げて霧散したんだ。

 あの断末魔は、未だに忘れない。だって、1人の声ではなく大勢の老若男女の声が幾つも混じり合った様な不気味な断末魔だったのだから。

 そして、ベアードが消えるとお面の男性は私の方へやって来て頭を撫でてくれた。


「だから、捕まんなって行ったろ ? ……ようやく見付けたのに、もう居なくならないでくれよ。

 また探すのは、面倒臭いんだからな」

「……うん。ありがとう」


 目が覚めて直ぐ、私は闇夜さんに電話で話した。


「何で、言ってくれなかったの ? 」

「気づくのを、待ってた。……お前を信じたかったんだよ」

「……ありがと」

「別に」



 夢の中で聞いたお面の人の声は、幼稚園の時に私を少女の霊から救ってくれた男性の声と同じで……何よりも、今電話の向こうから聞こえてくる闇夜さんの声そのものだった。どこか、懐かしくて安心できる大好きな声。


 これからも、この声を聴いていられたら良いな。そんな風に思いながら、今日もまた彼に電話をかける。

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